log111.光竜、刃のごとし
「おらっしゃー! リベンジマッチじゃー!!」
再び、熱帯雨林に足を踏み入れた異界探検隊。
熱帯雨林に足を踏み入れ、十分ほどか。程なく妖精竜が姿を現した。
甲高い声で鳴く妖精竜を見上げ、リュージは思いっきり啖呵を切る。
「やいやいやい! さっきまではよくもやってくれたなぁ、毛むくじゃらトカゲが! 今度こそ、その体掻っ捌いて、三枚におろして焼いて食ってやらぁよ!!」
「食うんじゃない! 捕まえるんだろうが!!」
大見得を切るリュージの後頭部をひっぱたきながら、ソフィアはレイピアを構える。
「大体にして、食えるもんじゃないだろう! ドラゴンなんぞ!」
「いや、可食部は結構多いから食えるもんよ? 筋張った食感の奴が多いけど、一部はホント、最高級特Aクラスの和牛にも劣らない食感で」
グレートソードを肩に担ぎながら、物騒なことを口にするリュージ。
それを彼らの後方で聞いたマコがジュルリと音を立てて唾を飲み込み、隣に立つサンシターのほうへ向き直る。
「ねえ、サンシター」
「いや、厳しいでありますよ!? あれに止めを刺すのは、自分には!!」
マコの言葉に、サンシターは慌てて首を横に振る。
サンシターが手に持つ包丁は基本的に調理用具であるが、対モンスター戦においては食材の確定ドロップを狙うための武器となる。
料理スキルのレベルが7を超えた、ギア取得済みのプレイヤーでなければ食材のドロップを発生させられないが、確実に食材のドロップが見込めるため異界探検隊では、たびたびサンシターによるモンスターの解体ショーが行われるようになっていた。
ただ、もともとが道具なだけあり火力が控えめであり、なおかつサンシターが振り回す包丁でモンスターに止めを刺させるのはなかなか至難の業であり、たまに敵モンスターのHPがミリで残った時にやってみる程度の期待値だ。妖精竜に対して、同じことを期待するのは厳しいだろう。
「いやほら。万が一、ってあるじゃない?」
「狙って起こすのは万が一とは言わんであります!」
「そうだよマコちゃん!? それに、妖精竜を食べるなんて私には出来ないよ!!」
マコの横暴を許さぬといわんばかりに、慌てて前に出るレミ。
「妖精竜は仲間にするんだから、食べちゃ駄目!!」
「そうだよ。それに、おとなしく食べさせてもらえるとも思えない」
レミの想いに答えるように、コータは光破刃を展開する。
「こっちも全力でいかなきゃ、またやられるよ……!」
「だな」
「というわけだ。妖精竜のステーキは、また今度だな」
「今度もなしだからぁー!」
各々武器を構えるリュージたち。彼らの戦意に呼応するように、妖精竜はまた鳴き声を上げる。
そしてレミの悲鳴を背負いながら、三人は一斉に駆け出した。
「いくぞ! まずは、先の話の検証からだ!」
「ぶちかませ、コータ!」
「オッケー!!」
三人の先頭に立つコータは、強い光を放つ光刃を容赦なく妖精竜へと叩き付けた。
「ハァァ!!」
すんでのところで、コータの一撃を回避する妖精竜。
妖精竜はそのまま上空に飛び上がろうとするが、湿地の悪路をものともしないリュージは、樹木を駆け上がりその頭上を押さえる。
「まだ飛ぶんじゃねぇよ!!」
振り下ろされたグレートソードの刃を、妖精竜はそのまま頭で受け止めてしまう。
だが、ふわふわの毛皮が防刃を備えているのか、リュージの刃はほとんど妖精竜に通じない。鈍重な刃の放つ衝撃だけが、妖精竜を湿地へと叩き落した。
「斬撃耐性あるぞこいつ!」
「ただの毛皮ではないか!」
泥の中を四苦八苦しながら駆けるソフィアは、素早く自分の顔の前にレイピアを構える。
「だが、刺突属性はどうだ!?」
そして大きく手を引き、勢いよくレイピアを前に突き出す。
「スマッシュ・スティンガー!!」
新たなる刺剣のスキル、スマッシュ・スティンガー。
細い刃から放たれた衝撃波は、さながら一本の矢のように鋭く飛翔し、妖精竜の毛皮に突き刺さる。
苦悶の鳴き声を上げる妖精竜。コータは妖精竜が痛みにもだえる間に一気に間合いを詰めた。
「ごめん……ねっ!!」
そして一言詫びを口にしながら、手にした刃を容赦なく振り下ろした。
輝く光剣の一撃を喰らい、さらに大きな悲鳴を上げる妖精竜。
その様にレミが痛ましげな表情になるが、マコは険しい顔つきで彼女に喝を入れた。
「ほら、ぼさっとしない! 来るわよ!」
「わ、わかった!」
マコの言葉に、レミは自分を取り戻そうと頭を振り回す。
それに答えたわけではないだろうが、妖精竜は苦悶の表情を怒りで塗りつぶし、鋭い咆哮を上げる。
その咆哮と共にコータの光破刃は吸い取られるように消えうせ、代わりに妖精竜の頭上に大きな光球が生み出される。
「光破刃が……! やっぱり、こっちの属性を利用するんだ!」
