95話:使い魔
私は新たな攻撃手段を得た。使い魔のウニである。
「うにしゅてあ!」
私の手からウニが発射され、木の的に当たりぽよんと跳ね返る。
なんという殺傷能力……。ぽぽたろうを飛ばすより当てたらきっと痛いだろう……。
戻ってこーいと思念を送ると、ウニ助は身体をぷるるんと身体を震わせて、うにうにと地面を這う。
欠点として、ウニ助はぽぽたろうと違って戻ってくるのがものすごく遅かった。
「なるほど。ティアラ様にそっくりですね」
「どこが!?」
どう見ても私のぷりちーぼでぃーとそぐわないウニ助だが、魂の形と言われるとまさにぷりちーぼでーにそぐわないおっさんなので反論に困る。
あとこのウニ助。見た目と違ってかなりぷにぷにしていた。安全性に配慮されたぷにぷに感触のとげとげである
「私の想像してた使い魔と違う」
「ドロレスも違いますね」
「ルアも違いますっ」
「ソルティアも違いますよー」
やはりな。誰がウニを使い魔だと思うだろうか。髪の毛プリズム系キラキラぷにぷに美少女の魔力から出てきたのがウニである。
「使い魔クビにするか……」
私がぼそりと口にすると、手の上でウニ助がぷるぷる震えだした。
「かわいそうですよっ」
ルアがそう口にすると、手の上のウニがルアの胸元に向かってぴょんと跳ねた。えろウニである。まったく誰に似たんだか!
二日後。
私はチェルイの市長におじいちゃん教官と共に呼ばれた。部屋には新聞記者も集まっている。
解析不能で動作しないと言われていた古代遺跡の、使い魔を呼び出すと伝承されていた魔道具を起動させたからだ。
私が使い魔をバッグから取り出すと、一同はぽかんと口を開けた。
「それが使い魔ですか?」
「はい」
ウニ助は手の上でうにうにと身体を揺らした。慣れてきたら結構かわいい。
使い魔らしいところを見たいということで、私はテーブルの上にウニ助を置いて、「こっちおいでー」と呼んだ。するとウニ助は私を無視して、テーブルの上のお茶請けのクッキーにトゲを伸ばしてつかみ取り、うにうにと食べ始めた。
「こんな感じです」
トラブルが起きた時、堂々としていれば失敗だと思われない。ぷにぷにのおっさんの姿だと不可能だが、ぷにぷにの美少女だとそれが許されるのである。
ウニ助は二つ目のクッキーを食べ始めた。
新聞記者は困った様子でクッキーを食べるウニをカメラに収めた。
市長の受け答えはおじいちゃん教官に任せた。私は手を置いたら魔力を吸われたとだけ答えておく。嘘は言っていない。
そして偉業として一面を飾った新聞記事には、私とウニと市長の並んで撮った写真が使われていた。モノクロ写真だから私の髪が市長と同じように白髪みたいになってる。意外と使い魔っぽくも見えなくもないなうん。
街中を散歩すると私は市民に囲まれてしまった。へへ。有名人は大変だぜ。
使い魔が見たいと要望されたので、私はウニ助を取り出した。みんなに注目されてトゲをびんびんにしている。
その姿にどよめきが走る。
「おお……それが噂の……」
「伝承の使い魔……」
「山の神……」
そんな大層なものなの? ウニ助はぷるぷるとみんなにトゲを振っている。
さて。結局このウニがなんなのかロアーネに聞いてみる。なんか知ってそうだしこのロリババアもどき。
「ロアーネもおじいちゃん教官ほど詳しくないですよ? この地方の昔話で聞いたことがあるだけで」
「ふぅむ」
開拓時代の話だ。シビアン山脈の魔物に対抗するために、魔道具で使い魔を召喚した。
どうみてもそんな力を持っているように見えないこのウニ。つんつん。ぷるぷる。
せめて投げたら爆発くらいすれば火力になるのに。ウニ爆弾。
このウニのせいでぽぽたろうがソフトボール大になってしまい、帽子やクッションにできなくなってしまった。こいつこいつっ!
