2-6話 どちらに転ぶか
「ねえ、ミドウさん本当に良かったの?」
新たなメンバーが零番隊に加入することが決まり、会議も終えようとしていた頃、私はこっそりとミドウに尋ねた。もちろん、良かったのと言うのは、リンドヴルムの事である。今日初めて会ったにもかかわらず、それに素性もわからないリンドヴルムを引き入れてしまっても大丈夫なものかと、私はずっと心に引っかかっていたのだ。
そして、ミドウも私が何を思っていたのか、何を言いたかったのか、もうわかりきっていたようだった。
「リンドヴルムの事か?」
「うん、リンドヴルムは、悪い人…… いや、悪いドラゴンじゃないとは私も思うけど、いきなり零番隊に入れるって決めちゃっても大丈夫なのかなって」
確かに王様の言葉通り、零番隊のリーダーはミドウ。ミドウの意思こそが、零番隊の意思であると言う事は、私達の中にあった絶対のルールである。それでも、突然王宮に突っ込んできて、しかも…… いきなりプロポーズをしてくる…… いや、後半のはただの私の個人的な問題だけど。それは置いておいてもだ。
「いきなりという点では、イーナ、お前だってそうだっただろう! 気にするな!」
まあ、確かに…… 私が零番隊に加入が決まったときだって、突然王宮に呼ばれ、そのまま加入という流れだったし……。もしかしたら零番隊という組織は、そういうものなのか…… そんな事を思っていた私に、少し真剣な表情を浮かべながらミドウがさらに言葉を続ける。
「……イーナ、今だからこそ言うが。零番隊という組織は、民達を強大な力を持った悪から守る為にある。力に立ち向かうためには、力が必要だからな。言い方は悪いかも知れないが、力には力をというやつだ」
「うん」
あんまり見ないミドウの真剣な表情に、私も言葉少なめにミドウの話に耳を傾けていた。そして、ミドウはさらに語りを続ける。
「だが、零番隊の本来の役割はそれだけじゃない。民達の脅威となり得るような存在、それを囲い込むという役割も担っている。それが善なる意志を持っていれば問題は無い。…… 一方で、アイルやノエルのように邪な考えを持っている者がいることも、儂も王も、大臣も皆わかっている。ここまで言えば、聡明なお前ならわかるな?」
「……だから私も、あんな急に?」
私はずっとこの零番隊という組織が、強大な魔力を持った者を集め、悪と戦う為の組織だと思っていた。だが、零番隊にはもう一つの顔があったということらしい。リンドヴルムのような、強大な力を持った外部の者を囲い込み、他のメンバー達に監視をさせる。
結果、その者が善人ならば、シャウン王国に忠誠を誓うような者なら良し、もし仮に、民に危害を与えかねない存在だったならば……
「がっはっは! 善に転がれば良し、悪に転がってもおぬしらがいるだろ! イーナ!」
「……なんか、喜んで良いのか微妙な気分……」
「そう言うな! 大丈夫だ! 儂は最初からお前のことは信用していたさ! それにリンドヴルムもだ! あいつは悪い奴じゃない! 儂の感がそう言っているからな! がははは!」
「おい、何話しているんだ? それよりも! 俺は早く街に行きたいぞ! 街を歩いてみたい!」
話題に上がっていた張本人、リンドヴルムが私とミドウの元へ近づいてくる。子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、待ちきれないといった様子でそわそわしながら近づいてくるリンドヴルム。うん、やっぱり悪い奴ではなさそうだ。
「すまん! すまん! リンドヴルム! 儂はお前の住むところを手配しておくからな! イーナ! ルート! リンドヴルムに街の案内をしてやってくれないか!」
「おお! イーナ! お前が案内してくれるのか! それは楽しみだ!」
「おい、リンドヴルム。俺もいるんだが……」
ぱあっと明るい表情を浮かべたリンドヴルムに、少しむくれた様子で、ルートがそう言葉をかける。思えば、リンドヴルムが現れたときから、どこか不機嫌なルート。まあ、少なくとも、ルートとリンドヴルムはあんまり性格が合わなさそうということは私にもわかるが…… 同じ零番隊のメンバーになる事に決まったのだ。こうなったら私が……
私が頑張るしかない!
「じゃあ、いこっか! 2人とも! せっかくリンドヴルムも仲間に加わったことだしさ!」




