95話 Next Destination
3章完結です! 次回から新章に突入します!
「此度の働きご苦労だった!」
跪く私達に向けて声をかけてくれた王。私達はシャウン王国、王都にあるフリスディカにある王宮へと足を運んでいた。もちろん用事は、今回、賢者の谷で体験したことの報告である。
鵺の本体をとしたことにより、あれから賢者の谷で鵺による被害というのはめっきり無くなった。正確に言えば、鵺自体を発見することがなくなったらしい。お陰で、魔鉱晶石の発掘作業もあっという間に進み、私達もこうして無事にフリスディカに帰還することが出来たというワケである。
「それで、アマツから聞いたが…… イーナ、お前イミナとか言う奴の正体に心当たりはあるのか?」
王のすぐそばに立っていたミドウが私に問いかけてきた。王の間に集まっていたのは、私達ヴェネーフィクスのメンバーを除いては、王とミドウ、ロード、ブレイヴ、そしてアマツとセンリである。もちろん王の間にいた皆の興味はもはや鵺には無かった。他ならぬイミナという謎の人間に、皆が興味を持っていたのだ。
「いや、ないよ。間違いなく初めて会った。でも不思議なことに向こうは私のことを知っていた……」
あのときのイミナの言い方から察するに、おそらくは私が私になる前のこともイミナは知っているのだろう。でなければ、可愛くなっちゃってだの、新しい人生だの、そんなフレーズなんて出てこない。全て私のことを知られているのは間違いない。それが私にとって無性に気味が悪いというか、ずっと心に引っかかっているのだ。
「あのとき~~ イミナは鵺の正体についても知ってるような口ぶりだったし~~ それに、アレナ聖教国に行けば真実がわかる的なことも言っていたよね~~ 」
そう、確かにあのときイミナはそう言っていた。イミナが口にした真実とは何なのか、アレナ聖教国とやらに行けば一体何がわかるというのか、未だにイミナの言葉の真意は全く汲み取れてはいない。だけど、どうにもあの言葉が気になった私達は、フリスディカに戻ってからずっとアレナ聖教国について密かに調べていた。
アレナ聖教国は、シャウン王国よりもずっと東、シャウン王国が属するアーストリア連邦には属さない国家であるらしい。名前の通りアレナ聖教国は、アレナ聖教と呼ばれる宗教の総本山でもあるらしいが、周辺国との外交はあまり行ってはないようで、その実態は謎に包まれているようだ。
「そのイミナとか言う子供は白の十字架を名乗っていたのだろう? 確かに閉鎖的なアレナ聖教国ならば、奴らも活動はしやすい……か? 罠の可能性はあるが、誘いに乗ってみる価値はあるか……」
冷静に言葉を発したブレイヴ。そう、ブレイヴの言葉通り、罠である可能性は十分に考えられる。だが、あのときのイミナの言葉がずっと引っかかっていた私は、アレナ聖教国に向かうという選択肢以外考えられなかった。だからこそ、こうしてフリスディカに戻ってからもずっとアレナ聖教国について調べていたのだ。
「もしも、アレナ聖教国に白の十字架の拠点があるとするなら、足取りを掴みきれなかったというのも納得は行くな。調査と行きたいところだが……」
歯切れの悪い様子でミドウがそう口にする。
「何か問題でもあるの?」
「正直、アレナ聖教国については未知数な部分が多い。つまりは今回の調査はかなりの危険が伴う任と言うことになる……」
ミドウの言葉に、その場にいた皆が黙りこむ。そりゃ誰だって自分の身が可愛いことは間違いない。何も危険だとわかっているところに、わざわざ足を踏み入れる必要なんて普通に考えればないだろう。だけど……
正直言えば、私はアレナ聖教国に行ってみたかった。どうしてもイミナの言葉がずっと心に残ったまま離れることはなかったからだ。だが、その選択をすると言うことは、つまりはヴェネーフィクスの皆を危険にさらしてしまうことに他ならない。なにせ、私が行くと言ったら、ヴェネーフィクスの皆も間違いなく一緒に行くと行ってくれるだろう。それ自体はこれ以上無いほどにありがたい言葉である。だが、万が一ということを考えたときに私は「行きたい」という言葉をどうしても口に出せずにいたのだ。
「……イーナ様行きたいんでしょ? ルカはイーナ様の行くところならついていくよ!」
意外なことに沈黙を破ったのはルカであった。まさかルカの口からそんな言葉が出てくるだなんて想像もしていなかった私はつい驚いてしまった。そんな私をのぞき込みながらニコニコと見つめるルカ。
「どうして……!?」
「あれだけアレナ聖教国?について調べてたんだもの! そりゃルカにだってイーナ様が行きたいと思っていることはわかるよ!」
ルカの言葉に、ヴェネーフィクスの仲間達も笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「正直、怖いと言えば怖いですけど…… このままここでじっとしているだけじゃ、何も進みませんからね! 私も正直言うとずっと心に引っかかっていたんです」
「ここにいたところで、どうせあのイミナとか言う奴には動きは筒抜けなんだろう? だったら同じだ」
「ニャ! 今度こそは僕も皆のお役に立つのニャ!」
「みんな……」
そして、もう1人意外な人物が声を上げた。ミドウの娘であるアマツである。
「ん~ だったら私もイーナ達に同行しようかな~~! 戦力は1人でも多い方がいいでしょ~~!」
突然のアマツの言葉に、驚きを見せたのはミドウである。
「おい、アマツ! お前には別の……」
「ミドウ様、例の件なら私1人でも十分です。是非ともアマツ様のご意志を……」
焦るミドウに言葉をかけるセンリ。だが、センリの言葉を聞いたミドウは困った様子で何かを考え混むようにうつむいていた。そりゃあ自分の娘が危険な場所に行きたいだなんて言ったら、親であるミドウにとっては心配であると言うことは十分に理解できる。一方、センリは未だ悩んだままのミドウのそばに近づき、耳元で何かを口にした
「……」
「はぁ…… わかった。仕方無いな……」
センリが何を言っていたのかは聞こえなかった。だが、センリのささやきを聞いたミドウは、観念した様子でため息をつきながらそう告げたのだ。
「話は決まったみたいだね~~ ヴェネーフィクスの皆~~ またこれからもよろしくね~~!」
笑顔のアマツをよそに、再び口を開いたミドウ。アマツに翻弄されているミドウはもはや使徒のリーダーと言うよりも、ただの娘を心配する父親その者にしか見えなかった。ただもう、ミドウも諦めたのか、はたまた覚悟を決めたのか、堂々たる様子で私達に向かって言葉をかけてきた。
「イーナ、ルート、それに皆。アマツのことは頼んだ」
「もちろん! 任せてよミドウさん!」
ミドウもアマツも私達のことを信じてくれている。彼らの期待を裏切るわけにはいかない。私は強い決意で、そうミドウに言葉を返したのだ。




