149話:ロアーネの罠
聖なる泉の側のウニ助の木。世界樹の精霊さんがウニ助に宿っていたので、世界樹なのだろう。しかしいったい誰が植えたのか。それとも勝手にウニ助が埋まって木になったのか。
「アナが植えたよ?」
犯人はすぐに見つかった。やはりフリーダム幼女のシリアナだったか。知ってた。
こっそり泉に遊びに来てウニ助を植えたらしい。まあ、
勝手に埋まったみたいだけど。
全く何してんのウニ助。
私が尋ねると、『なうなうー』と思念を送りながらまだ細い枝葉をわさわさと揺らした。わからん。まあウニ助がいいならそれでいいか。大きく育てよ。
「うにぬんがんも、ここがいいの?」
ノノンがウニ助の木に手を当てて尋ねた。
ウニヌンガンモ? なんか聞いたことあるぞ。なんか世界蛇ってやつだろ。そうかお前世界ウニだったのか。世界ウニってなんだよ。
そんなウニ助の木の前でリルフィはぼーっと立ち尽くしていた。何か受信した?
私がお尻をもみもみしても反応がない。そしてノノンの手が私に重なり邪魔をしてきた。ノノンの手が私の手の甲をつねる。いたい。こいつめ。私は髪の毛をノノンの手に絡みつけた。するとノノンが私の足元に黒穴の魔法を使い、私の下半身がすぽっと地面に埋まった。しかしそれで勝ったと思うなよ。私はウニ助にすでに命令をしていた。ノノンの頭の上にウニ助が落下する。ノノンの頭にウニ助が刺さる。ぷにん。しかしウニ助の棘はぷにぷになのであった。
「ねえさま。ねえさまも声が聞こえましたか? なんで埋まってるの?」
こいつがやった。ぴえん。
私はリルフィの手を掴んで地面から抜けた。しゅぽん。すると空いた穴に今度は自らシリアナが飛び込んだ。ずぽっ。
「世界の危機が北から訪れるって何の事でしょうか……」
ふむ。私には『むにむにー』としか聴こえないぞ。リルフィの頭が心配になる。いや、リルフィが電波系なはずがない。属性が混乱しすぎるからな。すると私が『ももももー』としか聴こえないのが悪いのか。どうやら私はウニ助の周波数帯のバンドに対応していないらしい。
「北から危機が……なるほどね」
「わかったのですか? さすがは姉さまです!」
えへへ。ほめろほめろ。
キタからの危機。簡単なことだ。今その元凶が隣に立っておるからな。ノノンお前だ! 何をした!?
ノノンは頭にウニ助を乗せたまま、くるりと私に背中を向けた。
「それはまだ言えない。時が来たら貴女は気が付く……」
それっぽいこと言って、ノノンは地面に黒穴を開けてワープで去ろうとした。穴からシリアナが飛び出して、二人は頭をごつんこした。頭を抱えて二人はうずくまる。おろおろ。頭のウニ助がクッションになり、ダメージは少なかったようだ。
「気が付かないほうが、幸せでいられるかもしれない……」
明らかにテイク2なのに予定調和だった風にごまかすな。しかしこれで邪魔者は去った。これで再びリルフィを独り占めできる。
家に帰り、私はノノンのセリフの意味を知る。知ってしまった。何ということだ。私は怒りに震える。髪の毛が文字通り逆立ち怒髪天だ。どどどどど。
「私のおやつのプリンが無くなってるのじゃが!?」
ぷちんぐー!
部屋に戻るとノノンはソファに寝転がりながら、プリンの最後の一口をスプーンに乗せているところであった。ノノンは「あ、やべ」といった感じで、黒穴を作って逃げ込もうとした。
「まだおったんかいワレぇ!」
私はノノンの身体に髪の毛を巻きつける。間一髪で私もノノン穴が閉じる前に飛び込むことができた。闇の空間で私とノノンは、額を押し付け合う距離で対峙する。髪の毛が絡まった。
「はなれろー」
「引っ張るな! あたたたっ!」
このままもみくちゃになるとお互いハゲ系美少女になりかねないので一時休戦。リルフィとは髪の毛絡まないのに、やはりこいつとは相性が悪いようだ。
そろそろ決着を付ける時なのかもしれない。
「とれない」
「外に出て助けを求めよう」
しゅぽんと穴から出て部屋に戻り、ルアとソルティアを呼ぶ。絡まりを解かせて小一時間。私たちはロアーネの悪口に花を咲かせた。どうやらノノンもロアーネに付きまとわれていた頃があるようだ。
「ロアーネは小言多い。教会に閉じ込めると良し」
「それな」
きゃっきゃきゃっきゃ。
「ふうっ。解けましたよっ!」
「こんがらがってるとこは少しだけ切らせてもらいましたわ」
なんだと? こいつのせいで私の髪が!?
