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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【4章】魔法学校編(9歳春~)
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91話:妖精の巣

 ごとごとと馬車に揺られてオルバスタのオルビリア宮殿へ帰った。道の脇ではオルビリア━チェルイ間の鉄道が敷設が始まっていた。一年卒業時には鉄道で帰れるかもしれない。

 宮殿へ戻り、私は真っ先にパパの寝室へ向かった。私はパパのベッドに飛び込む。パパー!


「パパが倒れたって聞いたから急いで帰ってきにゃあ」

「心配してくれてありがとうティアラ。パパは大丈夫だぞぉ」


 パパの血色は良かった。むしろ私の方が馬車酔いで死にかけていた。


「パパなんの病気?」

「なーにただの月射病さ。みんな騒ぎすぎなんだ」


 なんだただの月射病か。……月射病ってなんだ?

 言葉からして日射病の月バージョンだから、月の光に照らされすぎた? 魔力関係の病気か?


「ただの過労ですよ。回復魔法も必要ないですね」


 ただの過労かよ! おつかれさま。

 夜遅くまで月明かりで夜ふかしして倒れる病気。月の光に当てられたせいで気を失うとされていたとか。

 昼間に頑張りすぎると日射病ね。


「ティアラは馬車で世界がぐるぐる病」

「そうかそれは大変だ。パパと一緒に寝るかい?」


 どきっ! 図らずとパパと同衾することになった。赤ちゃんできちゃう!


「ぱぱー!」


 この声は! 私のようなおっさんの魂が入っていない真正幼女のシリアナだ!

 シリアナは部屋に駆け込んできてパパのベッドの上にダイヴした。ぐえー!


「あっ! ティティーだ! ただいまんまん!」

「お……おかえりんりん……重い死にゅ……」


 私と同じように、シリアナとママも戦地となったオルバスタから離れていた。場所は東西鉄道が開通したばかりのヴァイギナル王国。私が何日もかけて馬車酔いに苦しみながら旅行した距離を、わずか半日足らずで往復できるようになった。

 シリアナの後に部屋に優雅に入ってきたのは、さらさらのプラチナブロンドの髪に、虹百合の花の魔法結晶を付けた、空色のドレスの似合う美少女だった。


「アナだめだよ。そんな暴れちゃ……。ディアルト様、ティアラ姉さま、お久しぶりでございます」


 リルフィーだー! リルフィもこっちにおいで!


「いえ、ぼくはそんな……」


 もじもじしてるのもかわいい!

 ところでなんで女の子の格好をしてるんだろう……。


「なんでって、ぼくは女の子ですよ姉さま?」


 そっかー。身も心も女の子になってしまったか。元のパパとママと暮らすようになったから男の子に戻るかと思ったのに……。自身を女の子だと思っている男の娘に無事成長したんだね! 姉さまは嬉しいよ!

 いや待てよ。リルフィは賢い子だ。性差くらいわかっているだろう。多分。

 きっとまだ、女の子でいないといけないのだ。その方がかわいいから良いけど。

 その日はリルフィを久しぶりに抱き枕にしてリルフィ分を堪能した。



 さて。

 私たちはパパを連れ出してピクニックに出かけた。パパは家にいるとお仕事を頑張りすぎる人だから、お仕事場所から引っ張り出したのだ。

 パパとリルフィとシリアナと、そしてルアやカンバのお付きメイドに、近衛団長に翼ライオン(ドルゴン)のにゃんこに。ついでにロアーネに。ちょっと遊びに行こう! と思っても大所帯になってしまうのは致し方ない。

 パパのお仕事の代わりはタルト兄様が「任せとけ」と胸を張っていたので任せた。もうすぐ十一歳のまだまだ子どもなのにすっかり大人っぽくなってしまった。ちんちんはまだ子どもだけど。ふひひ。


 そして私たちはオルヴァルト高原へ遊びに来た。以前遊びに来て、にゃんこと出会った場所だ。

 その高原のなだらかな麓の、街道沿いの草原一面に、夏真っ盛りだというのにお花が咲き乱れていた。いや、乾燥した夏にも咲く花は沢山あるけどね。二年前はこんなじゃなかったよね? まあ二年も経てば植生も変わることあるか。

