71話:ま漏らし
私はにゃんこに乗ってぬっこぬっこと馬車の前を進んでいる。空を飛ばしていた翼ライオンのにゃんこが、猪の魔物を刺激したのではないかと近衛団長のじっちゃんから言われたのだ。
なので私はにゃんこに乗っているのだが、これ長距離移動に向かない。めっちゃ内もも痛い。鞍もなく背中に女の子座りでまたがっているのでお尻も痛い。
「んなぁ~」
「なに? 寝転がれって?」
いくら私が小さいからってそれは無理だろう。
「なうー」
にゃんこは突然立ち止まり、その場で座り込んでしまった。
「降りろって?」
私がにゃんこの背中から降りると、にゃんこはこてんと横になった。お前が寝たかったんかい。
私のすぐ後ろを馬に乗って付いてきていたじっちゃんが、下馬して隣にやってきた。
「どうなさいました姫様」
「お昼寝の時間みたい」
空にはさんさんと太陽が輝いている。風が心地よくて私も眠くなってきた。ふわわ。
「小休止いたしましょう」
にゃんこのもふもふを見ていたら、そこへ顔を埋めたい衝動にかられた。
いかん危ない危ない。もう日向ぼっこ開始しているので、太陽光を蓄熱し始めてるかもしれない。よく見ると体毛の先がじんわりきらめいている。
「んん?」
これは魔力だろうか? いまさらだけど何か違和感を感じる。
疑問に思ったので、ティータイムのついでにドルゴンの発熱についてみんなに聞いてみた。
すると、魔物マニアの父を持つルアが知っていた。
「ドルゴンは寒いシビアン山脈に棲んでいるからですよっ。動かないと凍えちゃいますからねっ」
なるほど。魔力を精製しているのではなくて、魔力を使って発熱していただけなのか。でもそれならこのぽかぽか陽気の中で火傷するほどの熱出さなくても良さそうだけど。
「外敵から身を守っているのではないですか?」
ロアーネはそう答えた。
ふむふむ。攻撃されないようにか。それに殺虫もできるしね。
お昼寝の邪魔をされることも減るだろう。私がもふもふできないように。
「雪解け水を飲むという話を聞いたことがありまス」
カンバの説は飲料水確保のためとのことだ。寒いと水場も凍るし困るかもしれんなぁ。
「ティアラ様はどう考えていたのです?」
「私は日光から魔力を作っているのかと思ってた」
私がそう答えると、ロアーネはきょとんとした。目の前で手をふりふりするも反応がない。おーい。
「お嬢様の発想は面白いですネ」
「そうかな。ほら、日光浴びるとビタミンDできるし」
「びたみんでぃー?」
動物は日光でビタミンDを作り出す。猫は毛づくろいの時にそれを摂取している。それと同じようにドルゴンは魔力を作り出しているのかと私は思っていた。
「びたみんでぃーってなんですかっ?」
「えっと確か、ビタミンDを摂らないと身体が成長しなくなるのだったかな?」
うろ覚えである。
それを聞いたロアーネは、突然自身の着ているシスター服のような服を脱ぎだそうとした。慌ててみんなで押し止める。
「ロアーネはもう手遅れだよ!」
「まだ伸びます!」
うやむやになってしまったが、まあ結論が出るような会話じゃなかったしな。ただの話の種だし。
あれ? ところで毛玉のぽぽたろうが見当たらないが。
「ぽぽたろうならクーラーボックスにお土産と一緒に入ってますよ」
「え? なんで?」
「だって暑いと溶けるじゃないですか」
なるほど冷やしぽぽたろう……。雪の精だからなぁ。
ぽぽたろうは魔力を吸い取るから、魔力が多いらしい私やロアーネが抱いていれば夏も生きられる。
待てよ。するとにゃんこも私の魔力を吸っていた?
