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log11.リスポン

 足元と照明が不安定かつ、冷静を欠いた前衛。

 この二つが生み出した相乗効果は、まさに泥沼というべきだった。


「うあっ!?」

「ち、くそぉ!!」


 マコたちがコータたちのいる場所に追いついたとき、彼らの頭上に浮かび上がるHPバーはすでに三割を切っていた。

 二人が相対している小柄な影は三つ。リュージが手にしているたいまつによって照らされた姿はまぶたなフードをかぶった盗賊そのものであり、手には刃の欠けた短刀を握り締めている。

 三人の盗賊はコータとソフィアに対し、つかず離れずの距離を保ち、時折届かない距離で短刀を振り回している。

 暗闇のせいで距離感がつかめないのだろうか。マコの頭の中に浮かんだ疑問は、即座に否定されることとなる。

 風を切る小さな音。同時に、浅くではあるがソフィアの肩に一本の矢が突き立った。


「つっ!」

「ソフィア!? レミ!」

「う、うん!」


 さらに減るソフィア。マコは急いでレミに回復魔法を唱えさせる。

 レミが前衛二人のHPを回復している間にマコは矢の飛んできたほうに視線を向ける。

 たいまつの明かりも届かない洞窟の奥。そこには、先ほども見た赤い光点が四つ見える。

 前に立つ三人の盗賊の瞳が赤く輝いているのを見るに、恐らくあれも盗賊なのだろう。

 リュージへの先制攻撃と、今のソフィアが喰らった一撃。想像以上にえげつないモンスターたちの攻撃を前に、マコは音がするほど歯軋りをした。


「暗い洞窟の中でヒットアンドウェイ!? どんだけコスいAIなのよ!」

「え、どういうこと、マコちゃん!?」

「単純な戦術よ! 足場が不安定で、視界が不明瞭! さらに動ける範囲まで制限された上で、壁を用意して後ろからこっちをちくちく攻撃してくる! 頭くるくらい理に叶った戦法よ!」


 ここが“盗賊の隠れ家”と呼ばれている以上、向こうにとってここはホームだ。敵がAIのモンスターとはいえ、夜目が利かずともこの中を歩くくらいはするだろう。後衛を務める二人の盗賊たちは、この状況でこちらに当ててきているのだ。

 対してこちらは、初めて行く道を、たいまつ一本分の明かりを頼りに進まねばならない。

 壁役の盗賊たちのせいでその先がどのようになっているかわからない。攻めようにも足場のせいで思うように動けず、さらに向こうは無理に踏み込もうとはしてこない。当たらない距離で短刀を振り回しているのは、牽制のためだろう。

 踏み込めば短刀で切られ、まごついていれば後衛の矢で射られる。地の利を徹底的に活かした、極めて合理的な戦術であった。


「はらたつ……! AIごときが、人間みたいに」

「人の嫁になにしてつかぁさるんじゃおるぁぁぁ!!!!」


 マコが苛立ちを唾棄すると同時に、リュージが咆哮を上げながら一気に踏み込んだ。

 レミがソフィアたちを回復するのを待っていたのだろうか。たいまつを掲げながら岩場を物ともせずに踏み込んだリュージは、手にしたバスタードソードを、盗賊たちに向かって一気に横薙ぎに振り払った。

 盗賊のうち、脇に控えていた二人はとっさのバックステップで回避できたが、真ん中の一人は下がる間もなく胴体を薙ぎ払われる。


「―――!?」


 鈍い斬撃音と共に二つに割れる盗賊の体。悲鳴もなく崩れ落ちた時、盗賊のフードが払われて下に隠れていた犬のような亜人の顔が露になる。

 それを認識した瞬間、ソフィアとコータの視界には“コボルトの盗賊”と表示された。


「コボルト……! それがこいつらの名前か!」

「身軽で小柄で……やっかいだよ!」


 HPが回復し危機を脱した二人は、一人踏み込んだリュージの援護をすべく、急いで武器を構える。二人の回復を終えたレミは、慌てて下がる、MPはリュージの回復分とあわせてすっからかんだ。しばらく魔法は使えないだろう。

 怒りに任せて一気に踏み込んだリュージは鼻息も荒く、そのまま飛び退ろうとする。

 だが、彼が微かに宙に飛び上がった瞬間、それに合わせるように洞窟の奥、弓矢持ちの盗賊よりさらに奥から一条の光が伸びてくる。

 矢のような速度で迫ったそれは、飛び上がったリュージの胴体にぶち当たった。


「んぎゃー!?」

「リュージ!?」


 リュージにぶつかった瞬間、光は破裂し眩い爆発と化す。

 洞窟内を一瞬明るく照らすほどのそれはリュージのHPを一気に八割は消し飛ばす。

 避けきれぬ空中で必殺の一撃を受けてしまったリュージは体勢を崩してしまい、そのまま岩肌にまともに叩きつけられてしまう。

 ごすっ、と割としゃれにならない音を立てて倒れこむリュージ。その手から、思わずといった様子でたいまつが零れ落ちた。


「リュージ……! くっ!?」


 ソフィアは光線が延びてきた先を睨みつけ、無言のままに突撃してしまう。


「ちょっとソフィア!」


 慌ててマコは彼女を制止しようとするが、ソフィアは止まらない。

 一気に目の前にいたコボルトの元へ駆け寄ると、一気にレイピアでその心臓を貫いた。


「はぁっ!!」

「っ!?」


 耳心地のよい快音と共に、コボルトの小さな体を貫通するソフィアのレイピア。

 頭上のHPは一瞬で消滅し、コボルトの体は瞬く間に消え去った。

 だが、それは同時にソフィアの目の前にあった“壁”が消えたということだ。

 一条の光が、再び飛翔する。


「――ッ!」


 ソフィアは反射的にレイピアを振るい、迫る光を叩き落そうとする。

 だが、一切の抵抗なくレイピアの刃をすり抜けた光は、ソフィアの顔面で炸裂する。


「ッ!?」


 叫び声すら上げられずに仰け反るソフィア。

 さらにダメ押しといわんばかりに彼女の体に矢が突きたてられ……。


「―――あ」


 ソフィアの体が、消滅してゆく。

 HPがゼロとなり、リスポン地点送りとなったのだ。


「おおおぉぉぉぉ!!?? コラクソ犬畜生どもがぁぁぁぁぁぁ!! 人の嫁になんばさらしよるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ソフィアが倒れたのを見て、リュージが咆哮をあげた。