テーブルの上で同じ大きさのウニ助とぽぽたろうが戦い始めた。お互いぷにぷにぽよぽよなので戦いにならない。じょじょにぽぽたろうの毛にウニ助のトゲが埋もれていく……。
「わかりましたっ! きっとまだ子どもなんですよっ!」
む? 私はまだ子どもだが。
子どもでは無くなってきたボディーの持ち主のルアは、二精霊を掴んで引き剥がした。
ロアーネがぷにぷに共を受け取った。
「なるほど。主の魂の形を模すと言うことは、まだ幼生なのかもしれませんね。あるいは卵なのかもしれません」
なんか精神的に幼いって言われてる気がするんですけど!? おっさん? なんですけど!?
「ですので、ぽぽちゃんと一緒にうにちゃんも魔力を注いだら大きくなるのではないですかっ?」
なるほどな。なんかウニのままでかくなる気がしてならないけど。
つまりこれはあれだ。育成だ。育成ゲームだ。なんか捕まえたモンスターとか育てるやつ。
だけどおっさんは一般的に知られているモンスターを育てるゲームをプレイしたことがない。それよりも女の子モンスターを捕まえるゲームに夢中だったからだ。家にあったパソコンゲームを遊んだらたまたまえちちなゲームだったわけだが、それは置いといて。
他には一般ゲームなのに「とりあえず脱ぐ」なんて隠しコマンドがあった、義理の娘を育てるゲームとか……。
だめだゲーム遍歴が偏りすぎている。
ということで、育成コンテンツは結構好きなんだ。小さい頃にマルチメディアメーカーというマルチPCコンテンツを作るソフトで、ダビスタもどきの育成ゲームを自作しようとしていたくらい好きだ。すぐに頓挫したけど。
「よしウニ助! 身体を鍛えるぞ!」
なにはともあれフィジカルだ。育成ゲームでは体力がなければ始まらない。娘を育てるゲームでも体力と筋力を999にしてからが始まりだ。そして武者修行でモンスターを狩るのだ!
だめだ育成方針が偏りすぎている。
私も最近少しぷにぷにしすぎてるからなぁ。外気温が寒くなると動物は脂肪を蓄えるものだ。だから冬場にぷにぷにするのは仕方ないのだ。
だから室内で運動するのだ。外は寒いから仕方ないのじゃ。
まずは体幹トレーニングだ。身体の内側から引き締めるのだ。腕立て伏せの姿勢から両肘を付けるロープランクをするのだ。なるべく身体を動かしたくない私は、動かさなくて良いトレーニングを好む。動かすと疲れるからだ。
三十秒ほどで私のお尻はぷるぷるし始めた。おかしい……私の身体がなまりすぎている……。
「よしウニ助もやってみよ」
ウニ助は床にころんと転がった。こらこら、お腹のトゲが床に付いてるぞ。ははは。
た、体幹……?
ウニの体幹……?
「腕立て伏せにスクワットにランジに……」
ウニの筋トレ……?
その姿は、やわらかいトゲがぷにっと折れ曲がっているだけだった。
隣のぽぽたろうも短い手足を動かしているようだが、白い毛玉がふるふるしているだけだった。
「かわいいですねっ!」
かわいいだけだった。
「ロアーネ。使い魔ってどうやって鍛えるの?」
「さあ。少なくとも筋トレさせるのは違うでしょう」
「やっぱり?」
「しかし主の精神性が影響するならば、主は鍛えるべきでは?」
え? 私が体力999筋力999のゴリウーに!?
んにっんにっ。
「お嬢様っ。おやつの時間ですよーっ」
「わーいケーキだー!」
待てよ……。私がぷにぷになのは甘い環境のせいなのでは……?