「にゅにゅ姫さまの髪は精霊が抵抗して刃が通らなかったので、黒ちゃんの方の髪を切りました」
それならいいや。
それを聞いたノノンは口をむぅと尖らせた。
「決着つける」
「おう! どこからでもかかってこいやぁ!」
私とノノンがバチバチと魔力で身体を光らせると、ルアとソルティアにぺちんと叩かれて「喧嘩はお外でしてくださいっ」と叱られてしまった。
裏庭に出て仕切り直しである。
「貴女とはいつか戦うことになると思っていた」
「ぷちんぐの恨み、ここに晴らす!」
「ふ。ぷちんぐ……あれは美味だった。もっとちょうだい」
強欲なやつめ! カスタードプリンは高級品なので、私でもやすやすと食べることのできないおやつなのだ!
やはりこいつはここで倒しておくべき相手だ。
「ノノンが勝ったら、追加ぷちんぐ」
「ぷちんぐはもう失われた! それがわからんのか!」
ノノンの周りに黒い魔力の渦が起こり、私の周りには虹色の魔力の渦が起こる。お互いの魔力がぶつかり、魔力の奔流が天まで届く白い柱と成る。
「ちょっと待って。ここなんかおかしい。ロアーネの臭いがする」
「巨大ポアポアになったロアーネがしばらくここに鎮座してたからね」
なるほど。なんかちょっと力を込めようとしただけでこんな全力状態になったのはあいつのせいか。ちょっと場所変えようか。
「一旦止めよう」
「だめ。とまらない」
本当だ。魔力の渦を作り出しているのではなく、いつのまにか私はそれに流されないように踏ん張っていた。流された。次いで、ノノンも流された。
「ぬぁああああ」
「にょわあああ」
渦から弾かれて私たちは光の柱でごっつんこした。そして深く地面の中に呑み込まれていく。
「ノノン! なんかした!?」
「ちがう。これはあの男の――」
また意味深な……ってそんな余裕は私たちにはなかった。魔力の蟻地獄のように地中に引き込まれる私たちは絡み合いながら、んにんにと抵抗する。しかしついに水洗トイレのようにしゅぽんと流されてしまった。
そして、地中に呑み込まれた私たちは急な浮遊感に襲われて、宙から落下しどてんべちんと床に落ちてお尻を痛めた。幼女のぷにぷにヒップじゃなければ大ダメージを受けていたところだ。……それはあまり関係なく、地面が白くて発光するふわふわもこもこのおかげであったようだ。なにこれ。ポアポア?
「ここは……」
「ダンジョン」
私がありきたりなセリフで辺りを見回すと、ノノンはすぐに答えを返した。結論が早い。早すぎるよ。
しかしダンジョンってこんなキッズコーナーの遊び場みたいなメルヘンな場所だったのか。
「なんでわかるの?」
「ロアーネ臭がきつい」
そんな加齢臭みたいに言わないでやってくれ。あれでも乙女なんだから。
しかしそうか。何か見覚えがあると思ったら、巨大ポアーネの中みたいなんだここ。足元がもこんもこんして立ち上がれない
「そして悪意を感じる」
「なるほどわかった」
そうかそういうことか。ついに美少女の皮が剥がれ馬脚を露わしたなロアーネよ。ここ一年以上大人しくしていると思ったら、虎視眈々と私を罠にはめる機会を伺っていたわけだな。
「仕方ない。こうなったからには協力して脱出しよう」
「まって。すぐにはうごけない」
なに? 怪我をしたのか?
私がノノンの様子を見ようと振り返ろうとしたら、髪の毛をぐいと引っ張られた。にゃにをする!?
「また、からまってる」
「なん……じゃと……?」
また私のキラキラ虹色ふわふわつるつるロングヘアと、ノノンの黒髪しっとりロングヘアがごっちゃあとなっていた。
ノノンお前、ショートカットにならないか?
次章へ続く――