 だが、体が動かないのかせいぜいがもぞもぞと動く程度しか出来ない。

 すでに瀕死でありながらも元気に叫ぶリュージを見下ろし、マコが呆れたようにつぶやく。


「よく叫ぶ気力があるわね……」

(ソフィア)への愛は無限大なんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

「必死すぎて若干引くわ」

「く、そ!?」


 のんきに会話を交わす一方で、最後に立っていたコータへの一斉攻撃が始まった。

 先ほどまでは控えめに短刀を振っていたコボルト盗賊はここぞとばかりに前に出てきて刃を振るい、後方から飛んでくる矢の数も圧倒的に増えているのがわかる。恐らく、先ほどから飛んできている光の矢のようなものもいつでも飛んでくるだろう。

 圧倒的な劣勢を前に、マコは鋭くした打ちする。


「チッ……レミ、MPは?」

「そ、それがまだ……!」


 マコの指摘にレミは涙目になりながら首を横に振る。


「MPぜんぜん回復しなくて……! 私も前に出るべきなのかな!?」

「あんたが出てっても足手まといでしょうが」

「うあ!?」


 そうこうするうちに、鋭い一矢がコータの膝を打ち抜く。

 思いもしなかった一撃にバランスを崩したコータに、奥から光の矢が伸び――。


「しま――!?」


 炸裂と同時に、倒れるコータ。

 彼はそのまま立ち上がることなく、すぅっと静かに消えていった。


「こ、コータ君!?」

「……あーあー」

「ここまでか」


 目の前の惨状を前にジャッキーはそう呟き、リュージが取り落としたたいまつを拾い上げる。


「ここらで一度引くべきだな。私が先導しよう」

「……あんたが皆殺しにしてくれてもいいのよ?」

「楽を覚えるべきではあるまい。たかがゲーム、されどゲームだ。怠惰は知らぬ間に心の贅肉となるぞ」

「ぐぬぅ……」


 ジャッキーの正論に口を噤むマコ。

 レミは半泣きでコータが消えた場所を見つめていたが、ジャッキーを見上げて不安げに問いかける。


「あ、あの! コータ君、大丈夫ですよね!?」

「ああ。先ほどのフラッグの元に行けば、彼にも会えるさ。あいにく、帰還用のアイテムは切らしているので徒歩になるが……」


 ジャッキーは申し訳なさそうに言いながら、リュージのほうに目を落とす。


「で、君は……」

「歩いて帰るなんざナンセンス! おらこいよ犬畜生ども! そのそっ首噛み千切ってくれるわぁぁぁぁぁぁ!!」

「まあ、そうなるか」

「アンタならそう言うわよね……」

「え? え?」


 一人だけついていけないレミを引きずりながら、ジャッキーとマコはリュージを置いてその場を後にする。


「あ、あの!? ジャッキーさん、リュージ君は!?」

「現状、回復手段がない以上リュージは一人で移動できない。となれば誰かが担がねばならんが、そうなると背後からの攻撃に対応しかねる」

「後ろからの攻撃を遮るには、囮か何か置いておけばそっちに気がいくでしょう? あのバカのHPはもうほとんどないし、ソフィアをリスポンさせた連中を許すわけもなし。本人もそれを望んでんなら、円満ってやつでしょ?」

「そ、そんな……」


 そっけなくマコが呟いた瞬間、背後からグワーという悲鳴とプレイヤーが溶ける音がする。

 コボルトにリュージがやられたのだろう。放っておけば、こちらに迫ってくるのは時間の問題だろうか。


「あ……りゅ、リュージ君が……!」

「まあ、彼も望んだ結末だ。死んだわけではないし、リスポンのペナルティもあってないようなものだ。気にしないほうがいいぞ」

「そうねー。これから何百何千何万と死ぬことになるでしょうしねー」

「う、うう……私が、私がそんなことさせないもんー……」


 二人に引きずられながら弱弱しく決意表明するレミ。

 声に力は入っていないが、意思だけは感じられる。その一言を聞いて、ジャッキーは軽く微笑んだ。


「まだ意気は折れていないようで結構」

「当然。舐められっぱなしってのは性に合わないのよ」


 マコも鼻息荒くジャッキーに言い返しながら前へと進む。

 マコの言葉に笑みを深めながら、ジャッキーはリスポン送りとなった後二人……コータとソフィアの事を考える。


(さて、三人の復帰まで多少間が空くか……。アレはまだ残っていたかな?)


 NPCの不意打ちによるリスポン送りは、このゲームをプレイするなら誰もが通る道だ。

 これに挫けずに楽しくプレイしてもらいたいというのがジャッキーの偽らざる想いである。

 できれば経験者のリュージが二人をフォローしていることを期待しつつ、ジャッキーはマコたちを連れて“盗賊の隠れ家”の外へと出て行った。




なお、最序盤のダンジョンでこういうことになるのはここだけの模様。

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