log113.勝利の雄たけび
「よかった……! 落としてくれて……」
「ああ、そうだな。それで、リュージは!」
ソフィアは叫びながら、リュージがいる方向へと振り返る。
リュージがリスポンしたというような情報は視界の中には流れていない。生きてはいるはずなのだが……。
「っだぁ!!」
果たして、ソフィアの視界の先で、リュージはしっかりとまだ生きていた。
だが、空を駆け回る妖精竜に対して、一方的な戦いを強いられていた。
先の妖精竜と違い、HPはまだ豊富に残っている増援妖精竜は、咆哮を上げながら口元から空気弾のようなものを連射する。
「えっ!?」
「カウンター以外でも、あんな行動があるのか……!?」
妖精竜の予想外の行動に驚くコータとソフィア。
殺到する空気弾に対し、リュージはグレートソードを盾にしてその場を凌ごうとする。
だが、妖精竜の放つ攻撃は基本的に魔法属性。体当たりのような物理的な攻撃はともかく、この空気弾の様な攻撃は、物理オンリーのグレートソードでは凌ぎきれない。
次々と着弾する空気弾は容赦なく炸裂し、リュージのHPを容赦なく削り、木の葉のようにその体を弾き飛ばしてしまう。
「ぬぁー!?」
「リュージ君!? ヒール!!」
吹き飛ぶリュージに、レミのヒールが飛んでゆく。
何とか回復効果が発動し、リュージの体が泥の中に着水する前に彼のHPを回復してくれる。
そして、リュージを吹き飛ばした妖精竜は、自分が助けに来たはずの仲間が消えてなくなってしまったことに気が付いたようだ。
その瞳の中に一層強い怒りの光を宿し、鋭い咆哮をあげる。
すると、妖精竜の足元から水が渦巻きながら立ち上り始める。
「渦潮の竜巻まであるのかー……めんどうねぇ」
マコは顔をしかめながら、妖精竜を叩き落す魔法を選ぶ。
今まで受動的に行っていた属性による攻撃を、能動的に行使し始めた。となると、カウンターを封じる戦法が通じなくなってしまったと言うことだ。
「どうする……!?」
ソフィアは焦りに臍をかみ締める。
こちらに属性攻撃を封じる手段は一種一属性分しかない。多様な属性を使われてしまうと、防御手段のないこちらの方が不利だ。
増援も、これからないとは言い切れない。卵は一つ手に入った。ここは引くべきか?
「かぁぁぁぁざぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!」
「「ッ!?」」
ソフィアが迷った一瞬、リュージは雄たけびと共に妖精竜へと跳び上がり攻撃を仕掛けていた。
燃え上がるグレートソードは触れただけで灰になりそうな勢いで燃え猛る。
妖精竜も、それに触れるのはごめんであったのか、慌てたように渦潮竜巻を操りリュージへとぶつけようとする。
リュージは素早く目標を変えると、立ち上っていた渦潮竜巻に炎のグレートソードを叩きつける。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁッ!!」
リュージの刃は、真っ向から竜巻を斬り裂き、そのまま霧散させてしまう。
炎の刃は竜巻を斬り裂ききる最後までその勢いを保ち、あまつさえ地面に着地した瞬間にあたりへと巨大な爆火を撒き散らした。
その一撃によって生まれた焼けた地面の上に立ち、リュージは振り返らないままに仲間たちへと叫ぶ。
「悩むこたぁねぇよ! 相手は一匹だ! このまま押し切るぞ!!」
「……それしかないわよねぇ」
マコはため息を一つつくと、手の中に火の玉を生み出しながらリュージへと叫ぶ。
「あたしが落とすから、速攻で畳みなさい! レミ!」
「あ、うん! 回復は任せて!」
「おっしゃいくぞオラァ!!」
息継ぎもなくそう叫ぶと、リュージはグレートソードを振り回しながら妖精竜へと駆け寄ろうとする。
マコはファイアボールを空へと打ち上げながら、ソフィアとコータにも指示を飛ばす。
「あんたたちも行きなさい! 増援が来るなら、その前にぶちのめす! 相手は一匹なんだからね!」
「……そうだったな」
ソフィアは小さく笑うと、レイピアを構えなおす。
「いくぞ、コータ!」
「ああ、わかったよ!」
コータも、リュージの叫びに感化されたような強い笑みを浮かべながら、刃に光を灯した。
マコの打ち上げたファイアボールは何とか妖精竜の体に命中し、その高度を下げることに成功する。
「オリャァ!!」
トリガーハッピーで地面を焼きながら前進するリュージ。