にゃんこは道の真ん中でぐでーと伸びていた。なんだかすごく暑そうだ。
ふむ。もしかして満充電……満充魔力? 状態なのだろうか。
「お嬢様も髪がきらきらしてますよねっ」
私のつるっつるの長い銀髪は今日もCDの裏面のように輝いている。おそらく本当にCDと同じ構造なのではないかと思う。CDはレコード盤と同じく目に見えないデータの溝が掘られており、それにより分光されて虹色に反射する。
すると私の髪はめっちゃ細かいぶつぶつが空いてるということ? なにそれこわい。ぷるぷる……。
私は自分の髪を片手分一房手にとって見た。ふうむ。何も見えん。
私の様子を見ていたロアーネがぽんと手を叩いた。
「なるほど。そういえばティアラ様の髪からも魔力が漏れてますね」
なんだと!? これ魔力漏れだったの!?
「わたしの精神干渉魔法が効きすぎるのも、お嬢様の魔力に反応していたからですネ」
本当に常時垂れ流しのお漏らし……いやま漏らしだったの!?
私が身体を左右に振ると、それにともない髪がきらきらと揺れ動く。まさかま漏らしの輝きだったとは……。はずかちっ。
「つまり、私が魔法が下手なのは、髪から魔力が漏れ出ているせいか!」
「それは関係ないですね」
関係ないのかい!
私は寝てるにゃんこに魔力弾を放った。魔力弾はにゃんこの毛にふわりと弾かれた。にゃんこは耳をぴくぴくと震わせた。
「上手になりましたネ。お嬢様」
カンバはそう褒めてくれたけど、やはり下腹部に力を入れないと私の魔法の威力はこの程度である。まあ、魔法というか魔力をそのまま撃ち出しているだけなのだが。
「お嬢様は不満そうですけど、それだけ撃てるなら魔法学校に入れますよっ」
なぬ!? 魔法学校だと!? 普通の学校は興味なかったけど魔法学校はすごく気になる! 学園編はじまる! 私あれ! 入学試験で大魔法ぶっ放すのやりたい!
「あーあ。ティアラ様が目を輝かせてしまいましたよ」
「落ち着かせましょウ」
あ、あ……。カンバになでなでされて冷静になってきた。私が本気を出すと下から水魔法も出ちゃうじゃん……。試験官にドヤ顔できないじゃん……。そもそも大魔法使えないじゃん……。
「鬱だ……」
「あっやりすぎましタ」
どうせ私は欠陥混じりのおっさん幼女なんだ……。ぽんこつぷにぷにでお菓子を食べるだけの生き物なんだ……。
「調整が大変でス」
甘いバタークッキーをもぐもぐして回復した私は馬車に乗り込んだ。にゃんこに乗るのは限界だったから、じっちゃんに連れさせることにした。
しかし魔法学校か。魔法学校。楽しそうだな。むふふ。女の子とパーティー組んでダンジョン攻略とかしちゃうんだ学生なのに。
「ルアは魔法学校行ったことあるの?」
「はいっ! 半年だけ通ってましたよっ!」
おお! 見学くらいかなと思ったら通ってたのか! 半年だけ?
「わたしは基礎後期まで受けましタ」
基礎後期?
どうやら一年生が魔法基礎で、前期後期に分かれているようだ。
「ロアーネは神学校ですから、魔法学は知りませんね」
ふぅん。……待てよ。ロアーネに魔法のこと聞いてものらりくらりとかわしていたのは、もしかして知らないだけだったのではこの合法ロリ。そもそも学校行ってたのも何年前かもわからんな。今世紀だよな?
「それで、魔法学校に入るにはどうすればいい?」
「本気ですか」
だってルアとカンバの話を聞いてたら楽しそうだし。それに飽きたら半年で休学しても良いみたいだし。一年通えば基礎講習修了の証貰えるみたいだし。カンバが銀色の丸いピンズを見せてくれた。ルアは半月形だ。前期だけだからだろうか。
「魔法学校は中等教育ですから、初等教育課程修了が必要ですよっ」
私は絶望した。
「お勉強すれば良いのですよっ」
お勉強したくないよぉ……。
魔法学園編……フラグ……(ぷるぷる)




