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log121.ギルドハウスにて

「では改めまして……俺は異界探検隊のリュージ。よろしくな」

「私はソフィアという」

「サンシターであります。自分は、以前お会いしたことがあったでありますな」

「ああ、覚えているとも。無所属の、セードーという」

「私はキキョウと言います。よろしくお願いします」


 始まりの森での決闘を終えた一同は、その後人目を忍ぶような形で異界探検隊のギルドハウスへと舞い戻った。

 話題の渦中となる二人と一緒に歩いているところを見られたりすれば、その場で大騒ぎになることは目に見えていた。幸い、人目の少ないミッドガルドの正門付近からも馬車は出ているし、異界探検隊のギルドハウスがあるのは馬車駅から歩いて数分の立地だ。人目を忍んで行動するのは特に問題なかった。

 件の騒ぎのせいで若干心が荒れていたセードーたちであったが、リュージとの決闘が良いガス抜きになったのか、異界探検隊のギルドハウスに到着する頃にはすっかり落ち着いた様子でしゃべれるようになっていた。


「ちなみに流派は外法式無名空手という」

「私は橘流杖術です! お二人は、どのような武術を学んでおられるんですか?」


 落ち着き払った二人は自らの流派を名乗り、それから期待を込めたまなざしでリュージとソフィアを見つめた。


「リュージの先の戦いぶり、実に見事だった。何らかの下地あってこそだろう」

「ソフィアさんもカウンターも、見事でした! さぞ名のある剣術を収められているんでしょうね……!」

「「………」」


 期待の篭った武人たちの瞳の輝きに、思わず沈黙するリュージとソフィア。

 しばしの沈黙の後、スッと背を伸ばして二人は静かに口を開いた。


「我流喧嘩殺法を少々……」

「学園式フェンシング術を嗜んでいて……」

「何も即席にヘンテコ流派を開祖せずとも。素直に武術をやっていないといえばよいではないでありますか」

「いや、こう、期待されちゃうと……それを無碍にするのもいかがなものかと思って……」

「……え? 何も、やっていないんですか?」


 サンシターのツッコミを聞き、キキョウはきょとんとした表情で二人を見やる。

 先の決闘や、己の攻撃への返しなどから、二人が何かの武術を学んでいると確信を持っていたらしい。

 ソフィアはそんなキキョウの純粋な思いに申し訳なく思いながらも、頬を搔きながらサンシターの言葉を肯定する。


「いや、本当に申し訳ないんだが、特定の武術を学んでいるということは……。まあ、護身術を嗜んでいる程度だよ」


 と、そこで何かを思い出したようにソフィアはリュージの方を見てポツリと呟いた。


「けど、リュージはお母上がなにかの剣術をやっていらしたんじゃなかったか? 以前お話したとき、ちらりとお伺いしたが」

「ノウ! その話はノウ! 未だにかーちゃんの実家からのラブコールがひどいから!」


 リュージが慌ててその話を拒否しようとするが、セードーがキラリと瞳を輝かせて食い付いてくる。


「ほほぅ? その話、ぜひ詳しく」

「いやいやいやいや、話すようなことは何もなくってよ? 俺はお袋から剣術なんて学んでねーし? どこにでもいるただの高校生ですし?」

「ただの高校生は剣を突きたてた勢いで加速したりせんだろう……。なんだったか……確か、神宮派とか何とか……」

「神宮……? ひょっとして、神宮派形象剣術のことですか?」


 ソフィアの出した名前を聞き、キキョウが驚いたように一つの剣術流派の名を上げる。

 それにさらに驚いたリュージが目をむいてキキョウの方を見た。


「なに!? 何でそんなマイナー剣術の名前を知ってんの、キキョウちゃん!?」

「おじいちゃんから話を何度か聞いたことがあって……。確か一子相伝を守り続けていた、古式剣術流派と」

「ほほぅ」


 セードーの瞳の輝きが物騒なものを帯び始める。今にもリュージに再戦を申し込みそうだ。

 キキョウは自分の記憶を慎重に探りながら、神宮派形象剣術について話し始める。


「動物の動きを取り入れた技を使う、珍しい流派だったと聞いていますけど、確か……今代の継承者さんがお嫁にいった関係で、その後の継承者の当てがなくなったとか……今は、先代さんが師範代として流派の看板を背負ってらっしゃると、おじいちゃんが」

