46話
奇襲時の掛け声を消しました。
さてさて、空中で全力の14倍、消費をぴったり6300にした索敵魔法に人が引っかかった。それも、コールドウルフの間近にだ。いや、8820メートルも有るのだから、可笑しい事では無い。それがコールドウルフの間近でなければだが。
「レティ、コールドウルフの傍らに人が2人いるんだけどさ、これって敵かな?」
対象から約2500メートルくらいの上空で、フロートボードの上に寝そべって、ビームライフルを構えながらマジックポイントポーションを飲んでいる。ちなみに、フロートボードの下にはアザトースで作り出した見えない床が存在している。
「襲われてへんのやったら敵やね。というか、クレハ…………既に敵と断定してるやろ」
「まあね。でもさ、この場合…………殺しても問題無いよね?」
「出来れば捕らえた方がええんとちゃう?」
「それもそうか。でも、一応お爺ちゃん達に聞いておいた方が良いよね」
「せやね。それやったらうちが聞いて来るわ」
「お願い」
報告はレティシアに任せて、俺は狙撃の準備に入る。
アレがエリザと戦った存在なら殺せないだろうが、目標をしっかりと確認する必要が有る。
「アザトース」
空間を捻じ曲げて、連中の上空に穴を繋げる。そこからビームライフルに付いているスコープで確認する。
居るのは男と女の2組。
男はコールドウルフの近くに居て、女は辺りを警戒している。
明らかにコールドウルフを支配しているか、味方と判断しているようだ。
「エリザ、あの2人が戦った奴?」
エリザのモンスターカードを額に当てて、声を掛ける。
『違う。もっと禍々しい存在だ。マフラーをしていた』
直ぐに脳内に響く様に声が届いた。
「そっか、ありがとう。後でまたよろしく」
『了解した』
幸いにしてエリザと戦った存在ではないみたいだ。なら、作戦の成功率は跳ね上がる。
一旦、空間を元に戻して、太陽光と光のエネルギーを集めて収束を繰り返す。光でバレたら困るからだ。こちらは太陽の下になっているので問題無いが。
30分前後でレティシアがフロートボードに乗って戻って来た。既にチャージは完了しており、かなりの力が溜まっている。
「どうだった?」
「出来れば捕らえて欲しいやって。もちろん、殺しても問題無いみたいや」
「まあ、予想通りだね」
流石ファンタジー。疑わしきは罰せよってか?
「よ~し、んじゃあーちょっくら狩りに行こうぜー」
「おー」
俺はエリザを召喚する。ごっそりと、魔力が半分も減る。そう、この子は召喚するだけで3000も魔力を消費させられる。召喚後も維持で馬鹿みたいに魔力が減っていくし、長期的には使い勝手が悪い。
「んじゃ、アザトースで空間を繋げて…………」
アザトースで、連中の左右と真後ろに空間を繋げる。それぞれ右にはエリザ、左にはレティシアが入る準備をする。俺は背後からコールドウルフとどちらかが重なるのをじっと待つ。
そして、重なった瞬間にビームライフルの引き金を引いて、光の奔流を放つ。放たれた光の奔流は見事にコールドウルフを背後から貫通して、口へと抜ける。だが、上手くいったのはそこまでだった。異変を察知した女が振り返って盾を構えたせいで、光の奔流は女の盾と片腕を飲み込んで消滅した。
「まっ、同時に殺れれば儲けもんってだけだったし、充分か」
「オリガッ!!! っ!? くそっ、来い!!」
男の叫び声が空間の穴から聞こえる。男は瞬時に現れて接近するレティシアとエリザに気付いて、多数のモンスターを召喚して応戦しだした。
プレイヤーかどうか知らないが、いいもん持ってんじゃん。うちのエリザとどっちが強いかな?
