第84話 青春スタート!!!
さわさわと心地いい風が通り抜けていく
そして、その風にあおられて桜の花びらが空を舞う
周りには感激している人、胴上げをしている賑やかなグループ、卒業証書を大事そうに抱えて通った学園を名残惜しそうに見つめる人、これからどこに行こうかと楽しそうな人達。
様々な人達がいる中、俺は1人の女の子を校門の近くで待っていた
「こっちだよ」
煙草の煙をふーっと空に向かって吹こうとしていると後ろから声が聞こえる
今時の可愛い振袖に綺麗にセットされた髪型。
昔のような身体の弱いイメージなんて微塵も無い。普通の元気いっぱいの今時の女の子が俺の方を少し睨む
「たばこ。身体に悪いよ。智ちゃん」
「吸ってみる?姫」
「いらない。それより早く消して。匂いが付いちゃうから」
「はいはい」
携帯している灰皿の中に煙草を消して入れる
そろそろ煙草は止めようか…高いし、何より姫に嫌われそうだ
「…何?」
「いんや、それよりどこ行く?今日は有給取ったから1日空いてるよ」
「どこでも良い。それよりもまず家で着替えたいかな」
「りょーかい。んじゃ一旦帰ろうか」
近くの駐車場まで歩いていく途中、色んな所から名前を呼ばれて「お元気で~」と名残惜しそうな声で見送られていく
それほど人気があるということなんだろうか…というか、男から多いな…
「モテモテだね」
「まぁね」
「否定しない?」
「しない」
無表情で淡々と車の方へと歩いていく女の子はドアのカギを解除しろと言わんばかりにこっちを睨んでくる
昔から何かと難しい子だったけど、今も変わらないらしい。
俺が高校を卒業してから大学に入って、大学も卒業する数年間の間に医学も進歩した。
姫の体調の激しい波はかなり改善され、日常生活に支障がないレベルまで来ている。
そして、身体の方も幼児体型から少しずつではあるが女性らしい身体付きになっていってる…ような気がする
「智ちゃん」
「ん?」
「なんか分からないけどパンチしていい?」
「そ、それは勘弁してほしいかな?」
「…わかった」
こんな感じに健康的になった分暴力的な部分も強化されているけど、それもまた可愛い部分として認識している。
姫の家に着くと、さっさと車を降りてマンションの階段をカンカンとリズムの良い音を奏でながら上がっていく
俺もその後ろを付いて行き、綺麗に片づけられた姫の部屋の中に入る
「絶対こっち入ってこないでよ」
「はいはい」
覗きでもしたら殺されかねない
素直に床に座り、近くに落ちていた雑誌を手に取る
女性雑誌ってのはあまり見る機会がない分、あまり興味は無いんだけどこういう暇つぶしには良い
何ページか捲っていると、占い特集と言うページのある部分に黄色いペンで線が書かれていた
「占い?」
黄色いペンで線がされていた部分は姫の生まれた年の生まれた月の所だ
「なになに?今年のあなたの運勢は、絶好調です。色んなものから解放される月でとても良い出来事があるでしょう。もしかすると思っている人から何かプレゼントがあるかも!?。ラッキーカラーは…ホワイトねぇ…姫もこんなの気にするんだ…。あ、男のもある」
女性雑誌で男の占いがあるのは不思議でしかたないが、自分の生まれた年を探していく
「え~っと……あった。俺の今月の運勢は……うわっ。あなたの運勢は最悪です…昔から隠してきたものがバレてしまうかも。いっそのこと新しい自分になるために思っている事をぶち明けてみては?…って言われてもなぁ…ラッキーカラーはブルーねぇ…」
占いは信じない性質だけど、こうして読んでみると信じなくても何か不安になってしまう…
そもそも、同じ年の同じ月に何人産まれているのかも知らないのによく占うことができるもんだ。まぁ女の子はこういうの好きだから良いんだろうけど………それにしても、隠してきたものがバレてしまうってのは気になる…
