51話
取りあえず、暗い部分はさっさと終わらせるという事で、優先してぱっと書いております。
選択をすると、即座に俺の目の前に現われた黄金の柄で、漆黒の刀身を持つ抜き身の魔剣は内側から光を溢れださせ、刀身が縦に裂けて開いた。開いた部分は直ぐに止まり、中心部に黄金色に光輝く聖剣が存在した。だけど、鞘だった刀身部分は互いの間に黒い稲妻を走らせて、これ以上の剥離を防いでいる。正しく聖剣にして魔剣。魔剣にして聖剣と呼ばれるティルヴィングだ。
呪いで一度鞘から出すと、誰かを必ず殺さなければならないというのは殺したい奴らは沢山いるから問題無い。次に所有者の願いを三度叶えて、必ず所有者の命を奪うという力も大丈夫だ。
だから、この魔力が0で回復しないこの絶望的な状況を打破する為に力を使う。
「おい、そいつを止めろっ!!!」
「ティルヴィング、村の皆を救えっ!!」
男が俺に近づく前に願いを心の底から叫ぶ。俺の願いに答えてティルヴィングは黒い光を強くさせる。そう、黄金の光ではなく黒い光。そして、放たれた黒い光は数百の数に別れて俺、ライサさんやシェアーさんを貫いた。
これで皆が助かる。
「え?」
そう思った。確かにそれはある意味では救いだった。だが、決して俺が願ったモノでは無い。そう、決して俺は消滅など願っていない!!
「くそっ、どうなってやがるっ!!」
「女を犯してた連中毎と消えやがったっ!!」
俺は使用者だから、俺を拘束していた物だけを綺麗に消してくれた。支えを失って俺は地面に座り込んで手をつく。目からは涙が幾つも流れる。
「うぁあああああああああああああああああぁぁぁっ!!!!!!」
泣いている途中で俺は笑い声の様なモノが聞こえて、顔を上げると、不気味に笑っている様に震えているティルヴィングが宙に浮いていた。
「ははは、そうか、そうだよな…………お前は魔剣だもんな…………どっかの擬似聖杯と同じか…………都合良く願いを叶えてくれる龍の様な存在なんて夢物語だよな…………ましてや、魔剣なんだから…………」
顔を上げて周りを見る。
どうやら、俺とティルヴィングの周りには結界が張られている様で、男達が攻撃しているがビクともしない。
だから、俺はどこか壊れた心のままに自分の状態を改めて確認する。
魔力は一切なく、ティルヴィングもこの開放時の特殊召喚でない限り再召喚はもちろん、ステンノ&エウリュアレを召喚する事も出来ない。もちろん、魔力を馬鹿食いなエリザがダンジョンの外に出て来る事は不可能だ。だが、朗報もある。エリザはダンジョンにあるマスタールームに居る事からヘイゼルは倒したんだろう。レティシアのプレイヤーカードもちゃんと存在するが、こちらも魔力が無くて召喚不可能。
アイテムストレージを開いて、マジックポイントポーションを飲んでみるが魔力は回復しない。
ステータスから魔力欠乏症のBSTを詳しく確認する。
判明した事、それは俺が無茶をしたせいで魂の構成領域の一部が魔力に変換されて使用された為に、欠損を修復する為に回復する魔力が全て使われている為、魔力欠乏症となっているという事だ。
幸い、後一週間で魔力が回復して使える様にはなると残りの時間が表示されていた。
その中に詳しい表示が有って、自分でも計算したがどうやら誰かに奪われていた痕跡が有り、御蔭で目覚めるのに一週間もかかった様だ。
自分の状態を確認した俺はフラフラと立ち上がって、宙に浮いているティルヴィングの柄を掴む。
「おい、お前の望む通りに血を、生贄をくれてやる。だから、アタシに力を貸せ、ティルヴィング」
ティルヴィングは脈動すると、俺の手の中に凄く馴染んだ。そして、ティルヴィングは羽の様に軽く、俺のSTRでも問題無いようだ。いや、それだけじゃない。歩く毎にフラフラだった身体に活力が戻ってきている。だから、結界から出た瞬間も直ぐに動けた。
「なっ!?」
結界から出た瞬間、近くに居たブレスプレートを着けた男の胸に軽くティルヴィングを振るう。ただそれだけで、何の手応えもなく男の身体を切断出来た。切断された男の身体は瞬く間に光となってティルヴィングに吸収されて消滅した。
男達は驚きで止まったままなので、さっさと次を斬り裂いて殺す。すると、先程と同じ現象が起きた。
「なっ、なんだよそれっ!! 聞いて無いぞっ!!」
「とにかく攻撃しろっ!!」
歩いて近づく俺に次々と魔法が放たれる。俺は分割思考で多数の思考を作り、的確に軌道を計算してティルヴィングを振るう。放たれた魔法、火炎槍を斬り裂いて無効化する。
