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クレハの異世界冒険記  作者: ヴィヴィ
はじめてのダンジョンアタック
29/57

29話

 






 ギグル山に存在する盗賊のアジトを襲撃し、その最奥であろう部屋の前にやって来た。今までの盗賊達は計画通りに眠りこけていた。


「さて、最後の部屋やけど、大丈夫なん?」


「平気。流石に43人も殺せば折り合いはつくよ」


 この盗賊団は意外にも構成人数が予想より多かった。といっても、レベルが7~13程度だから経験値は低いし、価値は無いのだけれど。


「そっか…………じゃあ、うちから入るで」


「よろしく」


 レティシアはアイゼンまで取り出して、防御姿勢を取りながら扉を開ける。警戒している理由は簡単だ。ここからはいびきのような物が聞こえて来ないし、実際にサーモグラフィで動いている存在が居るからだ。もちろん、倒れている存在も居る。


「撃てっ!!」


「っ!!」


 予想通り、奥で待ち構えていた連中が居た。その連中はレティシアが扉を開けると同時に魔術やら弓を放って来る。そう、魔術師まで居たようだ。この時点で普通の連中じゃない。

 放たれた矢をレティシアは無視して、的確に魔術だけをレティシアがアイゼンを盾にして防いで行く。

 俺は俺で扉の横に立って、ステンノを隙間から出して撃っては隠れを繰り返す。


「くそっ、銃使いに硬い奴とかどんだけだよっ!!」


「お頭っ、ヤバいっすよ! どんどんやられていきやす!」


「ちっ、仕方ねえ…………来い、アイアンゴーレムっ!!」


 行き成り魔力反応が増えて敵が増えたようだ。


「クレハ、聞いた通りゴーレム召喚やけど…………数が多いで」


「何体?」


「20体やね。でも、あっちは魔力切れみたいや」


「残りの数は6人と2メートルクラスのゴーレムが20体か…………でかいの撃つから時間稼ぎよろしく」


 クトゥグアを召喚して、今度こそ拡散砲撃の準備に入る。もちろん、同時進行でステンノ&エウリュアレによる援護射撃も行う。


「生きとる連中は足に怪我しとって動かれへんようやし、別にうちが倒してしまっても問題あらへんやろ?」


「無いけどさ…………」


「じゃあ、行ってくるでっ!!」


 レティシアがこちらに向かって来るゴーレムの群れに楽しそうに突撃して行く。

 レティシアに対して矢が飛んでくるが効果は無し。そして、ゴーレムがレティシアを殴り付ける。その鉄製で重量と力が加わった重い一撃をレティシアは普通に左手の掌で受け止めた。レティシアの足は少し地面に陥没している。


「やるやん。でも、そんなんじゃうちは倒せんでっ!! ハッ!!」


 受け止めていた拳を両手で持って、そのまま他のゴーレムへとぶん投げやがった。そして、多数のゴーレムを巻き込んで壁に激突して動かなくなる。


「化け物めっ!!」


「非道いやんっ!! こんな女の子捕まえて化け物とか…………」


 いや、数トンは有るであろうゴーレムをぶん投げる少女とか化け物以外の何でも無いと思うんだがな。


「もう怒ったでっ!!」


 身体加速を使ったのか、今までより速さを増してゴーレムに突撃したレティシアは思いっきり腹を殴り付けた。普通なら鉄製のゴーレムは良くてへこむ程度なのだが、レティシアの一撃は貫通してしまった。


「貰いやっ!」


 そして、引き抜く。すると、その手には何かの結晶のような物が握られていた。それを引き抜かれたゴーレムは自重に耐え切れずに形を失って鉄の塊へと変化した。


「お頭っ、だっ、駄目…………がはっ!?」


 もちろん、俺も援護して、死なないように撃つ。殺すのは爪が良いからな。だが、見た感じでは連中は血の気が引いている。その理由は足に突き刺したナイフだろう。おそらく、眠気に対抗する為に自ら傷を付けて待っていたのだろう。