グレートソードを勢いよく振り回すも、目測を見誤ったのか、その切っ先が毛皮に微かに触れるばかりであった。
「あっ!? くそっ!」
リュージは驚いたような顔になり、反射的にトリガーハッピーの銃口を妖精竜へと向ける。
その引き金を引いた瞬間、妖精竜は体を捻りその先から逃げ延びる。
「逃げんなコラァ!」
「ヤァァァ!!」
その逃げた先に回りこんだソフィアが、ソニックボディを纏いながら妖精竜へと斬りかかる。
焼き固めた地面を蹴り、体を捻りながら跳び上がったソフィアはそのまま回転し、妖精竜へと斬りかかる。
「エリャァァァァ!!」
鋭い回転を伴った斬撃は、風ごと妖精竜の毛皮を斬り裂く。
鋭い斬撃の痛みに身を捩る妖精竜。リュージが焼き固めた地面の上に着地しながら、ソフィアはリュージに檄を飛ばす。
「休むな! 畳み掛けろ!!」
「アイサー! オラくたばれー!!」
ソフィアの指示に気炎を上げながら、リュージはグレートソードを再び振り回す。
勢いよく体ごとグレートソードを回転させ、全力で巨大な刀剣を妖精竜へと投げつける。
「必殺の円月斬ンンンンン!!!」
「えーっ!?」
まったく躊躇せず、己の武器を手放すリュージを見て、ソフィアは唖然とした声をあげてしまう。
だが、飛び上がりかけた妖精竜は、突拍子もないリュージの一撃を喰らい、空中でもんどりを打つ。
妖精竜を無事に空中から叩き落したグレートソードは、自分の役目は終わりだと言わんばかりに、近くの樹木に突き立ち、そのまま沈黙してしまう。
「カムバック、相棒ー!!」
「戻ってこんなら馬鹿なことするなっ!!」
そのまま沈黙してしまったグレートソードに向かって空しく手を伸ばすリュージの頭を、ソフィアは遠慮なく引っぱたく。
泥の中へと落下した妖精竜へは、コータが向かっている。
「これで……!!」
先の攻勢の間に、妖精竜のHPはかなり減じている。畳みかけ続けられれば、増援がやってくる前に倒しきることが可能なはずだ。
コータの手の中に一際強い光の輝きが生まれるが、それを見た妖精竜が倒れながらも咆哮をあげる。
「ッ!?」
幾度となく聞き覚えのある咆哮を耳にし、コータは反射的に足を止める。
だが、その行動は遅すぎた。次の瞬間には、コータの刃に宿る光が妖精竜へと吸収され始めたのだ。
「え!? あの距離で吸収が働くでありますか!?」
斬りかかるには遠く、魔法を撃つには近い。
そんな絶妙な距離で働く属性吸収を目の当たりにし、サンシターが悲鳴じみた声を上げる。
引くにも微妙な距離で強化状態を失い、コータの思考に一瞬の空白が生まれる。
その一瞬の隙を突き、妖精竜は属性カウンターをコータに向けて放とうとする。
「っさっせっるっかぁー!!」
だが、コータの思考の空白を焼き払うようにリュージが二丁のトリガーハッピーの引き金を引く。
さながらポップコーンが弾けるような軽やかな音共に吐き出された銃弾は、妖精竜の周りで爆炎を撒き散らす。
妖精竜はあからさまに顔をしかめるが、それに構わずコータに向かってレーザーを解き放った。
「フォースバリアー!!」
生まれていた隙は一瞬。しかし、レミがスキルを発動するのにその一瞬は十分であった。
コータを包むように現れたバリアは、妖精竜のレーザーを無効化する。
妖精竜は自らの攻撃を無力化されたことを悟り、飛び上がって退避しようとする。
「ソードピアスッ!!」
それを押さえるように、樹木へと駆け上がったソフィアのソードピアスが強襲する。
風の勢いも乗った神速の突きは、土台に縫い止めるように妖精竜の体を貫いた。
「コータっ!!」
「光破刃ッ!」
仲間たちの作ってくれた隙に、コータは再び光破刃を発動する。
眩い光を放つ刃は、コータの手により妖精竜へと叩き込まれる。
「これでぇぇぇぇぇぇ!!」
その首を叩き落すように振り下ろされた光の剣は、何の抵抗もなく妖精竜の首を斬り裂く。クリティカルの快音が辺りに響き、妖精竜のHPは0となった。
半ばほどに断ち切られた首から、空気の漏れるような音が聞こえ、妖精竜の体はそのまま焼き固められた地面に向かって倒れこむ。
光の粒子となり消え去った妖精竜のいた場所には、卵が一つ残される。
「……ぃいやったぁぁぁぁぁぁぁ!!! 勝てたぁぁぁぁぁぁ!!!」
妖精竜に勝利したこと。そして、二つ目の卵ドロップ。
完全勝利ともいえる結果を手にしたコータは、思わずと言った様子で喜びの声をあげた。
なお、卵のドロップ率は1%未満とも言われている模様。




