閉塞感
ナスタたちはレジスタンスの中でただひたすら穴を掘り続けていた。ナスタが指名手配扱いされ、逃げ始めた日から1ヶ月ほどが経過し、その間全くナスタは外に出ていなかったことから、いい加減ナスタは気が滅入ってきていた。
「こうも同じ環境ばかりだとさすがにね」
ナスタは自分の部屋でポツリと呟き、ゆらゆらと揺れる淡いランタンの光が照らし出す、どこまでいっても変わらない赤い土の壁を見渡す。
これまでもナスタはファームで生活していたため、特にこの色映えしないファームの世界には慣れていたし、それが当たり前であった。ただ、それでも食料を支給してもらいにいってもらったり、自分で何か買い物をしたりするために、色んなところを出歩くことができたし、何より、同じファームの中とはいえ、このレジスタンスとは天井の高さに大きな違いがあった。一方で、ノンは全く気にしていない様子で、相変わらずひょうひょうとしていた。確かに、これまで封印されてきていた事に比べれば自由もあるし、ナスタから魔力も貰えるし言うことないのだろう。しかし、ノンからみたもナスタはかなりやられているのがわかったのだろう。ナスタの精神状態を少しでも好転させるために、ノンはナスタに声をかける。
「ナスタさん、大丈夫ですか?あまり元気がないようですけど……?」
「もう、飽きたよ」
「ナスタさん、もう後少しでここに来たときに言ってた魔法で、穴をぶち抜くこともできるかもしれないのですが、後少し、がんばってみませんか?」
ノンの話を聞いてナスタは少しだけ目の輝きを取り戻す。
「そうなの!? よし、それやろう! いつできるの?」
ノンはナスタにこれまでの魔力量の増加と、行使に必要な魔力量から考えると、おおよそあと半月ほどで使える可能性があることを説明する。
この話を受け、ナスタはすぐにトリントンのところへ行き、魔法を行使する具体的な日程を詰める。
◇◇
「……ということで、半月ほど後には上位魔法が使えるようになる予定なので具体的な日程を相談しにきました」
ナスタは廊下の一番奥にある部屋でトリントンに説明する。
「よし、わかった。ではこちらで日程は調整しておこう。それよりナスタ、お前ちょっと外の空気を吸ってきた方がいいな。ミゲルと一緒に買い出しに行ってこい」
どうやら、ナスタの顔色を見て精神的によくないのを察したようだ。
「同じファームの中とは言え、ここに来たばかりのやつらはみんなこの空間に閉塞感を感じる。お前の場合は外に出ることが危険に繋がるからあまり頻度を高く外にでることはできないが、ミゲルと一緒に行けば最悪どうとでもなるだろう」
ナスタは思いがけない提案に喜ぶが、それと同じくらい嬉しそうにしていたのがノンだった。
「良かったですね、ナスタさん! 良い気分転換になりそうですね!」
ナスタは頷く。
「ありがとうございます。お礼に、今晩は晩御飯を用意させてください」
しかし、どうやらトリントンの狙いはそこだったようだ。
「あぁ、初めからそのつもりだった。あと、これまでの報酬でこれも渡しておくから、こっちは好きに自分の好きに使ってくれ」
ナスタはトリントンから渡された麻袋を見ると、その中には精錬された小石ほどの魔石が片手では持ちきれないほど入っていた。
「こんなにいいんですか?」
あまりの多さにナスタはトリントンに確認するとどうやら問題ないらしい。
「今回は特別だ。それに、お前が外に出る機会はなかなかないだろうからな。たまに外に出るときぐらい、気分よく使ってこい」
トリントンの男前具合にナスタは大きく頭を下げると、部屋を後にし、ミゲルと買い出しにいくことになった。
ナスタたちは廊下を出てミゲルを探しているとちょうどウンブラがミチの方から現れる。
「ナスタさん、ノン様、これからいつものですか?」
ウンブラはナスタがいつも魔法を使うときの両手を前に突き出し、両手の人差し指と親指を合わせた格好を真似する。見た目が少年のウンブラが魔法を使う格好で、その短い両手をうんと伸ばした姿はどこか可愛げがあった。