 しかしあれだな。花畑で美少女がきゃっきゃうふふって光景あるけど、花を思いっきり踏み潰すことになるな。無邪気に走り回ることはできないぞ。いや、真正幼女のシリアナはそんなことお構いなく全力疾走してるけど。それを追いかけるリルフィも花のことを気にしてられないようだ。そして二人はふわっと消えた。

 目の前からこつ然とふわっと光に包まれて消えてしまったのだ。



「オルバスタ侯爵様! 花畑には近づいてはなりませぬ! 妖精に拐われてしまいますぞ!」


 町長さんが馬に乗って駆けてきて、私たちにそう叫んだ。

 妖精……妖精だと!?

 どうやら二年前から牧草地の草原が、魔力溢れる土地になってしまい、人も家畜も近づけない場所になってしまったらしい。一体なぜこんなことに……。心当たりがありすぎる……。

 私がすんと知らない振りをしていたら、ロアーネがつんつんと私の脇腹を突っついてきた。なんだよ。


「こほん。ティアラ様が求めていた、お花畑のダンジョンになってますね」


 なんだと!?

 私は目の前に広がるお花畑を眺めた。魔力が満ち溢れていて、妖精が棲んでいて、空間に歪みが発生しているらしい。そしてそんな場所を人はダンジョンと呼ぶ。


「私、花畑に行ってくる!」


 私がそう宣言すると、パパは「うっ」と腹を押さえた。

 あ、また心労をかけてしまった。私のせいでパパの胃に穴が空いちゃう。


「花畑ができて、妖精が棲んで、ダンジョンになってしまったのは私のせいだと思う。だから私がなんとかしてくる!」


 私はにゃんこに乗ってお花畑に踏み入った。まあにゃんこを連れていけばなんとかなるだろという気持ちで。

 私はぶわりと風を受け、別世界に飛ばされた感覚を受けた。例えるなら、映画館に足を踏み入れた時の別世界感的な。昼間の草原だったはずなのに、突然周囲が暗闇になっていて、箱の中に閉じ込められたかのような……。


「へぶちっ」


 私は地面に転がった。乗っていたはずのにゃんこはいなくなっており、私一人だけが妖精に拐われたようだ。

 そしてどこからともなく周囲からくすくすと声が聞こえてくる。

 それは彼らの声なのか、羽音なのか。

 細く吊り目で幻想的な、手のひらサイズの妖精が私の周囲を回っていた。


「また餌が来た! 餌を捕まえた!」

「肉団子にしよう!」


 幻想的でもなんでもなくただのクソ害虫だった。

 日本のファンタジーにおける妖精は無邪気でいたずら好きでかわいらしいイメージだが、本来のフェアリーは極悪だ。ちょっとしたいたずら妖精のイメージはむしろゴブリンの方が正しい。ホブゴブリンは良い奴だし。

 こいつらは、私の大事な妹たちを拐った羽の生えた魔物だ。

 妖精に拐われる意味を実感していなかったが、その敵を目の前にしたら、私の中に怒りが沸々とこみ上げてきた。


「逃げられるかな? うきききっ」

「出さないよっ? 僕たちの花を荒らしたのが悪いんだ」


 知るかボケ!

 人間はエゴの塊だ。自分たちが一番大事だし、自分たちのためなら自然環境を変えるし、幼女は遊ぶために花を踏み潰すんだ!

 それを罪だと言うならば、私の魔力の残滓で好き勝手している害虫の存在も罪なんだよ!

 私の周りで飛び回る羽虫どもを、私は両手でぺちぺちと叩こうとして跳ね回った。


「のろまのろまー」

「にんげんはばかだな」


 なにをー! 私は人間じゃねえし! 泉の精霊らしいし!

 待てよ。こいつら私が人間に見えるのか。


「このあと私どうなるの?」


 害虫どもはハエみたいにブンブン飛び回りながら答えた。

 魔法弾をぺしぺし飛ばすも避けられてしまう。


「眠らせてじっくり溶かしてやるのさー」

「あれ? 中々眠らないなこのにんげん」

「鱗粉もっと撒けおまえらー」


 なるほどな。なら早くみんなを助けないと。

 全く眠くならないからゆっくり考えよう。ふうむ。すやー……。


「やっと効いてきた」

「しぶとかったなーこいつ」


 む?

