114話 私にできる事
「でリーダー、どうするの? 例の作戦は。 予定の日は3日後だけど?」
席に腰掛けていたオルガは、そのまま椅子ごと、身体を私達の方へと向け、そう口にする。無邪気な様子でリーダーのザイオンに問いかけたオルガ。彼が口にしていた例の作戦という言葉に、引っかかった私は、その疑問を2人へと投げかけた。
「例の作戦って?」
話の流れからするに、アレナ聖教会に対して、何らかのアクションをふっかけるというのは明白だ。ザイオンは、一切の動揺を浮かべることなく、私に疑問に淡々と答えてくれた。
「そうだな、君にも話しておかねばならない。実は、元々我々は、エンディア国の支援の元、アレナ聖教会を打ち破る作戦を実施する予定だった。それが3日後の予定なんだ」
そんな重要な時期だとは知らず、この国に来てしまった私達。もしかしたら、私達がこのタイミングで、この国に来てしまったのは、フリーフェイスのメンバー達にとっては都合の悪い話だったかも知れない。
「……もしかして、私達が聖教会の魔道士達に見つかったから……?」
私達の飛空船が見つかったことで、聖教会の魔道士達の警戒は、確実に強まってしまっただろう。少なくとも、オルガは、私達と初めて会ったあの日、エンディアからの使者と会う約束となっていたのだ。そして、アレナ聖教国外からの侵入者がいるであろう事は、既に魔道士達にも知れ渡ってしまったのだ。
もしかしたら、いや、十中八九私達のせいで、魔道士達の監視というのも厳しくなり、フリーフェイスの面々が動きづらい状況に陥ってしまった。そう思うと、申し訳なさで忍びなくすら思えてくる。
「気にするな。そのお陰で、君達にも協力してもらえるようになったんだ。いずれにしても予定をずらすわけにはいかない。作戦は予定通り決行する」
「じゃあ私も……! 何か手伝えることがあれば!」
罪滅ぼしというわけではないが、せめて私も彼らのために何かをしたい。そんな思いでザイオンに声をかけた私。このまま、私だけ何もせず悠長に、黙って居るだけという訳にはいかないのだ。
「君には、ぜひ私達の作戦会議に参加してもらいたい。私にはわかる。君のその溢れんばかりの魔力…… ただ者ではないということが。キミの仲間の捜索は、我々に任せてもらって、イーナ、君の力を私達のために貸して欲しいんだ」
冷静な様子でそう口にしたザイオン。確かに、ザイオンの言うとおり、ここでむやみやたらに私が動き回る事で、これ以上、聖教会の魔道士達を刺激するよりは、この街の事情に詳しいフリーフェイスのメンバーに、仲間達の探索を任せてしまった方がいいだろう。
「わかった。ザイオンさん! 仲間達の事よろしくお願いします!」
「イーナくん。2階の部屋はご自由に使って頂いて結構です。聖教会の目もここまでは届きません。作戦までの間、ここで過ごして頂くのが良いでしょう」
そして、そう提案してきたマスターの言葉に、フリーフェイスのリーダー、ザイオンも同意する。
「そうだな、マスター! 彼女のこと、よろしく頼む。いつも頼み事ばかりですまないな」
「いえいえザイオンさん、あなたたちのお陰で私らもこうして商売をやっていけているのです。それに、お話を伺っている限り、あなたたちにとって、イーナくんは作戦の鍵になる重要な人物なのでしょう? ここにいる間は、私の方で責任を持って彼女の身の安全を保証します」
「マスター! 本当にいいんですか!?」
「ええ、私はいつもそれ以上の恩を、彼らから頂いていますから」
笑顔を浮かべ、そう口にしたマスター。マスターの提案は、私にとっても、非常にありがたい話ではあるが、このまま何もせずにただ部屋だけを借りていると言うのも何となく忍びない。
「じゃあマスター! せめてお店のお手伝いは、続けさせてください! 給料はいりませんし、フリーフェイスの方には、支障が出ないようにしますから! こんなに色々と…… 頂いてばっかりでは私の気が済みません!」
「ですが……」
「良いんじゃないか? マスター。 もちろん、フリーフェイスの作戦会議には参加してもらうが…… 少なくともイーナの仲間達が見つかるまでは、それ以外にイーナに頼みたいこともないしな」
「わかりました。イーナくん。もうしばらくよろしくお願いします。それと…… ちゃんと給料は払わせてくださいね」
しばらくはマスターの元で暮らしていけるということで、なんとか、シュルプでの生活にも目処が立った。その後、マスターに礼を告げ、一度、店を後にした私。私は早速、ザイオン、そしてオルガと共に、フリーフェイスの作戦会議へと参加することになったのだ。




