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log29.ディノレックスという壁

 ―――その後、復活したコータも交えてディノレックス討伐に臨んだリュージたちであったが、三十分後にはミッドガルドへリスポンすることとなってしまった。


「敗因は、火力不足かしらね……」

「んだなぁー。マコの最大チャージファイアボールは通じたけど、それ以外は通じてないっぽいし」


 チャージファイアボールは確かに通用した。だが、固定砲台一基でどうにかできるほど、レアエネミー・ディノレックスは甘くはなかった。

 どれだけ素早く攻撃がかわせても、リュージたち前衛の攻撃は通用せず、チャージファイアボールによって発生したヘイトを散らすことが出来なかったのだ。結果、前衛を素通りしたディノレックスはマコを瞬殺。レミが回復する間もなく、まずマコが落ちた。

 その後は言うまでもない。武器破損一歩手前まで追い詰められ、三十分の長丁場で集中力の途切れもあり、リュージたちは各個撃破されてしまった。


「武器の素材を新しくするのが一番楽かしら……」

「10Lv未満だと何か良い素材あったかなぁ。あったとして、ギアスキル開放を待つのとどっちが早いのやら」

「むぅ……」


 暗い表情で顔を付き合わせ先ほどの敗因を分析するリュージとマコ。リュージと比べるとマコのほうが表情が重い。自分が言い出したことがどれだけ大変な道なのか、それを今更思い知っているといった表情だ。

 隣に座っているソフィアたちの表情も、明るいものではない。自分たちの力が通用しないという事実が、彼らの心に重く圧し掛かっているのだろうか。

 ……そんなリュージたち一行を眺め、コーヒーを啜りながらジャッキーがポツリと呟いた。


「……いきなりレアエネミーに遭遇しているというのに驚きを隠せないが、ならばなぜ私のところに来たのかね?」

「いや、ほら。困ったときは頼れる先輩に相談しようってノリですよ」


 ジャッキーの問いに、リュージはあっけらかんとした表情になってそう答える。

 今、彼らがいる場所はジャッキーが所属する初心者への幸運(ビギナーズラック)のギルドハウス。どこかにありそうな学校の姿を模した、大型のギルドハウスの一種だ。

 ギルドハウスとしてはかなり大型の部類に入る初心者への幸運(ビギナーズラック)のギルドハウスは、豪勢なことに所属するメンバーに個室が与えられているらしい。もちろん、入って日の浅い者たちに関しては職員室のような形式の相部屋が与えられるが、それでもかなりの人数のメンバーが個室を持って過ごしている。

 ジャッキーも個室組の一人で、その部屋の内装は英国紳士風、とでも言うのだろうか。格式の高そうなドレッサーや、古い様式の執務机。今、リュージたちが腰掛けているのも年季の入ったソファと徹底して、アンティークな様式の家具で揃えられている。

