24話
ダンジョンに入ってからしばらくの時間が過ぎた。現在、俺達は火の玉を空中に灯しながら進んでいる。どうしても、片手が塞がるのが嫌だったから。ゾンビやスケルトンの襲撃時にはやはり邪魔になってしまう。
「しかし、ホンマにこれは楽やな」
「臭いが無いだけかなりましだ」
ダンジョンに入った当初は発動させていなかったけど、余りの臭さに耐えられず、用意していたチョーカー型の魔導器で自分の周りを浄化して風を循環させて対応している。御蔭で臭いが平気になった。
「前方にスケルトンっぽいのが5体」
歩いている一直線の通路の先に反応が有った。
「じゃあ、そこが下層階への入口やろうな。あそこまでは行ったし、確実や」
「なら、殲滅するか」
スケルトンまで100メートル。あちらはこちらの光に気づいて向かってくる。
俺はステンノを両手で構えて、立て続きに6回発砲する。ステンノから轟音と共にオートマチックマグナム弾と同じ大きさの弾丸が発射される。現状のステータスでも封印状態を解除できずにいる為、特殊効果は存在しないが、それでも両手撃ちなら前よりもソナーで判明している敵を確実に命中させられる。そう、反動を無理矢理抑えこめるくらいにはなった。
そして、発砲と同時にレティシアが走り出す。
俺の弾丸によって、前方に居た3体のスケルトンは順に反応が無くなった。残りの2体は3体を踏んづけてレティシアに走って行く。
「ほいっと」
レティシアはスケルトンの片手剣を素手で弾いて顔面を殴って粉砕する。そして、その隙を付いてもう1体のスケルトンが斬りかかる。
「甘いで」
身体を回すようにして、下からすくい上げるような回し蹴りが放たれてスケルトンが粉砕される。
「駄目や、1階じゃ相手にならへん」
「まあ、仕方無い事だね。次の階層に期待しよう」
「せやな」
ドロップを回収して、階段を降っていく。レティシアを先頭に棒で階段を調べながらだ。
そして、2階層に到達したが、敵がいなかった。トラップも特に無く、普通に進めた。いや、正確にはトラップは有ったのだけれど、どれも作動していなかった。ソナーで発見した落とし穴とかは破壊して中身を回収とかしたけど、何故だろうか?
「まあ、罠だろうね~~」
「どないしたん?」
「いや、こんなにモンスターがいないとなると考えられる事は一つだよねって」
「そら、待ち伏せやろうな~」
それから、しばらく探索してボス部屋を発見した。だから、ボス部屋の大きな扉を明ける前に準備する。
「んじゃ、デカイ範囲攻撃をぶっぱなしてやるか」
「どんなんやろ」
「来い、クトゥグア」
虚空から出現する真紅の水晶。それは燃え盛る炎を吹き出している。
「おもろいな~~」
「合図したら開けてね」
「了解や」
選択する攻撃は拡散攻撃。クトゥグアは俺と同じだけの魔力を貯蔵出来る。だから、使うのはクトゥグアから700と自分から700だ。大罪と違うのはこちらは魔法兵器ではなく魔導兵器。なので、どちらかというとレーザーやビーム攻撃であり、あんな特殊効果は存在しない。いや、火傷という意味では存在するが。
クトゥグアの前方に2枚の魔法陣が構築される。1枚は俺が作る増幅魔法陣。もう1枚は拡散魔法陣だ。
たっぷり、1分も準備したらレティシアに合図を出す。
「開けて」
「OKや」
レティシアが大きな扉に触れると、扉は自動で開いて行く。そして、レティシアは即座に飛び退く。
しかし、何も起こらない。
「なんや?」
「入らないと駄目?」
「かもしれない。でも、入った瞬間に扉がしまるとかザラだよね」
「そうやね。後は転移不可とかもやな。まあ、入ってみるか」
「そだね」
レティシアが部屋の中に入る。俺も扉の中に入る。ただ、何時でも出られる場所までだ。
「アレ? なんもおらへんよ」
「ボスは? ゲートキーパーはどうした!!」
「いや、もぬけの殻や」
「何それっ!!」
慎重に入ってみるが、何も起きない。ソナーを使っても一切反応が無い。
「うわぁ~~」
「してやられたって事なんかな?」
床をよく見ると、多数の真新しい踏みしめられた跡が有る。つまり、ここに配置していた敵を引き下げたという事だ。
「成程、アタシ達に経験値を稼がせずに一気に叩き潰す気か。相手もえぐい事を考える」
「でも、確かに有効な戦術やで。わざわざ敵のレベルアップを手伝ってやるなんて愚の骨頂やし」
「そうだよね。其の辺がRPGでおかしな所だ。なんで、わざわざ弱い敵を主人公の村の近くに配置するんだよって、思った事あるよ」
「そうやね。他にも何で最初から四天王全員で襲いかかってこうへんねんとも思ったで。まあ、最初はええとしても四天王の1人がやられたんやったら、残りの3人や魔王も含んで徹底的に叩き潰したったらええのに」
「確かに効率的だよね。国攻めもそうだけど一箇所の戦力集中した方が断然良いよね。その点、モンスターハウスに叩き込む罠とかえぐい」
まあ、言ってしまったらゲームにならないんだけどね。
「でも、相手も同じ事を考えてるのかもね」
「そうな~で、どうするん?」
「え? そんなの決まってるじゃないか~~」
「降りて叩き込むん?」
「はっ、はっ、はっ、何で相手の思惑に乗ってあげなきゃいけないんだよ。帰るに決まってるじゃん」
万全で相手が待ち構えている所なんかに行きたくないよ。
「そりゃそうやね。でも、ちょっとは意趣返ししときたいんやけどな~」
「じゃあ、ちょっとするか。えっと、設定をして…………」
「何する気なん?」
「クトゥグアを自動索敵モードで叩き込んで暴れて来て貰うだ~け」
「それは大丈夫なんか?」
「平気だよ。壊れたり、魔力が危なくなったら強制送還するしね。クトゥグアの1発が10だとして、帰還やら障壁やら色々で200は使うだろうから、残り500。50発は撃てる」
「楽しみやね」
「うん」
術式を追加して設定者以外の動く物体に対して砲撃するように登録する。もちろん、一定以上の大きさだ。だいたい拳くらいの大きさに対してだ。これで問題無いだろう。
「行ってらっしゃい、クトゥグア」
「行ってら~~じゃあ、帰ろっか」
クトゥグアを見送った俺達は踵を返す。後はこのまま自宅に帰ってお風呂だ。




