36話 四傑という存在
――ふむ、おぬしの場合、魔力をほとんど持ち合わせていなかったからのう。わらわの力とおぬしの力のバランスが取れていなさすぎたのが原因のようじゃな。わらわの力がそれだけ強大だったと言う事じゃ!
――そう言われれば、そうかも知れないけどさ……
納得が出来ないと言えば出来ないが、こうなってしまったものに関しては、今更どうこう言ったところで仕方が無い。この身体になって、新鮮な経験はいっぱいできたし、悪いことばかりでは決してないし…… まあ、今はそれはいいとして、話を大神の話に戻そう。
「……なんかいつの間にか、シナツに協力するような流れになってるけど…… 他の皆はそれで大丈夫?」
今更聞くまでも無いことではあったが一応確認をする。正直、ギルドの任務の範疇を超えている以上、これをこなしたところで報酬などもらえるはずもなく、ここから先は完全な興味の話となってしまう。一応ルートやナーシェ、それにルカとテオに確認をとったが、皆の答えはすでに決まっているようだった。
「ここまで来て、今更何もせず帰るというわけにも行かないだろ?」
「もちろんです! こんな面白そうな話…… なかなか無いですからね!」
「私も大丈夫だよ!」
正直俺は、大神の一族同士の話に、そこまで首を突っ込むのは筋が違うとは思っていた。だけど、もしシナツの言っていることが本当だとしたら、放っておくと言うわけにもいくまいし、それに俺にはどうしてもシナツが嘘をついていると言うようには思えなかった。何よりも強大な力を持った大神に恩を売れるというのはなかなかにこちらにとっても悪くはなさそうな話だ。現にルートとシナツはなかなかに相性が良さそうであるし、このまま上手く解決できれば今後も大神の助力が得られるかも知れない。
「それで…… そのカーマとやらはどこにいるの?」
ルートに対して声をかける俺。きっとルートも心の中でシナツと話しているのだろう。少しの静寂の後に、ルートが口を開く。
「大神たちが暮らしていたという『原始の森』。今はマガヒ達の一派により完全に占拠されているらしい。そこが敵の本拠地というようだ。あとは……」
「あとは……?」
「シナツからの伝言だ。協力してくれること、大変ありがたく思う。もし解決したあかつきには、今後も大神の一族、俺達に全面的に協力することを約束する。だとさ」
「これは絶対に解決するしかありませんね!こんな力を持ったわんちゃん達が協力してくれるだなんて! 行きましょう! イーナちゃん! ルート君! ルカちゃん! テオ君!」
張り切るナーシェのかけ声に、おー!っと嬉しそうに声を上げるルカとテオ。そして、その様子を静かに見守っていた、シナツと一緒にいた2匹の大神が、俺達に向かって声をかけてきた。
「シナツ様に協力してくれると言うこと感謝申し上げる。だが、変な真似をしようとはするなよ? 申し訳ないが、俺達もまだお前達の事完全に信用しているというわけではないのだ」
まだ完全に俺達の事を信用できないなんて、言われるまでもなくわかりきったことである。こちらとしても、出会ったばかりにもかかわらず、あんまり信用されるというのも逆に困るのだから、少し距離感があるくらいでちょうど良いのだ。
「了解。あと、君達にもお願いがあるんだ。私達を『原始の森』に案内して欲しい。あともう一つ確認したいんだけど、他に君達の仲間はいないの?」
このままいきなり原始の森に行ったところで、こちらの戦力なんてたかが知れている。もし、他にシナツに協力してくれる大神の一族がいるのならば、是非とも味方にしておきたい。何せ味方は一体でも多い方が良いのだから。
「残念だがこちらの味方はそこまで多くない。大神の一族の中でも最も強大な力を持っていると言われていた先代の真神が、マガヒ達にやられてしまった以上、大神の一族の多くはマガヒに従っているというのが現状だ。だが、悲観することはない。大神において、最も重要なのは強さ。より強いものをリーダーとして認めるという性質がある」
「……じゃあ、やっぱりこっちは分が悪いんじゃ?」
強さこそが正義と言うのであれば、今の状況はシナツ側にとって大変まずい状況である。
「だが、マガヒの場合、あまりにもやり方が強引すぎた。だからこそ、俺達はシナツ様に最後までついていくという覚悟を持っているし、同じようにマガヒを危険視している大神たちは多いはずだ。つけいる隙があるとすればそこだ」
「……なるほど、表向きは従っていても、リーダーさえなんとかすれば後は大丈夫だと……」
「そう、だが気をつけるべきはマガヒとカーマだけではない。大神の猛者達がマガヒ側についていると言ったな? その中でも特にニニギという大神。奴はマガヒやシナツ様と同程度の力を持っているはずだ」
「ニニギ?」
「先代真神様の元には特に強力な力を持った四体の大神がいた。四傑と呼ばれた存在だ。その中にはシナツ様も、そしてマガヒの奴、それに今言ったニニギという奴が含まれていた。四傑のうち2体の大神が敵というわけだ」
「四傑のうち2体? あと1人はシナツだとして、もう1人は?」
話を聞けば聞くほどに、シナツの置かれている状況がなかなかに絶望的であると言う事がはっきりとしていく。光明があるとすれば、もう1人の四傑。何とかしてその大神の協力を得られないものかと、俺は大神たちに問いかけてみた。
「もう1人…… ヤキネと言う大神がいるが…… 奴の協力を得ることを画策しているのならなかなか難しい話だ。なんと言っても、ヤキネは誰にもなびかない一匹狼として有名だった男だ」
「でも、話してみなきゃわからないよ! どっちにしても明らかにこっちは戦力が足りないというのだから、明確な敵じゃないなら会ってみる価値はあると思うけど……」
「イーナの言うとおりだ。戦力が足りないという状況である以上可能性があるのなら賭けてみるほかはない。それにシナツからの同意も得られた」
俺達の会話に入ってくるルート。シナツの同意という言葉を聞いた大神たちは、そのまま何も言わずに、こちらの提案に従うほかはなかったようだ。
「……上手く行くとは思えんが…… シナツ様の意志というのならば仕方あるまい。まずはヤキネの元に向かう。それで良いか?」
「もちろん!」
少しだけ、光明が見えたようなそんな気がした。ヤキネと言う大神がどんな大神なのか、全くわからなかったが、現状ここで考えていても仕方が無い。駄目だったら駄目だったときに考えるほかはないのだから。
「そうと決まればすぐに出発する。ヤキネは原始の森の中でも大分外れに住んでいる。そこに向かうだけならば、マガヒ達に遭遇することもないだろう。俺達の背に乗るがいい」




