26話 パーティ結成!
ルートとナーシェ達が組む前、それこそエリナがルート達と共にパーティを組んでいたときから、ヴェネーフィクスという名前は変わらないそうだ。ルートがこのギルドに加入したときから、メンバーこそ変われど、名前はずっとそのままであるらしい。
ルートの昔話についても色々と聞きたいところであるが、目下、まずはギルドのメンバーとして登録してもらわなければ、そもそも俺もルカもヴェネーフィクスのメンバーにはなれない。まず俺達がやらなければならない事。それは俺達のギルドへの登録だ。
そのまま、ギルドの建物の最も奥に位置するカウンターの前へと向かったルート。入り口近くの酒場付近とは異なり、建物の奥は、書物が大量に並んでおり、どちらかといえば図書館のような、そんな落ち着いた雰囲気が漂っている場所であった。
「あらルート君、ナーシェちゃん! 任務から戻ったのね!」
カウンターの向こうに座っていた美人なお姉さんが、カウンターに近づいていったルートとナーシェに気付いたようで笑顔で声をかける。そして、一緒にいるはずであった2人の姿が見えないことに疑問を持ったお姉さんがさらに言葉を続ける。
「ハインさんとロッド君は?」
「……2人はもう帰ってこない」
「そう…… ハインさんが…… それにロッド君も…… まさか、ハインさんがやられてしまうだなんて……」
すぐにお姉さんもヴェネーフィクスに何が起こったのか、理解したようで、先ほど笑顔を浮かべていたお姉さんの表情が一気に曇る。
「ああ、だが2人と、ここにいるイーナ達のお陰でダイダラボッチは打ち破ることが出来た。今日からはこの2人がヴェネーフィクスのメンバーになる」
ルートに紹介されるがままに、俺とルカはお姉さんの前へと出た。そして、俺達が新しくメンバーになると聞いたお姉さんは驚いた様子でルートに言葉を返したのだ。
「ええ? こんな可愛らしい子達が?」
「それでも腕は確かだ。ハインから剣を託されるほどにはな」
「そうね、ごめんなさい。悪気はないの。ただ、あのヴェネーフィクスのメンバーが急に可愛らしくなるもんだから、つい驚いてしまってね!」
笑顔を浮かべるお姉さん。俺だって逆の立場なら、驚くことは間違いない。あんな強そうな見た目のハインの後に入るのが、一見ただの少女であるのだから。
「本当はギルドに登録するためには、試験があるの。やっぱりモンスターと戦う事になる以上ある一定の力を持っている必要はあるから…… あなたたちの場合は、ルート君達…… そのままヴェネーフィクスのパーティに所属って形になるから試験は免除で大丈夫よ。それでも一応、ギルドに加入する人にはこの書類にサインをしてもらうことになってるんだ! あとはこっちの同意書もね!」
「同意書?」
「あなたもわかってるとは思うけど、ギルドに所属する以上、どうしても命の保証は出来ない。言い方は悪いかも知れないけど、もし任務中に死んでも、ギルドとしては責任は取れない。そう言った意味での同意書よ」
お姉さんに出された書面に目を通す。 えーと……
要約すると、結局はお姉さんの言っている事がそのまま書いてあった。
任務はパーティ単位で受注する。そして報酬もパーティに渡される。あくまでギルドは任務の仲介を行うだけであり、もし仮に任務中に事故が起こった際にもギルドとしての責任は一切無い。つまり、金は払うが、後は自己責任でと言う事である。
特に他に無茶苦茶なことは書かれていないし、サインしても問題は無いだろう……
「イーナちゃんとルカちゃんね! ギルドへようこそ! これからあなたたちもシャウン王国のギルドのメンバーよ! じゃあちょっとこっちに来てね!」
サインをした俺とルカに、お姉さんが手招きをしてくる。そのまま本棚の奥へと姿を消したお姉さん。何だろうと思っていた俺の心を読み取っていたかのようにルートが説明をしてくれた。
「ギルドに所属したものには、制服とギルドパスが渡されるんだ。命の保証は出来ないとは言っても、それでもギルドメンバーはこの世界で優遇はされている。ギルドパスがあれば、任務の際は列車にも無料で乗れるし、各地のギルドの宿舎も無料で使える」
「すごいね! ギルドパス!」
