序章
別口で投稿しようかと思いましたが、ややこしいので章分けすることにしました^^;
「取り付けましたよ、入国許可」
秘書官のロイ・スティングロッドは、分厚い眼鏡を押し上げる。
「ただし、正規ルートやないんで色々問題はありますけど」
そう報告するロイに、アルベティーヌ連合帝国皇太子、ジェイド・W・Aは、腕を組んだまま、机に脚をのせて座っていた。
美しい金色の髪と青い瞳を持つ、非常に端正な顔立ちの次期皇帝である。
「構わん。それで……?」
ジェイドが聞きたいのはその問題とやらではなく、もっと別のこと。
とある女のことだった。
ロイにもそれが分かっている。
「ああ、まあ、ちゃんと調べましたよ」
「もったいぶらずに早く言え」
ロイはこの情報を集めるのに、どれだけ手間を取ったか延々ジェイドに聞かせてやろうかと思ったが、思い直して深呼吸する。
彼女が姿を消してからと言うもの、いつも勝ち気だったジェイドが、どれほど気落ちしていたか知っているからだ。
現に今も、普段では考えられないほど真摯な眼差しをロイに向けている。
「今は市民衛生府にいてはるみたいです。非常に優秀な女医術師として、大勢の病人相手に、日々精力的に職務をこなされてるとか。要は……お元気みたいです」
「あれから二年か……。ルナ」
長すぎる空白期間。
「せやけど、どうしはるんです?」
「何のことだ」
「形式上、あなたはもう別の方と婚約されてるんですよ? それを今更ルナ様に会いに行ったって」
「俺の婚約者はルナだけだ。行くぞ」
「ちょ、ちょっと……!」
既に机の下に用意してあったトランクをロイに投げつけ、ジェイドはさっさと出て行く。
「ルナ……待ってろ」
二年ぶりに、夢にまで見た愛しい女に会える。
ジェイドははやる気持ちを抑えきれなかった。