ナスタは首を横に振り、ミゲルを探していることを伝えるとミゲルもどうやら採掘をしていたらしい。
「多分そろそろ戻ってくる頃だと思います」
ウンブラがそう言ったすぐ後に、ウンブラの後ろからミゲルが現れる。
「あ、ナスタたち!これからいつもの?」
ミゲルはそう言うとウンブラと同じように両手を前にだし、ナスタの魔法の仕草を真似する。
「それ、二回目だから……」
「ミゲルさん申し訳ないでやんす。あっしが先にやってしまったでやんす……」
やはり最初にナスタが感じたように、この2人は似たもの同士のようだ。
「やっぱりあの2人はよく似ていますね。仲が良い証拠ですね!」
「え? 仲が良いと似てくるの?」
「えぇ、お互いの信頼関係が強かったり、関係性が強かったりすると自然に似てくる場合が多いですね。ナスタさんと私もそのうち似てくると思いますよ!」
そんなノンの言葉をナスタはそんなバカな話あるかと言わんばかりにさらりと流し、トリントンからミゲルと買い出しにいくことになったことを説明する。
「良いわよ、じゃあちょっと待ってて。私も準備してくるから。ノンたちはどうする?」
「ノン様、久し振りにゆっくりお話させていただけませんか?」
突然のウンブラの申し出にノンは驚くが、本人が答えるより早く、ナスタが答える。
「せっかくだからたまにはゆっくりしてたら? 精霊同士積もる話もあるのかもしれないし」
ノンは一瞬考えるが、頷き、結局ウンブラとレジスタンスで待つことになった。
ナスタは部屋に戻り、白いフードが付いた外套を羽織り、ミゲルとともに約一月ぶりの外出に向かう。
レジスタンスから出るときは基本的には長い廊下の先にある隠し通路を通るが、ミゲルの場合は影魔法のお陰で直接ファームの商業区あたりにでることができる。ミゲルは買い出しの準備が整うと、ナスタに声をかける。
「準備はいい?」
ナスタは頷く。
「それではナスタさん、お気をつけて!」
ノンがパタパタと手を振り見送るとミゲルはナスタの手をつかむ。思いの外柔らかい手にナスタは思わず握りしめられたら手を見つめるが、そんなナスタをよそにミゲルは詠唱する。
「影の番人よ繋げ漆黒の扉、シャドウゲート」
ミゲルが詠唱を終えると、2人の足下には
ぽっかりと黒い穴があき、すっと体が沈んでいった。
「久し振りのファーム、私も行きたかったんだけどな」
「まぁそう言わないでほしいでやんす。色々と教えてほしいことがあるでやんす」
「えぇ、そうね。話をしておかないといけないことがいくつかあるわね」
ウンブラの言葉にノンは遠くを見つめ、言葉だけで返事をする。
「積もる話は部屋に行ってからにするでやんす」
2人はウンブラの部屋にいくと、ナスタの部屋より奥に掘り進められていて広く、ナスタの部屋にはない机や椅子、ソファーなど色んな物がおいてあった。
「ウンブラの部屋は色んな物がおいてあるのね」
「えぇ、あっしは食事に関心がないでやんす。だから全て物にまわすでやんす」
ウンブラから進められたら近くのソファーにノンは座るとノンは腕を組み腰掛ける。
「それで、話って何かしら?」
「ノン様がいなくなってから、みんなとても心配してたでやんす!どうして急にいなくなったんでやんすか?それに、何でまた人間と一緒にいるでやんすか?」
ノンはまくし立てるように質問をするウンブラの方に少しうんざりしながら、少し硬めのソファーの背もたれにもたれ掛かり、足を組む。
「私が、いつ、誰と、どこにいようが勝手でしょ?」
「そりゃそうでやんすが、いなくなるならいなくなるって言ってほしかったでやんす!」
「じゃあ、素直に言ったら笑顔で見送ってくれたわけ? そうではないでしょ? もう良いじゃない、過ぎたことなんだし」
ノンはその場から立ち上がり、そのまま部屋を出る。
「ノン様! もう少しお話を!」
ウンブラの制止を聞かず、ノンはそのままウンブラの部屋を後にした。
「ノン様、何を考えているんでやんすか……」