確かに命の保証はないかも知れないが、そこまできちんとしているとなれば、当然、ギルドのハンターという仕事が人気の職業であると言うことも頷ける。任務さえ受けていれば生きていくのには困らないというのは、想像している以上に大きな利益なのかも知れない。
お姉さんに従って奥へと進んでいった俺とルカ。裏は倉庫のようになっており、新品の黒いローブが大量に積み重なっていた。そして、そのローブを漁っていたお姉さん。俺達の身体に合う制服を探してくれていたようだった。
「一応、これが制服ね! まあ、制服と言ってもそんなに着ている人はいないんだけどね…… 渡すのが決まりになってるから渡すけど、着るかどうかは好きに選んでくれたらいいよ! えーとサイズはどの位かなあ……」
果たしてそれが制服と呼べるのだろうか。一瞬、そんな事が頭によぎった俺。だが考えてみれば、モンスターとの戦闘と言うのが、ハンターの業務である以上、自らの身を守るためには、自分の動きやすい服装に身を包むのが一番良いというのは確かであるし、必ず着用せよという規定までは設定できないのであろう。命の保証は出来ないという同意書まで書かされるくらいなのだから。
「これ! 着てみてよ!」
お姉さんが二着のローブを手に俺達の元へと近づいてくる。とりあえず、着てみようと渡されたローブに袖を通す。うん。大きさはばっちりだ。それに、生地もしっかりとしていて、なかなかに着心地が良い。
「うん! ぴったりだね!」
制服を着た俺達に笑顔を向けてきたお姉さん。それにしても、この真っ黒のローブ…… マンガやアニメでよく目にしていた、組織の一員になったようでなかなか格好いい。今までの女の子っぽい格好も悪くはないが、こっちの方が正直言って好みであることは間違いない。
「見て! イーナ様! 似合ってる!?」
ルカも制服をなかなかに気に入ったようで、無邪気に喜びながら俺の方に見せびらかすように言葉をかけてきた。黒のローブをきたルカは、今までの可愛らしい雰囲気とは少し異なり、何処か大人びたようなそんな雰囲気を醸し出していた。
「似合ってるよ! お姉さんみたい!」
お姉さんみたいと言われたのが、よっぽど嬉しかったのだろう。えへえへと笑みを浮かべながら照れるルカ。そんなルカも可愛い。
「制服は大丈夫ですね! 後はギルドパスです! こっちへ来て下さい!」
部屋を出て再びカウンターの方へと向かったお姉さん。俺とルカも、制服に身を包んだまま、お姉さんの後をついてバックヤードを出る。外ではルートとナーシェがカウンターの前で俺達の帰りを待ってくれていた。
「2人とも似合ってますよ! 大人っぽくて素敵です!」
「でしょ! この制服、着心地が良くて結構気に入ったの!」
ナーシェとルカは2人でわいわいと盛り上がっていた。その様子を微笑ましく見つめているルート。これからはここにいる4人が文字通り命を預け合うような関係になるのだ。是非ともこのまま良い関係を持続していきたいものである。
「さあイーナちゃん! ルカちゃん! これがギルドパスです!」
ルカとナーシェがわいわいと盛り上がっている間に、お姉さんはギルドパスを用意していてくれた。お姉さんから受け取ったギルドパスは、思ったよりもしっかりとしている造りで、一ページ目には空白の署名欄、そしてギルドの規則がびっしりと書かれたページが後に続いていた。
「一ページ目にサインをお願いします! サインを書いてもらったら、ハンコを押して登録完了です!」
カウンターに用意してあった筆ペンで、まだ空白の記名欄に俺は自らの名前を記載した。そして、記入をし終わった俺とルカのギルドパスに、お姉さんがぽんっとギルドのハンコを押してくれた。これで、諸々の手続きは終了であるらしい。
思ったよりもスムーズにと言うか、こんな簡単で良いのだろうかとも思ったが、無事に登録できたようで、まずは一安心である。これでようやく、俺達も正式にルート達のパーティ、ヴェネーフィクスの一員となったのだ。
「改めて、ルート! ナーシェ! それにルカもよろしくね!」
「私も! 皆よろしくお願いします!」
俺に続いてぺこりと頭を下げるルカ。そんな俺達をルートとナーシェの2人、そしてナーシェにくっつくようにしていたテオが、微笑ましく見つめてくれていた。
「ああ、よろしく2人とも!」
「こちらこそよろしくお願いしますね! イーナちゃん! ルカちゃん!」