 ほっぺがちくりとしたので、パァンと叩いた。痛ったぁ!

 ぷ~んぷ~んと私の周りを害虫どもは飛び回る。やはり死すべき。


「まだ起きてるぞ」

「なんでだ? まだ眠らないのか」


 怒りが沈んで冷静になっているのは、鱗粉とやらの鎮静作用だろうか。

 怒りに任せて全力で一帯を爆発させようと思ったけれど、妹たちを助けることを優先しなければならない。落ち着かされてよかった。

 さて、爆発させるよりもっとスマートな方法はないだろうか。


「花畑燃やしちゃうか」

「どうやってー? ねえどうやってー?」

「どんな気持ちー? 囚われて今どんな気持ちー?」


 私の周囲で害虫がぴょんぴょん跳ね回る。ふむ。ブサイクな種族だ。かわいくないから死んでもいいと思う。かわいかったら少しはためらったのに。

 私は周囲あちこちに魔力に思念を込めて『にゃんこ! 火を吹いて!』と飛ばすも反応がない。

 むしろ、私がなにか魔力を飛ばしたことに感づいた害虫どもがはしゃぎだす。


「むだだよ! むーだだよ」

「人間なんかに妖精の袋は破けないよー」

「きゃっきゃ」


 害虫がきゃっきゃしてもかわいくない……。おかしいな。草原からなら白マナが出るはずなのに、どう見ても黒のクリーチャーだろこいつら。

 マジックでギャザリングなカードゲームネタは置いといて。私はちょっと本気を出すことにした。みゅむむむっ。


「唸っても外に出さないよー」

「くやしい? くやしい?」

「小便漏らしたー! びびってるぅー!」

「そんなにんげんの魔力じゃ……あれ、なにこの……え?」


 びゅるっ! 私はもう一度、全方向に向かって『にゃんこ! 花畑を燃やせ!』と魔力を込めた思念を飛ばした。

 思念を飛ばして、にゃんこに外部から炎上させて脱出しようと思ったのに、そもそもその思念の魔力で空間が割れて崩れさった。なんだ、もろいじゃん。


「へぶちっ」


 私は地面に転がった。見上げると穴の開いたウツボカズラの袋のようなものが、ねじれたつる植物からぶらぶらと垂れ下がっていた。

 あれに囚われていたのか……。

 なんか周囲で騒がしいと思ったら、害虫が炎に巻かれてピーピー鳴いていた。いいぞ! もっとやれ!

 いや、ちょっと待って。このままだと私も燃えちゃう! 逃げろー!


「その前にこの袋を切らなきゃ!」


 私はナイフを取り出して、急いでウツボカズラの袋の上部を切って回った。ぼとりぼとり落ちる袋から、ねっとりした粘液にまみれて寝ているリルフィとシリアナが現れた!

 おかしいな袋の方が小さいような……。サイズ感がおかしいのは、空間の歪みってやつか?

 そんなことより、起きろー!


「姉さま……助かりましたありがとうございます」

「あと五分~むにゃ」



 そしてすっかり花畑は焼き払われて、害虫どもの巣であるつる植物だけが残った。

 どうやらこいつが元凶のようだから、お花たちには悪いことをしたかも。文句は害虫に言ってね花の精霊さん!

 高原の先の森へ向かって逃げ出していった害虫たちは、火吸鳥たちが空から急降下して次々についばみ、食われていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 妖精は妖精でも性悪妖精! かわいくないけどやさしくていたずらっ子な座敷童ことホブゴブリンさんも、今ではすっかり邪悪に……おにょれ風評被害!
[気になる点] でも表情(筋)の問題なんでしょう? 。。。深海魚みたいにグワッとか口開いたらテメーはダメだなんですが。 [一言] 。。。いや、性格さえまともであればー。。。
[一言] 妖精たちが面白い 可愛くない…だと…
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