49話
感想を呼んで説明不足だったと感じたのでジルニトラの最後の部分に追加させてもらいました。
ジルニトラ
主が消えてから、数時間。普通なら既に戻ってきているはずなのだ。だが、戻ってきていない。つまり、何かのトラブルが有ったという事。
「接続であります」
主の視覚を貰い、状況を確認する。まさに化け物が主と戦っている光景が映る。しかも、相手は魔王クラス…………いや、魔王そのモノ。あの姿は記憶にある。星を降らせたり砕けるくらいの物理攻撃能力がないとまともに戦えないといわれる月を支配するヴァンパイアの魔王。封印処理されたと聞いたのですが、復活していましたか。
「遊ばれているようでありますが、このままでは確実に殺されるので、不味いでありやがりますね」
小娘を殺せば早いのかも知れませんが、それで主を助けられない可能性もある。仕方無いので、確保する事にしましょうか。
「ちょうど良く、気絶しているのでありますし…………」
小娘に近づいて調べると、主を転送する為に相当無茶したのか、魔力が枯渇している。回復には普通なら時間が必要だけど、コイツは急激に回復している。なら、その回復する魔力を全て貰いましょう。常に魔力が枯渇している魔力欠乏症にしてしまえばいい。彼女が目覚める時には主が復活する力が集まる時だ。
例え死亡していても、主の魂は私の中にほんの少しだけとはいえ確かに存在する。それと他の後継者から奪ったアジ・タハーカの力の塊も合わせれば死して漂っている主の魂を強引にこちらに引き寄せて復活させてしまえば良いのだ。その強引に引き寄せる為に主を転送した術者の魔力も必要だ。転送魔法は呼び戻したり対象を確実に送る為に身体だけでなく魂にまでも必ずマーキングされているのだから、それを利用させてもらう。
「後の足らないエネルギーは悪魔らしく絶望のエネルギーでも集めやるのであります」
小娘に細工したら、真紅の牙に羊皮紙で書いた報告書と要望を転送して、小娘のギルド証を元に偽造してギルド証を作る。それが終わったら、小娘を掴んだままアデール村に連れて行く。
アデール村は獣に荒らされてひどい有様だったので、一部を除いて人が居なかった。なので、ギルドを破壊しておく。その後に人がいる一部にやって来た。そして、目の前に出現したのはこんな漁村にあるのは不釣り合いなしっかりとした防衛施設だ。
「動くなっ!!」
防衛施設に近づくと目の前に矢が撃ち込まれた。仕方なく止まり、見ると多数の人間が防壁の上からこちらに弓を向けている。
「お前は何者だ?」
「私はラト。冒険者ですよ。ここに来る時にお一人怪我人を確保したのですが、入れて貰えませんかね?」
「わかった。一応、ギルドカードを頼む」
「はい」
防壁の上に居た一人が飛び降りて、私のカードを確認する。偽物と見破られたら私の力で制圧してしまいますか。主を助け出すのに時間がかかりやすが。
「確かに…………っ!?。おい、急いで開けてくれ!! クレハだ!!」
「わかった!!」
それから、防衛施設の中で事情を説明させられたので、適当な話を行い、取りあえずの目的だった侵入に成功した。後はこの家を調べると同時にお嬢ちゃんの力を調べるだけだ。
4日間で判明したのはお嬢ちゃんの家がダンジョンと繋がっている事。そして、主がダンジョンへと転送された事だ。侵入者避けは有ったが、ダンジョンの入口を発見出来た。空の魔法を神級であるレベル5まで極めている私には容易い。御蔭でダンジョンの中に手を入れるだけで、ダンジョンマスターの不在にダンジョンマスター自身の魔力を使えば座標の特定も問題無く出来た。後はエネルギーさえどうにかすればいい。ダンジョンはダンジョンマスターさえ確保してしまえばどうにかするのは空属性がレベル4も有れば普通に出来る。
もちろん、四日の間に真紅の牙とも連絡して、今度は団長を除く実動員が全員送り込まれる事となったので、準備は整った。
最後の仕上げにこの防衛施設に負の感情を効率的なエネルギーに変換して私に還元する魔法陣を仕込めば問題無い。幸い、ここには大量の魔法陣が既に仕掛けられているから、それを隠れ蓑と材料にして作れば大した労力ではない。
主は既に殺されているが、魔王はまた封印状態でこちらに出てこれない。もう一人の女もクレハが召喚しない限りは不可能。ましてや魔力が無い状態では例え再召喚が可能でも召喚できない。契約してあるカードは殺してからでないと奪えないのが残念だ。
フリオ
コールドウルフが倒されてから一週間が経った。レティシアは行方不明で、クレハはラトという魔術師に運び込まれて未だに眠っている。魔力欠乏症という症状らしいが、回復には向かっているみたいだ。
そして、アデール村は着実に復興している。
「シェアー、クレハの様子はどうだ? また調べたがレティシアに関しては情報が無い」
俺と少数の人間でレティシアの探索をしていたのだ。有り得ない様な戦いの跡を発見したが、オーガとコールドウルフの死体が有ったのだから。これくらいは存在しているのは問題無い。それ以外は何も見つかっていない。
「あの魔術師の女性、ラトが言っていた場所は?」
「駄目だな。確かに土で作られた洞窟が有ったが、それだけだ」
「そうですか…………それと彼女、ラトについてです。調べた結果、彼女の情報は冒険者ギルド、魔術師ギルド共に存在しません。彼女が提示した物は偽物です」
「つまり、バレる事を前提にやってるって事か。それで、アイツは何をしている?」
「クレハの家を…………いえ、クレハを探っているようです」
アイツの目的はクレハか…………しかし、どうなってやがる?
「取りあえず、捕らえるか」
「そうですね。ギルド証の偽造は犯罪ですから。準備しましょうか」
「そうだな」
俺達はクレハの家にギルドを出て向かう。その途中で何人かの仲間を呼ぶ。
クレハの家に着き、クレハの部屋に入る。ラトと名乗る魔術師は何かの儀式をしているようだ。
「おや、何の用でやがりますか? こちらは魔力欠乏症を治す為に儀式を行ってるのでありやがりますよ」
「お前、何者だ?」
「貴女のギルド証は偽物でした。どういう事ですか?」
「おや、ばれやがりましたか…………まあ、もう解析はほぼ終わってありやがりますし、面倒なので滅ぼしてやりますか」
「っ!? させるかっ!」
女の不穏な気配を感じたので、急いで大剣を引っ張り出して、斬りかかる。
「クスクス」
しかし、剣が届く前に軽く女が手を振ると、それだけで俺は意識を失った。
「空間接続を完了。真紅の牙の集合地点にゲートを接続。さぁ、アデール村の終焉を始めるのであります…………そして、絶望のエネルギーを持って、我が主を呼び戻すのであります」