「属性開放したてのパーティじゃ、地獄だぞこいつ!」
妖精竜の特性に悲鳴を上げるリュージ。
属性の無効化スキルは、もっと高いレベルにならなければ取得できない。運が良ければアクセサリーなどで補えるが、途方もない幸運が必要になるだろう。いずれにせよ、本来リュージたちのレベルでは、妖精竜の返し技に対する手段が存在しない。
しかし、一歩前に出たレミが大きな声でスキルを解き放つ。
「フォースバリアー!!」
彼女のスキル発動と、妖精竜の攻撃は同時であった。
膨れ上がった光球は幾筋もの光線へと姿を変え、さながら蛇かなにかのように辺りへと放たれ、リュージたちへと襲い掛かった。
だが、レミの放ったフォースバリアーに遮られ、妖精竜のレーザー光線は音もなく霧散してゆく。
目の前で、衝撃を放つこともなく無力化されるレーザーを見て、ソフィアが感嘆の吐息を漏らした。
「本当に無効化された……。これはありがたいな」
「本来はもっと高レベルじゃなきゃ、ってんだから特異属性さまさまね」
マコはにやりと笑いながら、飛び上がろうとする妖精竜にグロックを差し向ける。
「あんたはおとなしくしてなさい!!」
一切狙いをつけず、立て続けに引き金を引く。
マコの放った弾丸はほとんど妖精竜に当たらず、辛うじて一発がその翼に軽く穴を開けただけで留まる。
だが、当てる必要はない。飛び立つことさえなければ、リュージたちが喰らい付けるのだから。
「光破刃ッ!!」
「うおらぁっ!!」
コータとリュージの攻撃が、再び妖精竜の体を捉える。
コータの光熱の斬撃が毛皮を焼き、リュージのパワークロスが強引にその肉体を破壊しようとする。
みるみるうちに減っていく、妖精竜のHP。それが半分を切るあたりで、妖精竜は助けを求めるように一声鳴いた。
「むっ!」
「来るでありますか!?」
今までと違う鳴き声に、サンシターが慌てて辺りを見回す。
果たして、弱った仲間を救うかのように新たな妖精竜がリュージたちの真上から現れる。
今相手にしている個体よりも、一回り大きなその姿を見てレミが悲鳴を上げる。
「おっきいよ!? これが、妖精竜の発狂形態なの!?」
「発狂、っつーか、仲間の救援って感じかね? まあ、なんでもいいか」
グレートソードを肩に担ぎながら、リュージが救援に現れた妖精竜を見上げる。
問題はここからだ。コータの光破刃でカウンターを誘発し、それをレミのフォースバリアーで無効化する。
相手が一匹だけなら、これだけで完封できるのだが、もう一匹現れる妖精竜に対しては今のところ有効な手立てが思いついていない。
いくら無効化できるといっても、フォースバリアーはまだまだスキルレベルが足りていない状態だ。発動時間は短く、リキャストが長い。間断なくカウンターを放たれてしまうとこちらが負ける。
故に、取りうる戦術は一つだ。
「っし。さっき話したとおり、俺が相手してるから、二人でそっちをさっくりのしてくれ」
「ああ、わかった」
リュージの言葉に、ソフィアが頷く。
同時に相手が出来ない以上、片方ずつ対処するほかない。つまり片方を倒す間、もう片方を引き付けておく必要があるわけだ。
囮役には、いつものようにリュージが買ってでた。このゲームに対する慣れもあるし、純粋技量に精通する彼であれば、沼のような湿地も空飛ぶドラゴンも、回避に徹する上では問題にならないという信頼があった。
いつものように親友に大変な役割を背負わせてしまう。その事実が、コータに迷うような顔をさせるが、すぐに迷いを振りきり光破刃を発動させる。
「すぐに片付ける!」
「おう」
言い切るコータに短く返し、リュージはグレートソードを片手で振り回す。
「さって、降りてきてさっそくで悪いんだが……もうチョイ高度下げてくれよ。高くて攻撃があたんねぇから」
妖精竜を見上げてそう口にするリュージだが、彼の事情は妖精竜の知った話ではない。
妖精竜はリュージを無視して、同胞に斬りかかるコータに向かおうとする。
「だからよ」
しかし、妖精竜が目を離した一瞬の隙に、木々を蹴り上げリュージは妖精竜の頭の上まで跳び上がる。
「頭が高ぇんだよっ!!」
理不尽極まりない言いがかりと共に放たれた一撃が、妖精竜の脳天に決まり、その体を湿地の中へと叩き落す。
リュージはそれを追うように湿地に着地し、グレートソードを肩に担ぎなおす。
強引に地べたに叩きつけられた妖精竜は、怒りの咆哮を上げて狙いをリュージへと変える。
自らにヘイトが向いたのを確認し、リュージは獣のような笑みを浮かべた。
「いい格好じゃねぇか。ちったぁ汚れたほうが、様になるぜ」
妖精竜は狂ったように羽ばたき、そのまま一気にリュージへと突進し始めた。
なお、モンスターが強ければ強いほど、その食材はおいしく食べられる模様。




