212話:精霊が変人じゃないわけがない
やるべきことをやらずにサボってただけなので、まだしばらく不定期予定です
さてはて。
私たちがのんべんだらりと観光している間に、世界情勢は大きく動いていた。
まずアナスン帝国のイルベン人が西に侵攻。なんのこっちゃかと思ったが、毎年恒例のヴァーギニア狩りだ。騎馬民族の弓エルフ部隊がわーっと襲いかかってくる。そして闇の国ドウテアはその間を南下侵攻していた。
つまりは、リアの嫁ぎ先と、弓エルフのいざこざに、ノノンの死兵グリオグラが挟まってきたということだ。
「すると、ノノンはヴァーギニアを助けたってこと?」
「ほめて」
「えらい!」
しかしそれによりヴァーギニアは「もうクリトリヒの援軍いらねー独立する」と言い出してわちゃわちゃし始めたという。オルバスタ東のルレンシヒ地方の再独立の動きは、その流れからだったようだ。
つまりどこへ繋がるかというと、そうした情勢からベイリア帝国は、「最近調子こいてるオルバスタもうちから独立すると言い出すんじゃねえだろうな?」と釘を刺してきたのだ。さもありなん。オルバスタは元々自治領みたいになっている。そこからナスナスと妹シリアナの婚約となったわけだ。
「じゃあ妹がいけ好かと婚約したのはノノンのせいじゃん!」
「ノノンじゃない。別個体」
「別個体ってなんだよ」
やはりこいつは沢山いるのか?
さて。なぜこんなつまらない話になったかというと、それはノノンがアナスン帝国ぶっ潰すの手伝ってと言い始めたからだ。
イルベン人には思う所がある。昔あったおばちゃんのお友達の暗殺事件。それはイルベン人の犯行とされている。なのでやっちまおうぜという気持ちもあるのだが。
竜姫が私をぐいと抱き寄せた。
「私の予約の方が先。竜王国に来て世界樹つくって」
「ノノンの方が大事。ヴァーギニアに来て世界樹つくって」
どいつもこいつも世界樹世界樹! 私は世界樹製造機かっつーの!
「そのとおり」
「よ。世界の救世主」
そ、そう? にへへ。私は上手く乗せられた。
ところで私の魔力による人造世界樹じゃなくて、ウニの樹じゃダメなのだろうか。まあウニの樹も人造世界樹から生まれたので同じようなものなのだが。竜姫はウニの樹は世界樹ではないと言っていたが。
「それでもいい」
「種ちょうだい」
え? いいの? それなら私行かなくてもいいじゃん。
竜姫は私のぷにぷにぽんぽんをさわさわした。ひゃあん。
「ウニの樹は預言の石版の欠片だわ」
「ん。月の女神の落とし物ではない、人造世界樹の一種と推測」
月の女神の落とし物? うんこみたいやな。私がそういうと、竜姫にオイオイとツッコまれた。
「精霊姫下品だわ」
「さいてー」
なんで? なんで竜姫は良くて、私はうんこ言うと叱られるの?
「それでなんなの。月の女神の落とし物って」
私がそういうと、竜姫とノノンは驚愕した。あっけにとられた後に、冗談だと思ったのかあははと笑い、逆に私がきょとんとしていたら、もう一度「こいつまじか」という顔で見られた。
「知ってる。知ってるて」
おーいロアーネ! こっそり教えろ! ロアーネボックスがぱかりと開いて、教師役ロアーネ様が教鞭を手にして現れた。「新年の流星月に降る隕石。それが世界樹の種だという言い伝えのことを言います」と言った後に、なんで覚えてないのですかと鞭をぺちぺちしてきた。や、やめて! 知らないもん!
世界樹の種は月から降ってきたのか。
――しかし世界樹とはなんなんだろう。お答えしましょう。
前世チキューでの世界樹は有名なユグドラシルだ。確か世界を構成する巨大な樹のことを言う。世界樹を世界樹と脳内で訳したのは、「世界を支える樹」と習ったからだ。しかしこの世界の世界樹は無数に生えている。
もちろん物理的に樹が世界を支えているわけではない。今、世界で騒いでいるように、魔力エネルギー問題のことだ。いつだって人類はエネルギー問題を抱えている。お日様の当たる日当たりの良い場所。闇を照らす蜜蝋。鉄を溶かす良質な石炭。燃える水の石油。天然ガス。いつまで経ってもタービンを回す事が最高効率の蒸気。……それは魔素でも同じなのだろう。
月より送られてくる謎エネルギーの魔素。まあ太陽の光だってぶっちゃけよくわからないエネルギーだし、それを使って産まれる生命も謎だし、そう考えると、よくわからないから存在するはずがないと考えるのはナンセンスなのだろう。それがナノマシンになったところで謎は謎だ。ナノサイズのマシンじゃ大きすぎるから、ピコマシンかもしれない。
ともかく。月から送られてくる謎エネルギーを吸収して魔力変換して蓄え、この世界に留めているのが世界樹の役割だ。
そして魔素は世界樹がなければ地表から消えてしまうものなのかというと、そういうわけでもない。魔素は世界樹が無くても地表に存在する。
しかし魔素は太陽の光で分解される。ゆえにエイジス教は太陽信仰ではなく月信仰なのです……なのです……(なのです……)――
私の脳みそが侵されている。頭がくらくらしてきた。
「どしたの」
「大丈夫? 急に黙り込んで唸りだして」