 ジャッキーが入れてくれた、アンティークカップ入りのコーヒーをグビリと飲み干しながら、リュージは肩をすくめる。


「いい素材が入ればいいなぁ、程度の気持ちでランダムイベント起こしましたらディノレックス引きまして。さっきも這う這うの体でリスポンさせられてところですよ」

「逃げ切れていないから用法として正しくないぞ、それ。しかし、ディノレックスか……」


 リュージの発言を厳しく添削しながら、ジャッキーは顎鬚をゆっくりと撫でる。

 顔を挙げて彼を見上げながら、マコが口を開いた。


「なにかご存知ですか? リュージはあまり遭遇したことないモンスターということで、ほとんど何も知らないみたいで」

「レアエネミーで、しかもミッドガルド周辺で出会うモンスターだからな。知らないのも無理はないが……今の諸君らには、相当荷が重いモンスターだぞ」

「え、そうなのですか?」


 ジャッキーの言葉に、コータが驚いたように目を見開く。


「レアエネミーって、基本的にこちらのレベルを参照してステータスが決まるって言うから、僕らでも倒せるんじゃ……」

「まあ、その通りなんだが……問題は、ディノレックスが持っている装甲でな。君ら、武器は大丈夫かね」

「……いえ。ここに来る途中で、鍛冶屋によって修理してきました」


 ディノレックスを一撫でしただけで半壊したレイピアの様子を思い出し、ソフィアは悔しそうに歯軋りをする。


「こちらのダメージがほとんど通らない……。ディノレックスに特殊な能力がないという話は本当なのですか?」

「ああ、もちろんだ。ディノレックスに特殊能力は一切ない。ただ、君らのレベルで最も最良の装備に対抗できるように装甲値が決定されるだけだ」


 ジャッキーはカップを机の上に置きながら、ディノレックスに関しての説明を始める。


「君らは装備を買い換えたかね?」

「いえ……。一番最初に買った劣鋼装備のままです。特に不自由もしませんでしたし」

「やはりか……。ディノレックスの装甲だが、10Lv未満のプレイヤーと遭遇した場合、鋼装備を基準とした装甲値になるんだよ」

「鋼ですか……どうりで」


 ジャッキーの言葉に、ソフィアが納得したように頷く。

 鋼装備といえば、イノセント・ワールドにおいては最もメジャーな武具素材の一つ。ゲームのラスボスである魔王戦でも育成次第では十分通用するだけのポテンシャルを持ち、誰でも入手可能なお手軽さから万人に愛される素材なのだが、唯一にして最大の欠点として10Lv以下では重くて装備できないというものがある。

 劣鋼は言葉の通り、鋼に劣る素材だ。素のままの状態では当然鋼に及ばず、強化するにしてもこの街では鋼を超えるだけに鍛え上げられる鍛冶師NPCがいない。

 スキルを持たず、火力係も一人しかいないリュージたちのパーティでは、現状戦力ではディノレックスの装甲を抜くのは難しいというわけだ。


「無論、装甲が適用されるのは鱗部分になるので、そこ以外を攻撃できればよいのだろうが……難易度は高いからなぁ」

「目は厳しいし、口の中も……」

「攻撃しようとした瞬間にゃ、胃袋の中に納まってそうだよな」


 噛み付きを主力とするだけあって、ディノレックスの口撃はリュージたちには神速に近い。直接攻撃しようにも、攻撃した態勢のまま食べられて終わりだろう。


「せめて特殊な撃破方法が通用するレアエネミーであったらな……この辺りででるものだと、ブロークンゴーレムとか」

「あー、額の文字を削れば即死するって奴でしたっけ? 噂でしか聞いたことないけど、そいつは武器になる素材を落とすんすか?」

「一応な。未来系武器の素材に最適な炭素素材を落としたはずだ」

「炭素素材……持込でなんか作れるのかね、それ……」


 リュージは唸り声を上げて悩み始める。

 リュージの言葉から大体彼らが何をしたいのか察したジャッキーは一つ頷く。


「なるほど。欲しかったのは、新しい武器の素材だったか」

「ええ……。私のわがままで、ニダベリルに言って、銃器取得クエストをやろうって話になって……。向こうで通用する武器の素材を手に入れるためにって、馬車イベントを起こしたら……」

「銃器イベントか。それはまた……」


 ジャッキーは小さく微笑む。


「楽しそうな話だ。私のパーティにはそういう茨の道を好む輩はいなかったので、低レベル帯でのチャレンジはほとんどなかったからなぁ」

「茨の道……ですか、やっぱり」

「ああ。ニダベリルのイベントも、基本的には15Lv前後程度はステータスが欲しい。主にモンスターを討伐するためにな」

「………」


 ジャッキーの一言に、さらに重く沈黙するマコ。

 その脳裏でなにを考えているのか、彼女の重苦しい表情からなんとなく察したジャッキーは先達として声をかける。


「だがなに。どんな道にもやりようはあるさ。確かに道が茨で出来ていようとも、真面目にその上を歩いてやる必要はなし。ようは、如何にして目の前にある障害を乗り越えるかを考えるべきだろう」