「ちっ、せっかく集めた手下だってのに…………NPC風情が…………良いだろう、切り札を使って身の程を教えてやるっ!!」


 その言葉と同時にゴーレムが壁になるようにして男の前に立った。

 NPC…………ノンプレイヤーキャラクターという言葉でコイツが俺達と同じ存在だと理解出来た。なら、持ってるのだろう、俺達のような規格外の力を。


「レティ、伏せろ!!」


 レティシアが俺の言葉に反応したのを確認して、溜めていた力を開放する。


「放てっ!!」


 俺の号令と共に壁を超えて放たれた超高熱の拡散されたレーザーはゴーレム達を貫いて蜂の巣へと変えて行く。その穴の周りは溶けている。そして、ゴーレム達は動かなくなった。だが、男までは届いていない。最後のゴーレムが腕を犠牲にして防いでいた。


「行けっ、レティ!!」


「了解や!!」


 レティシアも男の言葉で何らかの力を相手が持っている事を理解していたのか、こちらの指示を理解して男へと向かう。


「邪魔やっ!」


 その進路上に立ちふさがったゴーレムを男の方へ蹴り飛ばす。普通ならゴーレムに押し倒されて男が倒れるはずだ。しかし、男はあろうことか、ゴーレムを受け止めて自身に吸収してしまった。いや、姿その物が変わっている。


「ふはははは、これぞ我が最終奥義!!!」


 その姿は機械兵。アーマードスーツのような物を身にまとって、自身その物を変えている。左手にはビームライフルのような物が握られているし、右手にはブレードを持っている。なにより、頭部の横にバルカンが存在し、背中には細長い板を何枚も繋がれた翼が有る。身長も大きくなって、2メートルから3メートルクラスだ。


「ふははは、死ねっ!」


 そして、頭部の眼が怪しく光るとバルカンがレティシアに向かって発射される。それは魔法で生成された弾丸を撃ちまくるようで、レティシアが両手をクロスさせて耐えている。そこにブレードの一撃を入れられて吹き飛ばされる。


「っぅ~~~!!」


 そちらを見ると、レティシアの身体に血が流れている。鉄などでは斬れる事すら無いレティシアの身体からだ。


「流石に貴様が化け物でもアダマンタイト製であるこのアウグストには叶うまい!」


 そして、ビームライフルをレティシアに向ける。こちらには見向きもしない。なら、それを利用するだけだ。クトゥグアを準備する。


「くそっ」


 立ち上がったレティシアに向けたビームライフルの引き金を引く瞬間に腕に向けて何発もの弾丸を叩き込む。


「っ!?」


 そして、接近と同時にステンノ&エウリュアレをティルヴィングに変化させてビームライフルの腕を叩き斬る。アダマンタイト製だろうが、こっちは封印状態とはいえ神器だ。充分にダメージが通る。


「この野郎っ!!」


 そして、ブレードで俺を斬ろうとするが、配置しておいたクトゥグアから放たれたレーザーが頭部へと命中する。流石に貫通する事は無いが体勢が崩れた。


「うちも忘れんなっ!!」


 瞬時に接近して来たレティシアがパイルバンカーを放って重装甲になっているだろう胸部へと杭を打ち込む。俺はその間に腕を叩き斬って、ビームライフルを持って逃げる。


「ちょっ、こらっ! てめぇっ、返しやがれっ!!」


「嫌だね!」


「アハハハ、このうちがやられっぱなしでクレハに構ってる暇を与えると思ってんのかっ!!」


 全力で殴り続けて爆破の嵐をその身に受ける男。周りが非道い事になっている。改めて周りを見ると、何人かの裸の女性が男達と一緒に倒れている。


「ちっ」


 仕方無いので、ビームライフルを仕舞って布を取り出し、女性を包んで部屋の外に運んでおく。もちろん、流れ弾も飛んでくる。しかし、それはクトゥグアを前方に出して配備した障壁で防ぐ。

 少しして、女性を全員逃がした。

 その間も部屋の中心部ではレティシアと男の戦いは続いている。レティシアは男の周りを動き回って、対象を捉えさせずに殴りつけて行く。男は男でバルカンでレティシアの速さに対応し、ブレードをカウンター気味に放って来る。

 さっきも言ったけど、無視されているのは都合がいい。今だって、女性を助けられた。しかし、あのレティシアの爆撃とバルカンの嵐に突撃する気にはなれない。レティシアはバルカンが命中しても多少痛みを感じる程度みたいだが、俺にはそれは不可能だ。蜂の巣にされるのがオチだろう。かといって、こちらの弾丸ではあまりダメージを与えられない。クトゥグアは女性のガードに当てている。


