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元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?  作者: 紅葉ももな
レイス王国騒乱編

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二日酔いと香油と美女

 頭痛がする、絶対に昨晩飲み過ぎたのだ。


 痛む頭を抑えて小さく呻けば、側に控えたロンダークに飲み過ぎですと小言を言われ、ゼスト殿には心配された。


 明らかに私より酒量を取っていた筈のアールベルトは何事も無かった様子で微笑みを浮かべ、正装を纏い双太陽神教の大司教を示す、青い司教服を身に纏ったアンナローズ大司教から、王太子としての祝福を受けている。


 初めて会ってから十年以上経っているにも関わらず、アンナローズ様の美貌は陰る事なく、それどころか威厳が追加されたようだ。


 アールベルトはあの量の酒をどうやって消化してるんだ……二日酔いにならないってどんな肝臓してるんだよ、酒豪も良いところじゃないか、ザルどころか枠なんじゃないか?


 立太子式にふさわしく大輪の花や緞帳などで飾り付けられた式場には、正装を纏った多くの紳士淑女が詰めかけており、とても華やかだ。


 昨日は全身ピンク色のドレスを着ていたナターシャ姫は、快晴の空を思い出させる水色のドレスで兄の勇姿を一心に見つめている。


 よく見れば、今にもアールベルトの元まで駆け出しそうなナターシャ姫のドレスの背中にあるリボンを、ぴったりと後ろに控えた乳母らしき女性が掴んでいる姿が見えた。

 

 ふと、殺気を感じて視線を走らせれば、白い背中を惜しげもなく晒すデザインの深紅のドレスを纏った女性が、王族席を睨みつけている。


 金髪の髪を結い上げ、鋭い視線を送る妖艶な色気を醸し出す碧眼の美女が気になって目が離せなかった。


「ロンダーク」


「気が付かれましたか?」


「あぁ、自国の王族に対してあのような視線を隠しもしないのは貴族として“おかしい”。調べられるか?」


 もし貴族ならばいくら内心憎く思っていたとしても、綺麗に隠して美辞麗句を並べることなど造作もない。


 腹にイチモツもニモツも抱える魑魅魍魎が跋扈する社交界で、そうやすやすと王族に対して反意ありと悟られるようなバカは居ない。


「レイス王国ですからね、難しいですが……セイグラム殿に話しておきます」


 ロンダークさんはレイス王国王家に代々仕える忠臣、セイグラム・レクサンドールに情報を流すことにしたらしい。


 現在はナターシャ姫に振り回されては王宮中を駆けずり回っておられるが、若い頃には将軍として自ら戦の最前線を指揮し、カストル2世とレイス王国を守ってきた英雄として讃えられている。


 マーシャル皇国黒近衛隊の『迷える闘神』こと大将ジェリコ・ザイスとともにその武勇伝の数々は本にされ、世の少年達の憧れだったりする。


 もちろんどちらもレイナス王国にも名が知れ渡るほどの猛将だ。


 彼ならば速やかに対処されるだろう。


 祝福を受けたアールベルトが、式場の賓客に、王太子の証となる錫杖を見せるように身体の向きを変えれば、会場から新王太子を祝うの声があちらこちらから上がっている。


 女性は睨みつけていた王族席から視線を外すと、隣にいた恰幅の良い老紳士の腕に自らの白い手を添えて、移動を始めると丁度私の後ろを通り過ぎていった。


 香油の香りだろうか、爽やかな香りの香油が流行しているため、嗅ぎなれない甘く、コーヒーのように香ばしさが混じった香りが全身に纏わりつき、目眩を誘う後を引くような独特の香りは、二日酔いで具合が悪い現状にはかなり鼻に付く。


「悪いけどロンダーク。 私は少しだけ会場を離れる、ゼスト殿すみませんが後をおまかせして宜しいでしょうか?」


「随分と体調が芳しくないご様子ですね、私も付き添いましょうか?」


 そう言って私の様子を覗き込むゼスト殿に、首を横に振る。


「いいえ、国王の代理としてここに来ている以上ゼスト殿は残ってください」


「なら私が付き添いましょう」


 ゼスト殿の申し出を断れば、ロンダークが名乗りを上げた。


「ロンダークはなるべく早くセイグラム殿に情報を伝えに行ってくれ……なに、ちょっと手洗いに行くだけだ、直ぐに戻るよ」


「……わかりました」


 不満そうなロンダークと心配そうなゼスト殿に後を頼み会場を出ると、香油の匂いがしない新鮮な空気が肺を満たす。


 会場に近い場所に厠があるはずなので、警備についていた騎士に案内を頼み付いていく。


 やはり会場の熱気と混じり合った香油の匂いに酔っていたのだろう、厠を済ませる頃には吐き気は大分治まった。


「シオル殿下」


 厠を出て会場に戻ろうとしていたら、きっちりとした正装を纏った美丈夫が立っていた。


「お初にお目にかかります、私はレイス王国右将軍を拝命しております、ギラム・ゼキーナと申します。 王城の守護を担っております」


 隙無く他国の王族に対して礼をするこの男がレイス王国の将軍かぁ、細々とした所作を見ても、戦えば強いだろう事が伺える。


「ゼキーナ将軍、頭を上げてくれ。 シオル・レイナスだ。将軍がこのようなところに居るとはどうされた?」


 本来なら将軍は王近くに控えて、あらゆる不測の事態にも対処できるようにしているはず。


「はい、陛下の命を受け、レイナス王国の国王代理であらせられるシオル殿下をお探ししておりました」


「カストル2世国王陛下が?」


「左様でございます、ご案内いたします」


 そう促され、ギラム将軍に続いて歩を進める。


 ふわりとギラムの男性物の爽やかな香油に混じり、僅かに甘い女性物と思われる香油の残り香が薫ってきた。




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