「障害……ねぇ」


 ジャッキーの言葉に、マコは光を失った瞳で天井を見上げる。


「その障害が物理的に厚くて高いんじゃ、割とどうしようもないですよね……」

「足元が砂地なら潜っていけるんだけどなー。問題は、その壁の中にあるものが欲しいってことなんだよなぁ」

「壁を壊すには力も道具も足りない……」

「それを揃える資金もない……」

「どうしたら良いんだろうね……」


 マコの気分が伝播したのか、お通夜ムードに陥るリュージたち。

 そんな彼らの様子を見て、ジャッキーは後ろ頭を掻いて困惑する。


「……まいったな」


 初心者であるマコたちはともかく、リュージまで気落ちしているのはジャッキーも始めてみた。

 竜斬兵アサルト・ストライカーと呼ばれていた頃の彼にはまったく無縁の表情だ。打開策が見えないという状況が、彼にとっても重荷なのだろう。

 ゲームを始めた彼らの面倒を見始めた手前、早急に何らかの打開策を提示せねばと初心者への幸運(ビギナーズラック)の者として思うのであるが、ジャッキーの頭の中に名案は浮かばなかった。

 ゲームの先達として言うのであれば「はよギア開放せい」の一言に尽きる。強力な攻撃スキルさえ使えるようになれば、ディノレックスにも劣鋼装備でダメージを与えられるようになる。リュージたちの攻撃がディノレックスに通用しないのは、単に通常攻撃しか使っていないからだ。そういう縛りもあるが、縛る必要がないのならそれに越したことはない。

 だが、ギアシステム開放を待たずに銃器の獲得を目指す以上、そこに目的があるのだろう。恐らく、銃器をカテゴリーギアに据えたいのか。

 課金すればギアシステムのリセットは確か出来たはずだが、それを薦めてしまうのはよろしくないだろう。ゲームを初めたばかりの初心者に課金を強要するのは、人としてどうなのか。


(さりとて、このまま悩んでいて埒が明くわけもなし……)


 はてどうしたものだろうか、と沈んだリュージたちを前に思い悩むジャッキー。

 そんな彼を訪ねて、一人のプレイヤーが部屋の中に入ってきた。


「オッス、ジャッキー。たまには誰か誘って一緒にダンジョンにでも……何だよ、この暗い状況は、うん」

「アラーキーか……」


 初心者への幸運(ビギナーズラック)の同僚にしてイノセント・ワールドをはじめてから付き合いのあるフレンドでもある、アラーキーは、部屋の中に入るなり眉をしかめて部屋の中を見回した。

 ジャッキーはリュージたちの席を迂回してアラーキーの元までたどり着くと、申し訳なさそうに頭を下げる。


「すまんな。今、面倒を見ている子供たちが来ているのだ。ダンジョンへは、また今度誘って欲しい」

「いや、そりゃかまわんけどな。一体何があったんだよ。なんか、世界が滅びかねない雰囲気じゃないか、うん?」


 沈み込む子供たちの様子を見て、アラーキーは真剣な表情でジャッキーの問いかけてくる。

 リアルでは教師でもある彼に、この状況は見過ごせないのだろう。

 ジャッキーは気の置けない仲である彼が来たことに感謝しつつ、今の状況を説明する。


「実は―――」

「ふむ? ふむふむ……」


 ジャッキーの説明を聞き、概ね状況を理解したアラーキー。

 彼は何度か頷くと、ジャッキーを安心させるように大きく頷いてみせる。


「なるほど。そういうことなら、アラーキーさんにお任せなさい」

「なに?」

「彼らでも出来る、ディノレックス対策をきっちり授けてしんぜようじゃないか」


 そういうと、アラーキーはリュージたちの傍に近づき、大声を張り上げる。


「なんだなんだ、元気がないぞ諸君!」

「――誰よアンタ」


 アラーキーの大声に、凶眼を差し向けるマコ。

 初見であれば怯みかねない殺気のこもり方をしていたが、アラーキーは欠片も怯まず大声で続ける。


「俺はアラーキー! 初心者への幸運(ビギナーズラック)の一員で、ジャッキーのフレンド!」


 バラバラと顔を上げたリュージたちの沈んだ顔を見て、アラーキーは輝かんばかりの笑みを浮かべてみせる。


「そして! 君たちにディノレックス必勝法を授ける者だ! よろしくな、うん!」




なお、初心者への幸運(ビギナーズラック)内に階級はないが年功序列はある模様。

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