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「まあ!エレノアそのように大声で泣き叫ぶなど……。あなたは皇太子妃になるのですよ?みっともなく泣くのはお止めなさいな!」
オフィーリアに抱き着いて泣いていると、騒ぎを聞いてかけつけてきたお母様から冷ややかな視線と言葉を浴びせられた。
私は条件反射でビクッと身体を震わせる。
「エレノア。あなたは決して人前では泣いてはなりません。侍女にすら泣き顔は見せてはいけません。厳しく教育したと思ったのに……。もっと教育にかける時間を増やさなければなりませんわね。」
お母様はため息交じりにそう言った。
「まあ。お母さまったら。エレノアお姉さまは十分すぎるほど勉強なされているわ。これ以上エレノアお姉さまに期待しないでくださいますか?私が、エレノアお姉さまに変わって皇太子妃になるんですもの。」
「オフィーリア。あなたまで私を困らせないで頂戴。私はね、オフィーリア。あなたには何不自由なく幸せになって欲しいのよ。皇太子妃になるのだけは反対だわ。オフィーリアが皇太子妃になったって幸せになんてなれないわ。重責に押しつぶされて萎れていくオフィーリアなんて見たくないわ。オフィーリア、あなたは幸せに笑っていて頂戴。」
「嫌よ。私は皇太子妃になって王妃になるの。この国の女性の頂点に立つのはエレノアお姉さまでなくて私よ。」
「皇太子妃になるのはエレノアよ。これだけは産まれた時から変わらないの。なんのために高い教育費をエレノアにかけたというの。それがすべて泡に消えてしまうのよ。オフィーリアはエレノアの分も幸せにならなければならないのよ?」
お母様の私に対するお怒りは、オフィーリアの発言ですっかり静まったようだ。
代わりにオフィーリアのことを心配そうに見つめ、オフィーリアに皇太子妃になろうとしないように説得している。
けれど、甘やかされて育ったオフィーリアが納得するはずもない。
自分の意見を押し通そうとする。
「私は皇太子妃になってこそ幸せになれるのよ。他は嫌よ。」
「オフィーリア……。まったく、エレノアがしっかりとしていないから、オフィーリアがこのようなことを言い出すのよ。エレノアがもっと皇太子妃らしくなってくれていれば……。明日からもっと厳しくしますからねっ!」
オフィーリアのことを説得できなかったお母様は、今度は私に矛先を向けた。
オフィーリアにはめっぽう弱いお母様だが、私には強気だ。
「……はい。」
お母様に逆らうことができない私はしぶしぶと頷いた。
「エレノアお姉さまっ!そこは反論なさってくださいませ!これ以上教育は不要だとおっしゃってください!これ以上エレノアお姉さまの自由を奪ったらエレノアお姉さまが壊れてしまいます!」
「エレノアはそのくらいでは壊れないわ。エレノアにはより完璧な皇太子妃になってもらわないと困るのよ。」
お母様に頭を下げた私をオフィーリアが声を荒げる。
オフィーリアのその言葉はどこか私のことを案じているような響きがあった。
でも、きっと私の気のせい。
私がお母様に逆らって皇太子妃らしくないおこないをすれば、私の代わりにオフィーリアを皇太子妃として自分がとって代われると思ったに違いない。
オフィーリアが私のことを気遣ってくれていると思ったのは、きっと、私の気のせい。
お母様とお父様に愛されて甘やかされて育った我が儘いっぱいのオフィーリアが私のことを気遣ってくれるだなんて、そんな都合の良い話はないだろう。
だから、気のせい。
結局、オフィーリアの意見はお母様には通らず、私は翌日から皇太子妃教育の時間を増やされてしまった。寝る時間を削って皇太子妃教育は行われた。
「エレノアお姉さま、ひどいクマよ。やっぱり私はエレノアお姉さまが皇太子妃になることは反対だわ。皇太子妃になることは諦めて、私に譲ってちょうだい。お母さまにもそう言ってちょうだい。お願いよ、エレノアお姉さま。」
翌日、寝不足で朝食の場に現れた私にオフィーリアはそうかすれた声で懇願してきた。