竜姫が私の頭を撫でてよちよちした。
「元気だして。カキフライ食べて」
「食べりゅ。あーん」
私はお口をぱっくり開けて竜姫にカキフライのあーんをねだった。
そう、カキフライを食べにまたローター帝国へ戻ってきたのだ。私たちがワープしたら、預言の石版がウニウニしくなったことを調査している方々が腰を抜かした。おそらく後世に「預言の石版は古竜や幼女を生み出す」と残されることだろう。
竜姫はカキフライを口に咥えて、口移しであーんをしてきた。え、はずかち。しかし竜姫は中身はアレだが見た目は美少女ドラゴンなので悪くない。むしろいい。私はパクっと食いついた。
「あっちゅぇええッ!」
私は椅子から飛び跳ねて、カーペットにすってんころりんごーろごろ。口の中がマグマだ。私は猫舌であった。
「これで熱いの?」
竜姫は平然とカキフライをもぐもぐしている。なんであいつは平気なんだ。そうか溶岩の精霊だからか。
私の様子を見たノノンは、カキフライの衣を剥がして、牡蠣の身をふーふーして端っこをちょっとかじっていた。あれはあれでなんか違う。エビフライの中身だけ食べるお子様かよ。
メスガキ三人でカキフライもぐもぐしていたら、タコ坊主の人がやってきた。お一つどうぞしたが断られた。
どうやら色々と聞きたいことがあるようだ。預言の石版をキラキラウニウニにした事情聴取中にワープとかしたから余計に混乱しているらしい。さもありなん。私たちも預言の石版って何なのという話しをちょうどしたところだ。
「人造世界樹の一種と推測」
ノノンは先ほどと同じことを言った。するとタコ坊主はうむりとうなずいた。どうやら教会側もそのような判定をしたようだ。そして預言の石版がローター帝国首都の中央広場に置かれていたということは、ここの古代の世界樹はとっくに枯れているのだろう。まあ古代というくらいだし。それならばダンジョンができているはずだが、どうやら太古の記録の記述には残されているようだが、ダンジョンがあったという記録はぷつりと途絶えているらしい。
まあ身近にあると意外とそんなものなのかもしれない。私の実家のオルビリア宮殿の地下にもダンジョンはあるけど、みんな気にせず生活してたし。
とりあえずは、なんだかんだで私はイベントミッション達成していたようだ。人工世界樹とされる預言の石版の復活。トゲトゲから早速キラキラ精体を放出させていた。それは次第に薄まり、この地の魔力は復活するであろう。
完。
「では、次は預言の石版の起源の調査に東へ同行――」
「いやです」
ぷいっ。私はご飯が美味しいところじゃないと行きたくないのだ。
でもトルコの飯は美味しいとも聞いたことがあるな。いやしかし。騙されるな。先ほど東方は戦争状態と聞いたばかりだ。
しかしここでタコ坊主の後ろからいかにもなロリ司教様な姿の美少女が現れた。薄い水色髪で白い瞳の女の子。その瞳の焦点は私を見ているようで定まっていない。盲目だろうか。私は一目見て感づいた。彼女もまた、月の女神の因子を持つ精霊であろう。
タコ坊主がささっと後ろに控えたことからして、タコ坊主より偉いロリっ子なのだろう。彼女の美少女オーラは尋常ではない。メインヒロイン以上の人気投票を勝ち取るような気配を感じる。ぶるり。
しかし私は騙されない。どうせ中身は変態でぐーたらなんだ。精霊シリーズは私を除いて全員変人であった。清楚に見える彼女も間違いないだろう。
「あなたが預言者ですね」
彼女の凛とした声が部屋に響く。声に魔力が乗っているのだろうか。私はこくりとうなずかされた。
「確かに。光の精霊の気配を感じます」
光の精霊? 誰が? 私は後ろを向いた。しかしそこには誰もいない。脳内でじゃーんと「ロアーネです」と両手を掲げた光が現れた。私は蓋をぱたりと閉じた。続けて?
「新しい預言者。あなたは人類をどこへ導くおつもりでしょうか」
どこかへ導くことは確定なのだろうか。
「そうだな……月へ」
冷戦と呼ばれる時代。人類は月へ向かうことによって戦っていた。ムーンレース。それは冒険を失った人類の新たな挑戦の始まり。
「月へ……ですか」
「せっかくだから」
この世界の科学技術は止まっている。しかし魔法技術が発達すれば、チキューのように宇宙を目指すこともできるのではないだろうか。そしてその中核を成すのは私ではない。私はパトロンでいい。そしてついでにロケットに乗る。
「女神の座を目指す、と」
そうは言ってないのじゃが。
ロリ大司教様は私の側へ近づいた。怒った? 怒ってる? 竜姫とノノンはあわわわとしながらカキフライにむしゃぶりついていた。
ロリ大司教様は私のカキフライの刺さったフォークを持つ手を掴んだ。
「なんて面白いのでしょう!」
ロリ大司教様は目を輝かせた。
とりあえず、カキフライ食べる? 私はカキフライを差し出してあーんさせた。ロリ大司教様はぱくりと食べた。
「あふぅひ! はふっ!」
ばかめ。引っかかったな! 本性を出せ!
ロリ大司教様は両手で口を抑えて涙目になって腰を振って足をぱたぱたさせた。
ふむ……。なんだか普通にかわいいな?
私はよちよちしながらお水を飲ませた。




