どうやら平和ボケ
ロッ、ロンダークさんそれ何か違うような気がします。
いやね、守ってくださいとか言わないけどさ、いきなり再教育宣言とか酷くないですか?
「ロンダークさん、それよりもミリアーナ様は?」
話の矛先を変えられないかなぁと話を振ってみる。 その間も私達の足は私が泊まっている宿へ向けて進んでいく。
「ミリアーナ様は無事にレイナス王国へ入られました。 今はハスティウス公爵家のゼスト様が王都へ護衛として同行されております」
ゼスト様……たしかレイナス王国のハスティウス公爵家の三男だったとおもう。
「ハスティウス公爵家の領地はゼス帝国側じゃなかったっけ?」
「はい、その通りです。 シオル様と別れてから強行軍でラウンド山脈越えを敢行しレイナス王国へ入り連絡をとりました」
ゼスト様……一応あっちは王家より格下となる公爵家だからゼスト殿かな?
尊称って使い分け面倒だよな、はっきり言って前世で様や殿なんて尊称を使うのはお客様をお呼びする時か書類の宛名くらい。
なんにしてもミリアーナ叔母様がレイナス王国へ戻られたならひとまず安心かな?
「で、ロンダークさんはミリアーナ様をゼスト殿にあずけて飛んできたと」
「えぇ、ミリアーナ様はゼスト殿に任せれば大丈夫ですが、シオル様はアルトバール陛下に似てほしくない所ばかり性質が似ておられますからね。 目が離せません」
……うん、ロンダークさんは父様に苦労させられて来たんだね、お疲れ様。
「アハハ、それですぐに国へ戻るの?」
迎えが来たならば早々にレイナス王国へ戻らなければならないだろう。
その事実に思い浮かんだのはアンジェリカの屈託ない笑顔だった。
もう、別れなければならないのか……
ズキリと胸に痛みが走る。
「はい、ドラグーン王国の情勢があまりにも不安定で、陛下の元へミリアーナ様を渡すようにとドラグーン王国の王位争いをしておられる両派閥から書状が届いております」
ドラグーン王国の王位争いに大切な伴侶を失い心を病んでしまった先の王妃を巻き込もうと言うのか。
それまで動き続けていた足が自然と停まった。
ふざけやがって。
ギシリと握りしめた手のひらが鳴る。
「ミリアーナ様も、クラインセルト陛下のお子も渡さない。 絶対!」
「もちろんです。 アルトバール陛下も同じご意見でしょう」
ロンダークさんの言葉に頷く。
「しかしよく宿がわかったね」
祭りで王都中の宿屋は常に満室なのにと思って聞いてみる。
「昼間露店商で変わった商売をしている行商人を見かけまして、覗いてみれば心配していた殿下が笑顔で、皿を回していらっしゃいましたからね。 あとをつけさせていただきました」
うん、なんのことはないまさか追跡されていたとは。
「いくらご婦人と一緒だからといって追尾に全く気が付かれず、気配すら隠さずに堂々と数歩後ろにいる私に気が付かれない。 再教育案件ですよね?」
えっ!? マジですか……それは再教育宣言されてもしかたないかも。
「はい、すいません」
その後も細々とした情報共有を行いながら宿の前まで戻ると、宿から飛び出していくアンジェリカがいた。