「あっ、ありえねえっ!!」
そもそも概念を破壊し、塗り替えるティルヴィングが魔法を切り裂けないはずもない。
「くそっ、範囲魔法だっ!!」
「わかった、味方毎殺る! そいつを足止めしろ!!」
何人かが俺に向かって突撃して来る。かなり早く、1秒で50メートルも接近された。そいつらは短剣を持っていて、襲いかかってくるがこちらの方が速く、短剣の上から容赦無くティルヴィングを振るう。それだけで短剣毎相手を切断して殺せる。
向かってきた連中を始末して、詠唱している男の方を見て走り出す。
「テンペスト!!」
男は笑いながら俺の周りに風の刃で出来た嵐を作り出す。だが、既に俺はそこには居ない。今はティルヴィングによるブーストもかかっているから、1秒で100メートル以上移動できる。だから、男の胸へと向かって全力で走ってティルヴィングを突き刺してやった。男は直ぐにティルヴィングに消滅して吸収された。容赦は一切しない。皆殺しにする。
素早く接近しては斬り殺して、吸収するのをただひたすら効率良く繰り返していく。
ジルニトラ
いやはや、あんな隠し球を持っていたとは驚いたね。真紅の牙が相手になっていない。まあ、召喚者じゃ仕方無い。
「おい、アレは何だっ!! どうにかできないのか!!」
「あれは人でありながら概念を操る正真正銘の化け物でやがります。相手にするなら修羅神仏や悪魔や天使の爵位クラスか同じ連中でないと無理でやがりますよ」
頭の悪いバッドに説明してやります。
「ヘイゼルはどうしたっ!! アイツなら…………」
「既に死んでやがりますよ」
「何?」
「よって、現在復活の準備中でやがります」
「なら、さっさとしろ!」
「じゃあ、許可するでありますね?」
「ああ! 良いから早く…………」
「それでは…………生贄になってきやがれです」
「え?」
バッドを小娘の所に転送すると、瞬殺された。いい感じでエネルギーは溜まったが、主を蘇らせるのは速いので、上空から高みの見物だ。下の状況が落ち着いてきたら復活させる。復活して直ぐに2人の戦闘が始まると、万が一もあり得る。
「ふむ…………問題無さそうなのでありやがりますね」
隠蔽と遮断をしっかりと行って蘇生を開始する。アジ・ダハーカの力をメインに身体を生成しつつ、小娘の魔力を使ってダンジョンに繋ぐ。小娘の魔力じゃないと消費が大きすぎる。これに絶望エネルギーも大半消費する。
そして、主の魂を呼び戻して私の身体に取り込み、復元を行う。その後、復元した魂の一部を回収して、形成した肉体に魂を定着させる。
成功したが、魂の損傷が酷かったので私の魂で補填を行った。まったく、こんな無茶は主と契約して交わった御蔭で増大した魂の力がないと不可能だった。いくら、悪魔は消滅せずほっといたら数百年後には復活する存在とはいえ、これは無茶しすぎた。
「お帰りやがりましたか、我が主」
「ああ。ありがとう、まさか魔王と戦う事になって殺されるとは思わなかった。だが、まあ良いさ。御蔭で魔王との力の差もわかったし、近いうちに肉体を再構築してアジ・ダハーカの力を取り込む必要があったのを同時に片付けられた」
「まあ、蘇生魔法まで用意してあげたんですから、今度は死んだら駄目でやがりますよ? 今回は私の魂で補填しているので、主が死んだら私にもフィードバックして、数年は眠りにつかなきゃいけなくなりやがりますからね?」
「わかった。気をつける。それで、アイツは?」
「大人しくしてやがりますね」
あの小娘は皆殺しにした後、地面に座ったまま動かなくなっている。ただ、こちらに気付いているのか、こちらを見上げたままだ。
「この新しい身体のテストに付き合って貰うとしようか」
「あーやばくなったら乱入してやるのでありますよ」
「嫌だが…………わかった。流石に今は逆えん」
そう言って、主は空から翼を操って降りていった。私はその監視だ。馬鹿な戦闘狂の主を持つと使い魔は大変だ。
ヘイゼル
地上に降り立つと、ゆっくりと少女が立ち上がって、こちらを澱んだ虚ろな瞳で見詰めてきた。私はアンサラーとダーインスレイヴを呼び出して構えるが、少女は剣を構えない。
「止めた」
「は?」
「だから、止めた」
剣を送還して、また座り込んでしまった。私も戦う気が失せてアンサラーとダーインスレイヴを仕舞う。
「おい、戦わないなら連れて行くぞ」
