117話 他愛もない幸せ
「と言うわけで…… これには深い事情があって……」
久しぶりに…… とは言っても数日ぶりではあるけれど、再開した仲間達に、弁解する私。再会を喜ぶどころか、何ともいえない気恥ずかしさに包まれた中、私は何とか言葉を振り絞っていた。
「イーナ~~ そんなに慌てなくてもさ~~ 似合ってるし良いじゃない~~ それより久しぶりの再会だよ~~ もっと喜ぼうよ~~!」
ニヤニヤしながらアマツが言葉を返してくる。そうだ、もうこの際、気にしたところで仕方ない! むしろ今の私は少女! 可愛い格好をして何が悪い!
「そうですよ! イーナちゃんが無事で、私…… 本当に心配したんですよ! それで…… ブラックさんに会って……」
ブラックに私のことを聞いた皆は、私の身を心配して、急いでここに来てくれたそうだ。そして、久しぶりに会えた私はというと、露出の高い衣装に身を包み、ノリノリで接客をしていたのだ。ルートやナーシェの驚いたような表情も十分に理解は出来る。
「まあ…… イーナちゃん。無事で何よりです。あの後、宿屋に魔道士達がやってきて…… 下の方で騒がしくなっていたから、早めに部屋を抜け出したんです! ルート君とアマツちゃんのお陰で何とかここまで逃げ延びることが出来て……」
魔道士達の目を盗み、皆はこの数日間、シュルプの街中に身を潜めていたらしい。こんなに早く皆の居場所が見つかったのも、魔道士達の目から逃れるため、警戒の薄い9番地区でこの数日を過ごしていたと言うことであり、思ったよりも私と仲間達は近いところにいたようだった。
「ルカ達も大変だったんだよ! なんか変なおじさんから一杯声をかけられるし…… 良い仕事があるよ! って! そのたびにルートが怖い顔でおじさんをにらみつけて……」
うん、それはルートよくやった。グッジョブ!
「それにしても…… あんなキラキラしたイーナちゃん…… 私、初めて見たかも知れません…… ついときめいてしまいそうに……」
突如としてぶっ込んできたナーシェ。ニヤニヤしながら便乗するアマツ。
「ね~~! 全くイーナにも可愛いところがあったんだね~~ 普段からそうしていれば良いのに~~! ねえ、ルート!」
突然、アマツに話を振られたルートは、飲んでいた酒を思いっきり吹き出した。明らかにルートは動揺していたのだ。思えば、私に会ってからのルートはいつも以上に口数が少ないというか…… あんまり私と話してくれないというか…… 一体どうしたんだろう……?
「……ああ、そうだな」
そして、またしてもぶっきらぼうに、言葉を返したルート。他の皆は、もうすっかりいつもの皆といったような感じなのに、ルートだけはやたらよそよそしい。
「ルート? 何かあったの?」
「何もない。とにかくイーナ、無事で良かった。それに道中、事情は聞いた」
仲間達も、ここに来るまでに、ブラックから状況を聞いていたようだ。フリーフェイスに協力することに異を唱える仲間もいないようで、話はスムーズにまとまった。それに……
「イーナくん、それに皆さん、狭いかも知れませんが、この2階の部屋自由に使って頂いてかまいません」
私達ヴェネーフィクス、そしてアマツが正式にフリーフェイスと協力関係になったということで、マスターの厚意で、私が使っている部屋を、皆で自由に使ってもらってかまわないということだ。何よりもありがたいマスターからの言葉である。皆で過ごすには、少し狭いかも知れないが、この状況で贅沢は言っていられない。屋根があるだけましというものだ。
「……マスターさん…… あの!」
部屋を使っていいと言ってくれたマスターを前に、ずっとそわそわとしていたルカ。意を決したように、ルカがマスターに向かって口を開いた。
「どうしたのですか? お嬢さん?」
「……あの! ルカも! イーナ様みたいに! 可愛い服で働いてみたいです!」
「え~~ ルカだけずるい~~ じゃあ私も~~!」
突然のルカの提案に、アマツまでもが乗っかってくる。そんな二人の言葉に、優しい笑顔を浮かべたマスター。
「ははは、元気なお嬢さん達だ。じゃあ…… せっかくだし、手伝ってもらおうかな?」
「おいおい、良いのかマスター?」
「ええ、こんなに可愛い子達が、働いてくれるというのなら、こんなにありがたいことはありませんから。ねえアリアくん?」
「ええ! 私は大歓迎ですよ!」
こうして、なぜか、ルカとアマツまでもがバーで働くことになったのだ。いろんな可愛らしい衣装に身を包み、ちやほやされる生活は、なかなかに楽しかった。ルートだけは何故か、少し不機嫌な様子だったが…… それはそれとして、楽しい時間というものはすぐに過ぎ去っていった。そして、ついに私達は作戦当日の日を迎えたのだ。