「ふふふ、なら早速使わせて貰おうじゃないか…………」


 改めて部屋に戻って、奪ったビームライフルから手を外す。そして、しっかりと構える。すると使い方がわからない。これも魔導技術のはずだが、レベルが足りないのだろう。

 ならば、こういう時こそ使うべきだ。スキル強化カードで魔導知識のレベルを上げてしまう。1枚使用してもわからなかったので、2枚目を使う。2枚目は初めての盗賊討伐の追加報酬で手に入った奴だ。

 どうやら、この報酬は10に毎に魔法適性、スキル強化、魔法適性と順番で貰えるみたいだ。

 5レベルとなった御蔭で使い方が理解出来た。先ずは知識にある手順にそって儀式的な事をしながら魔力を細部まで流し込む。そして、男の魔力を追い出す。これには魔力1400程度じゃ全然足りないのでマジックポーションを使用して、なんとか男の魔力を追い出して支配する。流石にユニークウエポン扱いなだけある。

 だが、儀式は完了した。ビームライフルはこちらの支配下に入った。ならば、撃つのみだ。だが、ここで問題が起きた。光属性魔法を使うしか無いのだ。だが、幸いに既に報酬は手に入れている。それで光魔法を習得する。

 狙撃銃の要領で射撃体勢に入って、狙いを付ける。そして、魔力をチャージさせる。それが完了したと同時にレティシアが離れるのを待つ。


「んっ」


 レティシアはこちらをチラっとだけ見た後、瞬時に下がった。そして、それと同時にビームライフルのトリガーを引く。


「なっ!?」


 そして、放たれた光の奔流は男を飲み込んで、ボロボロになった上半身を消滅させてしまった。


「おっ、終わったん?」


「うん。終わったみたい」


 目の前には壊れたアダマンタイトで作られたゴーレムが上半身を消されたまま残っている。それと、男の遺体が中から現れた。そして、その胸元から光輝くスキルカードが2枚出現していた。そのカードは無記名だった。


「おや、新しいクエストが追加されて達成しとるな。初めてのプレイヤー撃破かいな」


「こっちも有った。報酬は対象の持つスキルを1つか。この無記名のカードで選択すれば良いのかな」


「多分、そうやろな。じゃあ、うちは…………自己再生が欲しいかな」


 更に硬くなる気か。俺もスキルを選ぼうと思うと、リストが表示された。俺がその中で選んだのは魔導機人形作成というスキルだ。これは先程のようなゴーレム…………いや、それより上位の物を作るスキルのようだから、クトゥグア達の製造に使えるだろう。それにどうせなら人型の浮遊魔導砲とかも面白いと思う。


「しかし、プレイヤー狩りは儲けがデカイんやな。同じ世界の人間やったみたいやけど」


 クエストにはしっかりと同じ世界の人間であるプレイヤーの撃破と書かれていた。


「でも、この世界に来たんだから、関係無い。それに悪人になってるんだから、殺しても問題無いし…………いや、敵対するならなんとしても倒すの方が良いかな」


「せやね。うちらは出会いが良かっただけや。生き残る為にも敵には容赦はせえへん」


「それじゃあ、さっさと生贄に捧げようか」


「じゃあ、うちはお宝をあさってくるで」


 それから、虫の息である盗賊達を殺して回った。中には死んでいる奴もいたけどこれは仕方無い。それが終わったら、女性の無事を確認する。こちらはそこまで被害が無かった。精神は知らないけど。


「粗方回収したで。その人達はどないするん?」


「食料と防寒具を置いて放置かな。流石に連れて帰る訳にも行かない。ここから近くの村に運ぶ事も難しい。それなら、ここに居てもらった方が良いだろう」


「そうやね。色々置いて帰ろっか」


「うん」


 それから、食料や衣類などを置いておく。薪も有るし、暖炉や壁は修理したから問題は無い。後は彼女達自身の自由だ。悪いけど、現状では彼女達を助ける方がリスクが大きすぎる。俺達のやってる事は明らかなギルド契約の違反だから、最悪脱退させられる事もあり得る。だから、置いていく。それでも、定期的に食料を届けたり、遠目で観察するくらいはしてあげようとは思う。

 そして、使った魔導機械を全て回収して、俺とレティシアは洞窟から撤退して行った。








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