118話 作戦開始!
作戦当日の深夜、闇夜に紛れて、私達は、フリーフェイスのメンバーと共に、アレナ聖教会のシュルプ本部の近くへと来ていた。聖都シュルプの高台に位置する本部、この街に始めてきたときに、私達の来訪を歓迎するように鳴り響いた鐘、まさにアレこそがアレナ聖教会の本部のシンボルとも言えるものらしい。
「そろそろ、別働隊が騒ぎを起こしてくれるはずだ、準備は良いか?」
私達に語りかけてきたのは、ブラック。彼らが属するフリーフェイスが、シュルプのアレナ聖教会を襲撃するために提案した作戦は、至極単純なものだった。
まず、ザイオンら別働隊の面々が、街で騒ぎを起こし、魔道士達を呼び寄せる。その隙に、ブラック率いる本体で、一気にアレナ聖教会本部を制圧するという流れなのだ。
ここまで来てしまったら、私達だってもう後戻りは出来ない。気合いを入れ直し、私も自らの剣を握る。そして、しばらくの後、街の方からのろしが上がる。フリーフェイスのリーダー、ザイオンからの合図だ。
「あのクソみたいな教会の統治も今日で終わりだ! 行くぞ皆!」
ザイオンの合図を皮切りに、一気に教会の本部へと突っ込んでいくフリーフェイスのメンバー達。数にして、100人にも満たない本部制圧隊。普通に考えれば、この人数で、街を牛耳る教会の本部を制圧するなんて不可能だと思うだろう。だが、私達だって、それに彼らだって、何の勝算も無しにこんな大胆な作戦を展開しているというわけではない。
私達の引き起こしてしまった騒動で、魔道士達の警戒が少し上がっているという現状にもかかわらず、フリーフェイスが、わざわざこの日から、作戦の日時を動かさなかったというのも、彼らに支援を行ってくれていたエンディア国の存在が大きかったのだ。
私達の暮らしていたシャウン王国と並ぶほどの大国と言われるエンディア国は、アレナ聖教国の隣国の一つである。そんな大国が、わざわざ一介のレジスタンス勢力に密かに協力すると言うのも、周辺国からしてもこのアレナ聖教国の存在が疎かったという事情があったようだ。
私達とほぼ同タイミングでこの国へと来ていたエンディア国からの使者、要はオルガが元々会う予定だった女性に、私も面会する機会があった。エンディア国内では、妙な薬が闇ルートで出回っているらしく、最近急速に治安が悪化しているらしい。そして、その薬の出所こそが、まさしくこの国、アレナ聖教国であるらしいのだ。
そういった事情もあり、エンディア国も密かに、アレナ聖教会をつぶすために、密かに行動をしていたとのことである。おかげでフリーフェイスのメンバーもエンディア国から最新の武器や物資の支援を受けられているというわけだ。
そして、まさに今日、街の近くには、エンディア国からの援軍も、遠路はるばる来てくれているのだ。ザイオンの合図は、私達だけでなく、エンディア国からの援軍に対する、作戦開始の合図でもあった。
「俺達で、本部を制圧する! 行くぞ!」
本部の門の前には見張りの魔道士達が数人。深夜と言うこと、そして、既に街でザイオンが起こしてくれていた騒ぎに、魔道士達も応援に向かったことで、本部の防御は、いつもよりも薄くなっていた。
そして、ようやく私達の接近に気が付いた魔道士達は一気に声を上げる。
「敵襲! 敵襲!」
だが、すっかり油断していた魔道士達は、反応が遅れてしまっていた。その隙に、先制攻撃をしかるべく、ブラックらが一気に魔道士達へと接近し、エンディア国から受け取った武器を構える。
エンディアからフリーフェイスの面々が受け取っていた武器は、まさに私達が持っているのと同じように、魔鉱石で作られた銃のような武器だった。マナを持たない人間でも、魔鉱石を利用し、簡単に魔法のような力を発動できるその銃は、一発撃つのに、魔鉱石の弾を一個消費するが、熟練の魔法使いの魔法にも匹敵する魔法を放つことが出来る、そんな代物らしい。
ブラックが引き金を引くと、銃口から雷の魔法が発射され、警備を行っていた魔道士達へと襲いかかる。雷撃は一人の魔道士に直撃し、そのまま近くにいた魔道士達にも伝播し、魔道士達が一気に感電した。その威力は絶大で、周囲にいた魔道士達はすっかり気絶してしまったのだ。
「……すげーな、これ……」
おもわず、引き金を引いたブラックも、自らの手に合った武器を眺め、そう呟く。魔鉱石の弾の数は限られているし、そう何発もむやみやたらには撃てないが、それでも、頼りになる事はこの上ない。
「ブラックさん! はやく!」
だけど、まだまだ私達がいるのは門の前、まだ作戦は始まったばかりだ。まずは、応援の魔道士達が来る前に、一気に聖教会の本部を占拠しないことには始まらない。私の声で、銃を見ながら呆然としていたブラックも、ようやく我に返ったようで、私へと言葉を返してきた。
「わりい! わりい! つい、見とれちまってよ! 行くぞ! ここからが本番だ! イーナ、今度はお前達の力も…… 頼りにしているぜ!」
そう口にしたブラック。私達の侵入がばれたらしく、本部の建物の方からは、駐在していた魔道士達が一斉に私達の方へと駆けてくる様子が見える。
「わかったよ! シャウン王国零番隊の名にかけて、今度は私が!」




