27話
盗賊狩りをするとなったら、色々と準備をしなくちゃ行けない。初の人殺しの事も考えて、出来れば完封したい。その為、コートを着て雑貨屋まで出向いたのだが…………しまっている。まあ、雪がかなり積もっているし、仕方無いのだろうけど。
「おい、何をしている」
「ん?」
上を見ると、屋根の上で雪かきをしているニウスが居た。
「ああ、ちょうど良かった。買い物したいんだけど、いけるかな?」
「買い物か? 別に食料以外なら構わないぞ。というか、それは何だ?」
「これはフロートボードって言って、地面から1、2メートルくらいまでなら自由に動かせるんだ。高度とかは魔力しだいだけど」
「売ってくれ」
「ヤダ」
フロートボードなんて誰が売るか。独占して販売すれば儲けも大きいけど、数を作るのが面倒だしね。
「ちっ、まあ今度でいいか。それで、何が欲しいんだ?」
「スプリ草をありったけ」
「何に使うんだよ…………まあ、良いぞ。確か、35束なら有った」
「んじゃ、それ全部」
「一つ100Rだから、3500Rだが良いか?」
「良いよ。代金は貰ってない塩の分から引いといて」
「わかった。ちょっと待ってろ」
ニウスは屋根から室内に入って、少しした後に同じ場所から出て来た。
「ほら」
「確かに。それじゃ、帰るね」
「おう。それと、1階は埋まっちまうから用事があるなら2階に来てくれ」
「は~い」
フロートボードを反転させて、雪の上を滑って行く。板の方にはスノーボードと同じような細工もしてあるので、滑る滑る。
帰ったら、早速準備する。作成するのは香炉と風の魔術を込めた魔導器だ。それも術式を刻んだ徹底的な奴。
「ただいまや」
「おかえり。そっちはどう?」
「バッチリや。連中の所在地がわかったで。ギグル山の奥に有る洞窟を改造して住んでるみたいや」
レティシアが地図を広げてギグル山の奥の方を差した。
「出入り口は何個?」
「1つだけやと思うで」
「了解。でも、保険を打っておくか…………数は4個ずつでいいか。それと、扇風機も欲しいな」
「何する気なん?」
「完全犯罪?」
ある意味では間違い無い。しっかりと準備して向かう。
次の日、盗賊を狩りに行く為に俺とレティシアはロシアの帽子であるケーバ帽子のような物を被って、暖かいコートを着ながらフロートボードに乗って、アデール村から出て行く。誰にも見られないように出るルートは自宅裏からチェリム森林を通って行くルートだ。もちろん、雪が降っている為にゴーグルは着用している。
「しかし、ファンタジー世界でスノーボードが出来るとかおもろいな」
「木々の間を縫って高速で滑るなんてあっちじゃ無理だしね」
俺達は木々の間をかなりの速度…………時速60キロくらいで進んでいる。そう、高い身体能力で無理矢理進んでいる。会話も風の魔術を利用して相手に届けている。気分はどこぞの小学生探偵映画版だ。あの映画はかなり微妙だったが。
「んっ。レティ、前方にアイスグリズリーがいるよ」
「狩ってく?」
「いや、あれって勝てるのかな…………」
「魔物やけど、行けると思うで?」
「なら、やっておくか」
クトゥグアとステンノ&エウリュアレを召喚する。これだけで魔力が300減った。内訳はクトゥグアが200だ。3階層に放ったクトゥグアの経験値は残念ながら手に入らなかった。
「弾丸は徹甲弾だし、問題無い。レティ、先行するね」
「了解や」
フロートボードの速度をあげて、木々を縫うように進みながら、アイスグリズリーへと向かう。
少しするとアイスグリズリーが見えてきた。その姿は一言で言うなら氷で出来た熊だ。全長5メートルで、爪は凶悪なほど鋭い氷の刃だ。情報では大きい物で10メートルの物すら存在するようだ。まさに怪物。
「先ずは先制砲撃っ!」
アイスグリズリーの背後に回ってから脳天目掛けて、クトゥグアのレーザー(MP100)とステンノ&エウリュアレの銃弾を連射してお見舞いする。流石に二丁拳銃状態ではろくな狙いも付けられないが、的が大きいのだから問題は無い。
しかし、こちらの魔力の気配に反応したのか、アイスグリズリーは瞬時にこちらに向き直り、氷の腕をクロスさせてガードする。こちらの弾丸はクロスされた手に着弾して、腕の氷を破壊して行く。そして、クトゥグアのレーザーは右目を貫き、頭の一部を破壊出来た。
しかし、アイスグリズリーの傷口は瞬時に氷が覆って再生していく。それだけならまだしも、アイスグリズリーは周りに飛び散った氷の破片を操って、浮遊させる。そして、当然の如くこちらへと放って来る。
「クトゥグア!」
俺はクトゥグアを盾にして氷の弾丸を防ぎ、スノーボードを加速させて、ジグザグに退避しながら発砲を続ける。アイスグリズリーは氷の破片が無くなるとこちらに突撃して来る。だけど、その背後から強襲を受ける。
「打ち抜け、アイゼン」
レティシアがこちらに集中して無防備にさらされている背中へと、ブースターで加速させた一撃を放つ。殴られた瞬間に爆発が起きて、アイスグリズリーの背中を抉り取る。そして、レティシアはもう片方の手で更に殴りつける。その前方には直前にアイゼンより高速で発射された杭が存在する。
「パイルバンカー!!」
杭は先にアイスグリズリーに命中して、背中を少し貫く。そして、その直ぐ後に杭の底をレティシアが殴りつける。殴られた杭は爆発と殴られた衝撃によって、勢いよく食い込んでアイスグリズリーもろとも弾き飛ばされて来る。
「パスや!」
「了解。来い、ティルヴィング」
ステンノ&エウリュアレとクトゥグアを送還して、ティルヴィングを召喚する。そして、飛んでくるアイスグリズリーに向かって、フロートボードを突撃させて、アイスグリズリーの横を通り抜けざまに火を纏わせたティルヴィングで斬る。流石に重すぎるが、この一撃がアイスグリズリーの止めとなったのか、倒れて動かなくなった。呼び出すだけで魔力を500も使うだけはあった。そして、即座にティルヴィングを送還する。
「流石というか、ティルヴィングの攻撃力は鞘の状態でも高いな。手が痛すぎるけど」
「STRがたらへんのやね」
こっちは手が痺れているというのに、至近距離で爆発させたレティシアの手は無傷だ。
「ドロップ回収して行こか」
恨めしそうに見ていると、レティシアは話しを変えてきた。仕方無いので、ドロップを回収して先を進む。幸い、移動中は手を使う作業は無いので問題無い。




