121話 Fall of the Holy City
第4章完結しました! 次回から新章に入ります!
「ありがとうルート! お陰で助かったよ!」
完全に油断していた私は、まんまと敵の策略にはまりそうになってしまった。そう、相手はアレナ聖教会の大司教。全く油断も隙もない相手なのである。
「……クソ! この役立たずめが!」
左腕を失い、パートナーであるモンスターを失った、マーズ大司教の顔からは、余裕はすっかり消え去っていた。
「……自分のパートナーに対して、それは無いんじゃないの?」
マーズ大司教の吐き捨てた言葉に、私は正直カチンときていた。巫人というのは、パートナーとなるモンスターと、文字通り運命共同体。生きるときも死ぬときも、私達の生活には常にパートナーの存在があるのだから。
「だまれだまれだまれ! 九尾の巫人だと! ふざけるな! どうして…… どうして九尾がお前みたいな小娘に!」
もはや哀れとしか言いようがない。最初は話が通じそうな相手かとも思ったが、ルートの言うとおり、やはり私の考えが甘すぎたようだ。
そして、すっかり正気を失ったマーズ大司教は、たかが小娘と青年一人に追い詰められているという状況が耐えられなかったのか、怒りで口元をわなわなと震わせていた。
――イーナ、あんな愚か者に遠慮などせずとも良い。地獄の業火で焼き尽くしてしまえ!
サクヤの声色からも怒りが伝わってくる。自分のパートナーを役立たずと言った事が、よっぽどサクヤの気に触れたのであろう。まあ、私とてそれは同感だ。
――わかってるよ!
「炎の術式……」
「くそがああああああああああああああ!」
叫びながら私達の方へと突っ込んできたマーズ大司教。手には先ほど自らの左腕を切り落とした立派な剣が握られている。だがもはや、巫人ではないマーズ大司教など、私にとっては何も脅威ではない。
「陽炎!」
視界に捉えたマーズ大司教。目に力を入れ、私は再び炎の魔法を発動させる。
炎は瞬く間に、マーズ大司教を飲み込んでいく。先ほど、炎の魔法の通りが悪かったのも、パートナーであるサラマンドラの力が影響していたのだろう。だが、パートナーを失った今、もはやマーズ大司教を守ってくれる存在は何もない。
「ぐああああああああああああ!」
一気に炎に飲まれたマーズ大司教は、断末魔のような叫び声と共に、その業火の中に姿を消した。これで、作戦は完了。マーズ大司教を討ち滅ぼし、聖都シュルプの聖教会の本部が陥落した瞬間である。
「イーナ!」
そして、外から私達の戦いを見届けていた、ブラックはじめフリーフェイスのメンバーが私とルートの元へと駆け寄ってきた。皆安堵の笑みを浮かべ、喜びを露わにしていた。
「すげーよイーナ! まさかここまで順調に……」
「教会の本部を落としたぞ! 俺達の勝ちだ!」
何とか無事に作戦を完了させることが出来た私は、ほっと息をついて、床へと座り込んだ。流石に、『炎の術式;陽炎』の連発はなかなかにきつい。そんな私の元に、ヴェネーフィクスのメンバー達、そしてアマツも駆け寄ってきた。
「イーナちゃん! 大変! 目から血が!」
「ああ、ナーシェ! 大丈夫だよ。これは魔法の反動で……」
「大丈夫じゃないです! そんな無茶ばっかりして! ほら!」
私の目をナーシェの手が覆い包む。ナーシェの手から温かく優しい力を感じる。そっと目を瞑ると、先ほどまで止まなかった頭痛が、少しずつ和らいでいく。流石、ナーシェの治癒魔法…… だけど、ナーシェの言うとおり、この力、強力ではあるがあんまり連発は出来なさそうだ。身体への負担は他の魔法よりも格段に大きい。
「ほら! 治りましたよ! もう、こんなんじゃ、命がいくつあっても足りないだから!」
「ごめんごめん、気をつけるよ」
とはいえ、作戦は無事に完了。皆の顔にも笑顔が溢れていた。一先ずは一安心。ここでは、『白の十字架』に繋がるような情報はまだ得られなかったが…… まあ時間の問題であろう。そのうち街の方も、ザイオン達別働隊の方で何とかしてくれるはず……
「おーい! みんな!」
フリーフェイスのメンバーの一人が叫びながら、皆の輪の中へと駆けてくる。その顔には笑顔が浮かんでおり、一目で明るい報告である事は明らかであった。
「リーダー達の方も、上手くやったらしい! エンディア国からの援軍はまだ到着していないようだが……! 何にせよ俺達の完全勝利だ!」
………………………………………
同時刻。
聖都シュルプの街の外。エンディアからの応援部隊が待機していたキャンプは血の海へと変わっていた。大量の兵士達の屍が転がる中、無邪気に笑うのは一人の少年。悦びを隠しきれないような様子で、少年は呟いた。
「……なんだあ、エンディアの連中も大したことが無いね!」
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惟名 水月