と思ったが、話にならなかった。エリザが刀を抜刀しただけで数十体のモンスターが切断されたのだ。レティシアもカロリーを消費する為に大暴れだ。
だが、男も諦めていない。殺したコールドウルフのモンスターカードに魔力を入れて再生させようとしているみたいだ。
「さて、さっさと死んでもらいますよっと…………」
俺は空間を一度閉じて、片手になった女が必死に応戦している所に繋げる。女はレティシアが投げまくるウルフの死体を片手剣でなんとか防いでいるが、直ぐに失血死しそうだと思ったので、背後に出現してステンノに取り付けた刃で喉を斬り裂く。
「これで1人…………アレ?」
手応えがおかしい。男の方を見るとニヤニヤと笑ってやがる。
「クレハ、なんか盛り上がっとんで」
俺は急いで離れて女を確認する。
女の身体は膨張しだし、3メートルまで膨れ上がった。そして、顔も変形して角の様な物が生えて、肌が赤くなっている。その姿はまさに鬼。
「オーガ?」
「グォォォォォォッ!!!」
そして、弾け飛んだ鎧や服が有る中で唯一残って居た腰の袋に叫びながら手を伸ばして、中から巨大な肉切り包丁を取り出した。そして、それを近くに居た俺に思いっきり振り下ろしてくる。
俺はとっさにジャンプしながら、ステンノ&エウリュアレを空中で撃って、その反動で刃の軌道から逃れる。
包丁の刃はそのまま地面を斬り裂いた。
「なんつー馬鹿威力だっ!」
直ぐに俺に追撃しようとする女だったが、俺と女の間にエリザが入り込んで抜刀する。何製かは知らないが、包丁とダイヤモンドの刀では流石に包丁が斬り落とされた。
「ほいっ、キャッチや。そして、リリースっ!!」
レティシアが飛んだ刃を空中で拾って、それを男に向かって投げつけた。くるくると回って、男に飛んでいくが、男の前に身体がボロボロになったコールドウルフが割り込んできて、刃を塞ぐ。
「はっ、忠誠心はりっぱやん。ええよ、調教しなおしたる」
レティシアは嬉々としてコールドウルフへと突撃する。そちらの戦いは一進一退だ。コールドウルフの噛み付きはレティシアには効かないが、コールドウルフのブレスはレティシアにとってかなり相性が悪い。氷付くと動けないからだ。そして、コールドウルフはレティシアの攻撃を受けたら、一撃で瀕死に追い込まれる。よって、お互いに入れ替わり立ち替わり戦っている。
そして、俺の方だが、相手は残っている男だ。
「クレハって呼ばれてた事はてめぇがターゲットか」
ターゲットって事は俺を狙ってきたのか。さて、狙われる候補は爺だけなんだが、それにしてもこんな気狂いな連中を雇って追ってくるのはおかしい。という事は塩の件がバレた?
金のなる木だから消しに来たのか、攫いに来たのか…………さてさて、どっちやら。
「アタシを狙ってる奴は誰?」
「はっ、依頼人を誰が無料で教えるかよ」
まぁ、教えて貰ってもそれが本当かどうか、俺にはわからないしな。
「じゃあ、いくら貰ってるの? 逆に買収してあげる」
「そうだな、300万で教えてやっても良いぞ」
「わかった。はい、300万」
俺はポーチに手を突っ込んで、300万分のお金を取り出して相手に投げ渡す。相手はかなり驚いている。もちろん、会話も全て戦術だ。
「さぁ、払ったよ。教えて」
「ちっ、しゃあねぇな。それは…………ごほっ!? なっ、なんだ…………なんでっ、てめぇがぁ…………がはっ!?」
男の胸からは真っ黒な刀身に金の文字が書かれた禍々しい剣が生えていた。
「決まっているだろう。情報を漏らそうとしたお前達を処理しに来た。ただそれだけだ」
そして、男の背後にはいつの間にか出現したマフラーを首に巻いて口元を隠した赤いコートの女が居た。
そう、完全に俺の探知をすり抜けてだ。
「ぐぞっ…………」
マフラーの女は男から剣を引き抜き、無造作に其の辺に捨てた。
「さて、お前がターゲットか」
やばい、やばい、やばい。頭の中で警鐘が鳴り響きまくっている。得体の知れないこいつはかなり不味い。
「ヘイゼェルゥゥゥゥゥゥっ!! ギザマァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!」
上から片腕が斬り落とされたオーガの様な女が降ってきて、マフラーの女へ殴りかかろうとする。
「邪魔だ」
だが、マフラーの女が落ちてくる女に向かって軽く剣を振るだけで、オーガの様な女は一刀両断された。完全な人外だ。
「あははは、この人…………バケモンやな」
「マスター、此奴の相手は私とレティシアがする。マスターは逃げろ。相手にならない」
「せやな。うちとエリザで防ぐから逃げてな」
2人がこう言ってくるが、瞬時に勝つ確率と生き残れる確率を計算するが、どちらも絶望的だ。唯一まともに戦えそうなエリザは俺の魔力不足で万全の状態ではないし、俺とレティシアが入っても勝てそうもない。
「わかった」
「逃すと思っているのか? 私はこの2人を殺せと言われているが、ついでとはいえ、目的の存在が目の前に居るのだからな」
「関係無い。逃げるっ!!」
「っ!?」
俺は配置を完了していたクトゥグア、ノーデンス、ジュダ、イオドから全力の砲撃をマフラーの女に向かって放つ。色取り取りの光線は中心部を光に包ませる。
それと同時にアザトースで空間に穴を空けてその中に逃げ込む。前と同じ場所に出たら急いでフロートボードを取り出して全速で逃げる。アデール村には向かわずに適当な方向に逃げては転移してを繰り返して、かなり迂回して俺はアデール村へと帰って行く。




