42話
ヘイゼル
オリガとアドリアーノが放った野犬や魔物達は順調にアデール村へと向かっている。私も2人を遠くから確認していたのだが、どうやらお客さんのようだ。
「主、結構強そうなのがこっちに向かってやがります」
「わかってる。私が相手をする。お前はあの2人を監視しておけ」
指示するだけして、こちらに近づいて来る存在の元に移動した。その相手は直ぐに見付かった。こちらと相手でお互いに相手の方に向かって走ったからだ。それも、宙を踏みしめて移動するという人外の力を使った速さでだ。だが、残り1キロくらいは有る。
「…………先ずは小手調べだ…………」
走りながら投げナイフを手首の操作だけで取り出して、前方に現れた巫女服の少女に片手で3本ずつ、両手で合計6本投擲する。投擲したナイフは私の超人的な力によって460m/sという弾丸の速度で相手に飛来する。しかし、相手は私と同じく化け物だ。
こちらの投げたナイフを素手で全て掴み取り、ほぼ同じ速度で瞬時に投げ返して来た。私は首を傾けてナイフを避ける。避けたナイフは背後で木々を粉砕した。
「…………面白い…………」
もはや、相対距離は残り300メートル。相手の巫女は腰に差している刀を握り、居合の構えを取っている。
「来い、ダーインスレイヴ」
魔剣ダーインスレイヴを召喚し、瞬く間に接近する。そして、即座に巫女の刀が音速を超えた驚異的な速度で抜刀されて接近する。
私はダーインスレイヴを逆手に持って盾にする。激しい衝撃に襲われるが、身体を回して逃がしつつ、もう片方の手に魔剣アンサラーを呼び出して斬りかかる。
こちらの攻撃に対して、巫女は腕を上げてアンサラーの側面を殴りつけて回避し、逆にあちらも回転しながら刀で斬りかかって来る。
「ちっ」
お互いが雪の粉塵が舞い散る中、踊る様に回転しながら、相手の攻撃を避けて斬り合う。私はアンサラーの力で、相手はアイマスクで目が見えないはずだが、私と似た様な力が有るみたいだ。
そして、だんだんとヒートアップして込める力も、魔力も増やしていく。
避けた斬撃はそのまま見えない刃となって木々や雪を切断していく。
戦場は森一帯へと広がり、木々の間を駆け抜け、斬り合っていく。
少しの時間が過ぎ、お互いに切り傷が増えて来た。私の身体は瞬時に再生して無傷といえる。だが、私が与えた傷は再生しない。常に血を流し続ける。それが私が持つ魔剣ダーインスレイヴの力だ。だが、相手に衰えた様子も無ければ、血を失った様子も無い。
「…………そろそろ本気でいく…………」
巫女が告げた瞬間、彼女の身体から濃密な血の気配がした。切り傷から流れ出た血は重力に逆らって浮かび、剣の形となった。その剣は傷から血液で出来た鎖で繋がっている。
「ほぅ、人間では無いと思っていたが…………まさかヴァンパイアとはな。しかし、ヴァンパイアが巫女服とは…………冒涜にも程がある」
「これはマスターより与えられた物だ。何も問題無い」
「そうか」
透き通るような綺麗な刀は本来なら魔剣であるアンサラーとダーインスレイヴと打ち合い、欠けているはずなのに刃こぼれが一切無い。
「こちらも遊びは止めるか」
久方ぶりに人間の器に押し込めていた大悪魔としての力を開放する。そして、その力を両方の魔剣に注ぎ込む。
「さあ、化け物同士…………決着を付けようか」
「…………ああ、我が一撃。しかとその身に受けろ」
巫女は刀を鞘に戻し、居合でもするのかと思えば、手に血を集めて血の爪を作り出した。
「おい、まさか…………」
「こっちが私の本来の戦闘スタイルだ」
ニヤリと笑い、牙を見せる巫女。そして、即座に振るわれる血の爪から放たれる膨大な力の奔流は巨大な真紅の爪となって私に襲い掛かってきた。それに対して、私も膨大な力を込めたアンサラーを振るい、黒の斬撃を飛ばして爪を迎撃した。ぶつかる真紅の力と黒い力は周りを消し飛ばす。
アンサラーの力を放出した瞬間、私はその場から離れ、爪を避けて巫女を狙う。そして、残していたダーインスレイヴの力をアンサラーと同じように放とうとした。当然の如く、残ったもう片方の爪で迎撃しようとしている巫女。
「おい、待て…………」
だが、巫女の身体は私が何もしていないのに身体が、光の粒子になって崩れていく。
「ふん、残念ながら時間切れだ。先程の一撃でマスターの魔力が切れたのは残念だが、構わん。予定外では有ったが、任務は完了したのだからな」
改めて位置を確認すると、アデール村からかなり離れてしまっている。
相手の狙いはこれだったか。しかし、こちらは元より監視するだけだ。幸い、オリガ達の位置は判明している。しかし、アイツ等も運が良いな。私の気配に気付いてこちらを優先しなければ虐殺されていたぞ。
まあ、どちらにしろ死ぬ運命だがな。