自分の今月の占いの結果を読んでいると姫の入っていった襖が開く
すると、白のトレンチコートを着た姫が出てくる。
「あ!?」
「ん?あ~これ?姫もこういうの気にする女の子になったんだね」
「っ!?」
「うぉっ!!」
パフっとクッションが俺の顔面を捉える
そして、手に持っていた雑誌を素早く奪われると恐ろしい目で睨んできた
「べ、別に良いでしょ!智ちゃんには何にも関係ないんだから!」
「別にそんな照れなくても…うちの会社の女の子達も普通にそんなの読んでるし」
「う、うるさい!!智ちゃんが見るものじゃない!」
顔を真っ赤にして雑誌を本棚に仕舞う
そんなに見られたくないものなんだろうか…姫はブツブツと「バカ」とか「アホ」とか俺の事を言ってくる。
「そんなに言われると結構傷付くんだけど…」
「う、うるさい!」
「………はぁ」
落ち込んだような顔をしながらため息を付いて、姫の視線から逃げるように身体の向きを変えTVの電源を付ける
そして、しばらく姫に背中を向けながらTVを見ているとコソコソと姫が横に座った
「………」
「………と、智ちゃん?」
「…はぁ」
「…ご、ごめんね?そ、その…私、そんな気で言ったんじゃなくて…その…」
モジモジと恥ずかしそうにチラチラと俺を見ては何か言いかけて、開けた口を閉じる
そして、目を潤ませる
これ以上はちょっと可哀そうかもしれない…
「そ、その…ゴメン…私、智ちゃんのこと」
「姫」
「な、なに?」
ビクビクとこれから怒られるかのような顔で俺の方を見てくる
やっぱり大きくなっても姫は姫だ
「姫はほんと可愛いね」
「っ!?」
ボンッっと音が出るように顔が更に赤くなる
そして、キュッと何かを狩るかのような目で俺を睨んできた
「な、な、何言ってんの!!」
姫のワンツーパンチが飛んでくるけど、それをうまく避け、飛んできた手を掴む
これで形勢逆転
姫は悔しそうな顔をしながら睨んでくる。そして、まさかの頭突きという行動をしでかした
「ってぇ!!!」
「きゃっ!」
思いっきり頭突きをされた反動で後ろに倒れる
俺は姫の両手を持ったまま倒れたため、姫も引っ張れるように俺の胸の上へ倒れてきた
予想外の頭突きでものすごく痛い。しかし、目を開けると窓から真っ青な綺麗な春の空が見える
その青さは俺の何かを動かした
「…姫、好きだよ」
無意識に口にした言葉。
でも、恥ずかしさなんて微塵も無い。むしろ、どこかスッキリしている
胸の上にいる姫の顔を見ると目を大きく見開いて、固まっていた
もしかして聞こえなかったんだろうか?
「俺は姫の事が好きだよ」
「……な、な、な、な、」
見る見る顔が赤くなっていく
口をパクパクと開けたり閉めたりしている姫を見ていると心から落ち付く。
それに、今までこんなにスッキリした気持ちは無い
しばらく姫の口パクパクを見ていると、姫は深呼吸をした
「ふぅ…はぁ……ふぅ…はぁぁ……智ちゃん、言うの遅い!何年待ってたと思ってるのさ!!」
顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに俺を睨む
しかし、さっきみたいな睨みじゃない。照れ隠し?嬉し隠し?のような睨みだ
「っぷ。ほんとだ。待たせてごめんな、姫」
「はぁぁ…いいよ、別に。…ぃってくれたんだから」
「ん?なんて?」
「な、何でも無い!!それより早く行くよ!せっかく1日空いてるんだから!」
さっさと俺の上から逃げるように立ち上がると再び襖の向こうへと消えていく
やっと分かった…あの時佐藤さんが言っていたスッキリした気持ちが。
俺は窓から見える春の青い空を見ながら、ある人に“今度姫と一緒にそっちに帰ります”とメールを送るとすぐに返事が帰ってきた
-これから智ちゃんとお姫の青春スタートね-