「ふむ? 嫁に行ったから流派の存亡が危ういと? どういうわけだ、リュージ」

「俺に聞かれましても。一子相伝の条件が“神宮”性を名乗るとかだからじゃないの?」


 セードーに真面目に問われ、リュージは困惑しながらも彼の問いに答える。


「俺はそっち方面にはからっきしだから……あんまり聞かれても答えられませんことよ?」

「そうなのか? あれだけの力、ただ腐らせるには惜しいだろう。お前であれば、達人への道に至ることも可能だろうに」


 実に惜しそうに呟くセードー。

 例えこれがゲームであっても、彼との戦いで感じる何かがあったのだろう。

 武術を志す一人の武人として呟くセードーに、リュージは一つため息をつきながらはっきりと告げる。


「あのなぁ。俺は今、一つの道を探るのに忙しくて、剣術なんてやってられねぇんだよ。期待してもらって悪いんだけどな」

「なに?」

「それは……一体何の道なんですか!?」


 リュージの言葉に、セードーとキキョウは真剣な表情で彼の次の言葉を待った。


「俺が今、探し迷っている道……。それは、な」

「――あ、次の言葉がわかったであります」


 リュージが何を言い出すか察したサンシターは、最近常備する事にした道具をソフィアのすぐ傍に置いた。

 サンシターの行動に気が付かぬまま、リュージは立ち上がり、拳を握り、天を仰ぎながら大声ではっきりと告げた。


「それは! 恋! 愛! 道! ソフィたんと二人で進むことの出来る、愛の道を模索する、ラブストレンジャー! 愛という袋小路をさ迷い歩く、迷い人!! それが――!!」

「そぉい」


 リュージの戯言を遮るように、ソフィアは彼の頭に逆さまに花瓶を被せる。

 がぽんと大きな音を立てながら遮断されるリュージの妄言。彼は花瓶を被せられると、ゆっくりとその場に正座を始めた。

 ここ最近のソフィアのツッコミが花瓶による視界遮断になってからは、このように割りと素直におとなしくなるようになった。さすがにカフェで気絶するほどにぶん殴られたのが堪えているのだろうか。

 おとなしく正座の体勢になったリュージの隣に座りなおしながら、穏やかな表情でソフィアはセードーとキキョウへ語りかける。


「この色ボケの世迷言を真に受けてはいけない。いいね?」

「「……はい」」


 二人の武人は、ソフィアの放つ静かな威圧感を直感で感じ、ただ頷く事しかできなかった。

 それ以上の追求を抑え込んだソフィアは、咳払いを一つすると自分が聞いた話を二人に聞かせた。


「……まあ、私も神宮派の事情に詳しくはないんだが、そもそもの原因はリュージのお父上にあると聞いたことがある」

「リュージの?」

「うむ。まあ、さすがにこれ以上はプライベートに踏み込みすぎか」

「と言うより、もうだいぶアウトな気もするでありますな……。特に一子相伝の剣術流派の話なんて、身バレがどうこうという話ではないでありますよ」


 今更と言えば今更なサンシターの台詞。これが大衆にも広まっている有名な流派であれば問題ないが、一子相伝とあれば逆に個人情報を特定できないほうがおかしかろう。

 顔を引きつらせながらも、サンシターは笑顔でセードーとキキョウに釘を刺してやる。


「二人とも、ここで聞いたことを方々に言いふらしては駄目でありますよ? ネットゲームにおいて、こうしたリアルの話題と言うのは本来タブーでありますからね?」

「……そういえば、そうでした。ごめんなさい」

「すまない……。久しぶりに、血の猛るような武人に会えたことで、思っていた以上に興奮しているようだ」

「いえ、わかっているのであればよいでありますよ。そもそも、その話をしたのはソフィアのほうでありますし、ね?」

「む……そうでしたね。リュージ、すまなかった」

「……あ、もう怒ってないの?」


 リュージに謝りながらソフィアは彼の頭の花瓶をはずす。

 修行僧のような悟った表情でおとなしくしていたリュージは、ソフィアの声を聞き我を取り戻したようだ。ほっと一息つきながら、腕を組んで仕切り直しを始める。




なお、神宮派に止めを刺したのは後継者候補が素人に敗北した事実とのこと。

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