第五話 月夜のバトルロワイヤル⑥
新たなブックマークを頂けたので本日も投稿!!
ブックマークを付けて下さった方、誠に有難う御座います。
「・・・・…………ッ″! ガ″ ァ″ア″″″!!!!」
途切れて過去に飛んでいた不動尊の意識が 再び現在の肉体へと繋がり直す。
しかしその瞬間、 顔の右半分に筆舌尽くせぬ凄まじい激痛が走った。
苦悶に野田打ち回りそうになる身体を生涯かけて鍛え上げた鋼の精神力で押さえつけ、震える手で顔を触る。するとその半分は、もう目も頬も顎もないという程に潰れ完全に原型を失っていた。
そして更に、気絶している内に雨でも降ったのかと思っていた身体の下の水溜りが、全て自分の血だと気付く。
「ン″ン″ッ…ア″…………ケ、ィ…ア………ッ″ 」
右側の顎と歯が砕けて満足に言葉を発することも出来ない。
だが、自分が戦闘中侍の後ろより現れた石鎚に顔面を叩き潰され今まで気絶していたという現状に理解が追い付いた途端、彼は迷わず身体を起こした。
気絶していた中で思い出したのだ。自分が預かった名前、顔が潰れた程度では草臥る事許されないその不動尊という名の重みを。
そして残った左目で 自分達の力を示すべき敵を探す。
するとそう遠くない所に、此方へ背を向けて真二つに割れた死体を見下ろす人影を見付けた。
「…………ッ″!! アグゥアッ!! ガカ、ウッアグアアアッ!!」
そのまるで この場にもう敵など存在していないかの如き後ろ姿に、不動尊の名を預かった男は砕けた顎を無理に動かして獣の如く叫ぶ。
自分を見ろと、 自分達を見ろと、 お前の敵は確かに此処へ存在しているぞと力の限りに。
「 喧しい。死んだフリも出来ぬのか、馬鹿が」
「グゥッ……ガァァァアア″ア″ア″″ア″″″″ッ!!」
ヒュン ヒュンヒュヒュッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″……ズウォ″オ″ン″″″!!!!!!!!!!
背後より密かに不意を衝けば良いものを、彼は態々敵が振り返り焦点を自らに合わせるのを待ってから業『光影一体』を使用。二つの巨大手裏剣を更にその手中へ出現させる。
そして真正面から正々堂々と、その武器を投擲し侍へと攻撃を仕掛けた。
「……………ヴッ″! ウェオオ!!!!」
フオンッ! ズウォンッ! スウォオッ!!
顔の右半分に受けた傷が致命傷であるという確信、それは返って残りの命全てを炉へ配べる踏ん切りをその男に付けさせた。
全ては、不動尊の名に敗北の汚泥を塗らぬため。
彼は間髪入れず更に 両手の指間へ棒手裏剣を出現させ、ビジャビジャと顔から血を撒き散らしながら敵がいる方向へと投擲した。
「……………………………………………………ア″……ァ″…………」
そして 棒手裏剣が手より離れた直後、ガクンッと彼の膝が折れて倒れかかる。更には片目だけの視界へ、急激に靄が掛かり始めた。
本来であれば即死していない方がおかしな致命傷を受けた身体、それをまるで痙攣を繋ぐ様にして強引に動かしていた。
だがどうやら無理を押し通すのも、いい加減限界が訪れたらしい。
「 ッ″」
しかしその遠退いてゆく意識の中、視線の先に立つ雅の姿が、 一瞬自分達を醜い卑怯者と罵った侍達に映ったのだ。
「………………………ッァ″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″″ア″″ア″″ア″″″ア″″″″″!!!!!!!!!!」
すると次の瞬間 空っぽに成っていた筈の身体に、抜け出していった血液よりも熱いナニカが注がれたのである。
それはあの日、自分が師匠に殺され最後の不動尊と成ったあの日、この身を動かしていたのと全く同じ物。
認めさせろ自分達千剱岳の忍仙の実力を。 自分が真正面から侍を倒す事により卑怯者の汚名を着せられ死んでいった仲間達の名誉を取り返す。 あの時代に確かに彼らが存在していたのだという事実を胸に刻み込ませる。
自分には歴代の不動尊達と肩を並べられる様な実力は無い。そんな事は分かっている。
だけど、 生き様くらいは師匠から授かったこの名に恥じぬ男に成らなくちゃいけない。
機能停止の寸前で錯乱する脳が、福寿朗という男の根本にある言葉を滅茶苦茶に頭蓋骨の内で跳ね回らせる。
しかしその一言一言が彼の立ち続ける理由となり、彼を奮い立たせ、枯れた血を信念が埋めた。
……………………ヒュン ヒュン ヒュンヒュヒュヒュヒュヒュッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″ッ″″!!!!!!!!!!!!!
