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元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?  作者: 紅葉ももな
思春期

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お買い物


 朝早いうちに私は町へと入った。 ミリアーナ叔母様には今ロンダークさんが付き添っている。


 本当はロンダークさんが街へ買い出しに行ってくれる予定だったのだけれど、ミリアーナ叔母様がロンダークさんにすがり付いて離れなかったのだ。


 その為、今日は私が街へとやって来た。 お供は私の肩に乗っている桜色の爬虫類……ドラゴンのサクラだ。


 朝早い時間にも関わらず、すでに沢山の露天商が活気ある声で旅人や行商人の呼び込みを行っている。


 赤土の煉瓦が敷き詰められた街道には、私よりも身長が高い大人たちがひしめき合い、同年代の子供と比べれば多少高いものの成長期の身体は、大人に囲まれれば埋もれてしまう。


「あの、すみません。 この街に薬師を営んでいるお店ってありませんか?」


 目の端に止まった店舗型の衣料品を扱う店の店員らしき男性に声をかける。


「んぁ薬師? 客じゃないんなら商売の邪魔だ。 あっちに行きな坊主」


 シッシッと手をひらつかせて追い払おうとする男の店から出た私を、道を挟んだ反対側の店舗の男が呼んでいる。


「何かご用ですか?」


 ニコニコと愛想良く聞いてきた壮年の男性の店もどうやら衣料品を取り扱っている店のようだった。


「実は薬師の方を捜しています」


 店先には一般的な家庭で日常的に着られている衣服に混じって、見慣れない刺繍が施されたポーチが陳列されている。


 赤や黄色、緑に青と美しい発色の色糸を複雑に絡ませて刺された品々は華美さと上品さを兼ね備える一品だ。


 よくよく見れば精緻な刺繍のハンカチも数点置いて有る。


「薬師ですか、この通りをあちらに進んで頂いて突き当たりにありますよ。 セルナの葉が描かれた看板が薬師の商いをしているサニア婆さんの店ですよ」


 どうやら私の目的地はこの人混みを越えた先に有るらしい。


「ありがとうございました。 あのう、これは……」


 極彩色のハンカチを手に取ればもみ手始めた。


「美しいでしょう? 南にある島国から流れてきた逸品なんですよ」


「おいくらですか?」


「はい、ポーチが銀貨二十枚ハンカチがそれぞれ銀貨五枚ですね」


 日本円感覚で銀貨が一枚一万円位、だとして遠方から輸入されたハンカチにしてはあり得ない程に格安だ。


「わかりました、とりあえずここにある同じ島国からの品を全部ください」


 そう言って 銀貨百枚の値打ちがある金貨を差し出せば、ホクホク顔で品物を包んでくれた。


 お母様と妹のキャロラインに良いお土産が出来た。


 何故か店主さんが私と違うところを見ながらしてやったりとほくそえんでいたので、視線をたどれば道の反対側の店の店主が忌々しそうに睨んできた。


「ありがとうございました」


 とても良い笑顔で送り出され、教えてもらった通りに人ごみを掻き分けて進めば、教えてもらったセルナの葉が描かれた古びた看板を掲げる店に出た。


 セルナの葉は殺菌作用と止血効果があり、擦り傷や裂傷に効果がある薬の材料となる植物だ。


 どこと言うことなく自生しているセルナの葉を軽く叩き潰して傷口に貼っておくだけでも応急措置には有効なので、薬師の看板としては納得がいく。


 店に足を踏み入れれば乾燥させた薬草らしい植物がところ狭しと陳列され、得体の知れない生き物の乾物が天井からぶら下がっている。


 独特の雰囲気と臭気を放つ店内には人の気配が感じられない。


「すみませーん」


「うるさいね、そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわい」


「うわっ!?」


 突然誰も居ないと思っていた場所から声をかけられて驚きに後ずさった。


「なんだい失礼な坊やだね」


 のっそりと姿を現したのは私より小さな老婆だった。


 くるりと前に曲がった背中に紫色の髪の毛……染めているのかな? 


 紫色の髪の毛なんて転生してから初めて出逢ったよ。


「し、失礼いたしました。 実は髪染めの薬を探しておりまして」


「あんたが使うのかい?」


「いえ、母に頼まれました」


 実際には叔母様だけどね。


「色はあんたと同じ赤かい?」


「いえ、黒色でお願いします」


 この世界でも黒色の髪をした人は多い。


「黒色だね」


 そう言って老婆は店の奥から三本の瓶を持ってきた。


「うちに置いてある黒色の顔料はこれだけだよ。 基本的に染髪した色は長続きしないからね」


 使い方の説明を聞けばどうやら三本の薬品を混ぜ合わせて使う染料らしい。


「お代は?」


「銀貨二枚だ」


 年齢を感じさせるシワシワの手に銀貨二枚と先ほど買ってきたハンカチを置く。


「なんだいこの派手なのは」


「お礼です、では」


「待ちな!」


 退出を告げようとした私に老婆は、小さな袋を押し付けてきた。


「こんな贈り物を貰ったのは死んだ爺さん以来だよ。 おまけだ持って行きな」


「あの、これは?」


「サニア特製の傷薬さね。 また機会があれば寄っとくれ」


 しっかりとハンカチを握り締めてそっぽを向いてしまった老婆にお礼を告げ、果物やら長期保存の効く乾物等を色々買って街を出た。


「ロンダークさん!」


 夜営に使っている天幕のある場所まで戻れば、ロンダークさんの膝を枕にして寝息を立てているミリアーナ叔母様がいた。


「おかえりなさいませ。 ご入り用品物は手に入りましたか?」


 しっかり頷き、戦利品をロンダークさんに披露する。


「今日これでミリアーナ叔母様と私の髪を染めて明日の朝、三人で国境を抜ける」


「わかりました」


「と、言うわけで明日からロンダークさんが行商を生業にしている私の父様で、ミリアーナ叔母様がロンダークさんの奥さんで私の母様だからよろしくね?」


「え!? いや、私は独身ーー」


「さぁご飯にしよう!」


 ロンダークさんの苦情をきっちりと言葉を被せて封じた。


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