「好きにすればいい。あいつ等は殺したし…………アタシはもう、疲れた…………全部、どうでもいい…………」
少し近づいて待ってみるが、本当にどうでも良いと思っているのか、ボーとしている。敵意も何も感じない。ただ、絶望と深い憎悪だけだ。その憎悪も自分に向かっている。
「なら、連れて行く。ジル、転送を頼む」
「了解でありやがります」
直ぐ横に現われたジルがゲートを開いたので、私は大人しくなった少女を抱えてゲートを潜った。
「団長、任務完了した」
アジトに着いたら直ぐに団長の部屋に報告へ向かう。
「確かにその少女だ。他の連中はどうした?」
「全員死亡した」
「おい」
「文句ならこの少女に言え。私も危なかったんだぞ」
「それ程か? いくらサードジョブとはいえ…………」
「こいつは召喚者だ。それも高位の概念を操り、捻じ曲げる類のな」
私の説明で団長は納得したようだ。
「仕方無いな。補充は訓練施設からする。取りあえずはそいつを封印の拘束具を着けて牢屋に入れておけ。俺は伯爵を呼んでくる」
「了解」
私は言われた通りに手枷と足枷の拘束具(魔法、召喚封じ)を着けてから、身体を洗ってやり、毛布に包んで地下の煉瓦で出来ている牢屋に入れておいた。後は監視している。少女は口の中で何かをもごもごしているが、どうせ喉が乾いただけでたいした事はないだろう。
しばらく、あの魔王相手にイメージトレーニングをして待っていると、団長と太った男がやって来た。
「おお、そこに居るのか!! 待ちわびたぞ!! ぐへへへへ、やっとクレハたんを俺の物に出来る!!」
気持ち悪い姿をした豚が近づいて来るので、マフラーを上げてジルに頼んで認識を男に変える。こっちに飛び火したら困るからだ。
「そこの者以外の団員が死亡しました。なので、今回は高くつきますよ」
「わかっておるわ。それより、早速…………」
豚は少女を舐めまわす様に見ながら接近する。
「俺と遊ぼうねぇー!!」
「誰が遊ぶか豚がっ!!」
今まで虚ろだった瞳が一瞬で力強い理性の光に戻って、豚の股間を蹴り上げた。ご丁寧に足枷の部分でだ。
「ぶひぃいいいいいいいいいっ!! 痛いっ、痛い痛い痛いっ!!」
ゴロゴロと床をのたうち回る豚ではなく、私は少女を愉快そうに見る。
「きっ、貴様っ、ゆっ、許さんぞぉっ!!」
「許さないのはこっちだ」
「そんな状態で何ができる?」
団長は流石に警戒しながらこちらを見る。私は取りあえず剣に手をやっておく。
「そうだね、できることなんて知れてるよ。たった半径40キロ以上を放射能を巻き散らかして消滅するぐらいかな」
「それはたったと言わないぞ。しかも、核兵器か」
少女が舌に乗せた小さな歯には前世のテレビで画面越しに見た核を表すマークが表示されている。
「空間の隔離も無駄。発動と同時に魔法も無効化する特別仕様だし、アタシが死んでも噛み砕いても発動する」
「おい、何を言っているんだ?」
豚が少女に接近しようとするので剣を首筋に当てて止める。
「どういう事か説明しろ、ヘイゼル」
分かっていない豚を止めて団長に教えてやる。
「あの少女が持っているのは…………いわば古代の魔導技術で作られた爆弾だ。魔法無効化も含んでその威力からするとこの領地、アテリスは消滅して、数百年は動物が住めない土地になるな。もちろん、人間も全滅する」
「そんな馬鹿な事が有る訳…………」
「ほっ、本当だ…………くっ、クレハは…………魔導知識のレベル5を持ってるし、魔導器生産もレベル4だぞ!!」
「っ!?」
神級の知識に伝説クラスの生産能力となると、確かに作れるだろうな。
はっ、この子はどっちかというと生産チートの奴か。
「わざわざ捕まって連れてきて貰ったんだ。言っとくけど、マジで使うからな。まあ、流石にこっちのステータスを見られるとは思ってなかったけどね」
「くっ…………」
「さて、交渉といこうか。アタシは別に貞操を奪われるくらいならこれを使って自殺と復讐がてらにお前達を巻き込んで死んでも良いんだ」
この領地に住む数十万の人間が人質とは、悪魔もびっくりだ。私は死にたくないからアンサラーに回答を聞いてみる。ふむ。問題無いか。だが、私とジル、魔物を除いて他の生物が全滅と出た。これは私的にはどちらに転んでも美味しいな。いや、むしろ使ってくれる方が契約も解除出来て、数十万の人間の魂が手に入って、悪魔的には嬉しいな。個人的にはお気に入りの店が破壊されるのは嫌だが。