再び『光影一体』を発動し今度は己が保有していた全ての手裏剣を身体の周囲へと出現させた。
更にそれら全てへと業『恥無皆道』を使用し高速回転を加え 巨大な風切り音が聴覚を埋めてゆく。
そして全身を投げ出すように空を掻き、己の魂を乗せて、全ての手裏剣を一斉に前方の侍目掛けて解き放ったのだ。
ズ″″ッ ウ″ォ″オ″″オ″″オ″″オ″″″″ン″″″″″″!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
持ち得る全ての武器を使いきった波状攻撃。
今敵の視界は、闇を切り裂き迫りくる数無数の凶器達で埋め尽くされている筈だ。
避けられる筈が無い。卑怯者と忍を下に見て どれ程手柄を上げようとも自分達の実力を認めようともしなかった侍なんぞに。
きっと今頃に成って その脅威に気付いているのだろう。無数の刃に成す術なく全身を切り刻まれる激痛の中で 己の愚かさを知るのであろう。
それまでは絶対に倒れない。奴が自分を、千剱岳の忍仙を見るまでは絶対にッ
「 いや、中々危なかった。警戒して保険を用意しておいた甲斐が合ったわい」
「 ッ″!?」
身体の直ぐ横から、そう声がした。
即座に 声の方向へとまだ辛うじて見える左目を動かして視線を送る。
すると其処には地面に突き刺さった短刀が。そして更に、それを握って引き抜いたひとか
ドス″ス″スッ″″!!!!
その光景が示す彼にとって絶望的な意味。
それを忍が理解するよりも早く、侍はもう既に決着の動きを作り終えていた。
素早く数度、なにか冷たい物体が胸の中に出入りする感触。と同時に無意識下で保たれていた全身の力みがフッと消え、背中に硬い衝撃を覚えたのである。
ドサァ ッ……
冷ややかで美しい月と敵の瞳が、 遂に地へ伏した自分を見下ろしている。
それはこれ以上無いほど明確に示された己の死であり、 完膚無きまでの己の敗北。
「………………………………………………………………………………………アァッ…ッ……ァ?」
だがしかしそんな中彼は、気が付けば余りにも自然に 自からを殺したその侍へと話し掛けていたのである。
「 そうじゃ、お前なら立ち上がってくるかもと思ってな。背を見せて誘い一気に仕留めるつもりだったが…まさかそっちの方から振り向けと言われるとは。流石に面食らったッ」
そしてそれに対し雅も まるで当たり前の如く今さっきまで殺し合っていた相手の言葉に 口へ耳を近付けつつ答えたのであった。
「……ァッ………ッ…ッ…………」
「ハハッ、お前も馬鹿じゃな。勝ちに貴も賤もないだろうに、まあこういう馬鹿は嫌いではないが」
「……………ッ……ッ………………ッ」
「フンッ、言われるまでも無い。ワシは強者は忘れぬ性分じゃ。幸いここでは死んでも何処かで蘇らせられる、故に何度でも本気で殺し合える。精々復讐しに来い」
「……………………ッ」
「それは何の礼じゃ? ワシは敵じゃぞ、お前もワシと同じ武に生きる者なら罵倒の一つでも吐いていけ」
「………………………」
「……………………………チッ、死んだか」
数多の人を手に掛け鼻が覚えた死の匂い。それに雅は舌打ち一つを手向けとして再び歩き始める。
次の獲物を探しに行くのだ。
そして、残されたのは顔半分が潰れた骸。
彼はその残ったもう半分に何とも満足そうな笑顔を浮かべ、いつまでもいつまでも 地獄の夜空を仰ぎ見ていたのであった。
歴代の不動尊は、皆悉く無間地獄へと落ちています。
今後物語に登場する…かも…………?




