第71話 可愛い恋人。
今回は隼人視点です。
「はやとせんせー」
「ん?何かな?」
「せんせー、わたしのかれしになってー」
「こんな可愛い子に告白されるなんて俺って凄い幸せだなぁ」
「えへへ~」
こんなに小さい子たちが可愛いとは思わなかった
自分がこの頃には地獄でしかなかったから、こういう幸せそうな子たちを見るとムカついていた昔の自分が嘘みたいだ
告白してきた女の子 美緒ちゃんの頭を撫でながら良い笑顔の写真を撮る
すると周りにいた女の子達が「わたしも~」と言って次々に女の子たちを撮っていく
どのぐらいの時間が過ぎたんだろう?
色んな子たちの楽しく遊んでいる姿を撮っていると男の子達の姿が見当たらない
「あれ?男の子達がいないね」
「はやとせんせーもっととってー」
「あはは、もうダメ。これ以上撮ったら美緒ちゃんの魅力で俺死んじゃいそうだから」
「もーうそだー」
可愛い笑顔で笑ってくれるから撮り甲斐があるけど、美緒ちゃんばっかり撮るのもアレだし…
周りの女の子達をワイワイしながら教室の方へと向かっていると、部屋の中が盛り上がっている
「きーすきーすきーす」
今時の子たちは結構大人らしい
というか、この状況は何だろうか?
智が背中を擦りながらリーダー格の俊樹君に笑われていて、鞠乃ちゃんがピアノの椅子をしんどそうに持ちあげて智に投げつけようか、という勢いで睨み、それをショートカットの女の子が止めている
「絶対殺す!!!」
「ちょ、ちょっと鞠乃ちゃん。落ち着いて」
「うるさい!!!」
鞠乃ちゃんってこんな子だっけか…
ものすごい剣幕で俺を睨むとすぐに智への方へと目を向ける
俺の中の鞠乃ちゃん像はいつもツンツンしながらも智には甘えちゃう感じのイメージがあるのに今の鞠乃ちゃんは誰からみても殺気が籠ってるのが分かる
とりあえず俺は智の近くでバカみたいに笑っている俊樹くんを智から離れさせるべきだろう
「お、おい…隼人、なんで俺を助けないんだよ」
「智より園児の安全だろ。ここは」
「俺の安全も考えろよ…」
智が睨んでくるけどここは無視するのが良い
俺は俊樹くんに外で一緒に遊ぼうと誘い、部屋の中から出す
おそらくこの子が変なことを言って、智が冗談で鞠乃ちゃんに何か言ったんだろう
たぶん、好きだとか愛してるとかそういうことを。
「はやとードッヂしようぜー」
「いいよ。んじゃ俺の味方の子この指とまれ~」
しゃがんで人差し指を立てる
すると周りに居た女の子たちが一斉に指を掴み始めた
俊樹くんはその風景を「ふ、ふんだ!ないてもしらねぇからな!」とボールを美緒ちゃんへ投げる
だけど所詮、園児の玉だ
「きゃっ」
「おっと。危ない」
「はやとせんせーありがとー」
「いいえ~。可愛い顔に傷付いたら大変だもんね」
「はやとー!えんじあいてになにナンパしてんだ!」
「園児は園児でもガールだよ。俊樹くん」
「へん!どブスのなにがいいんだよ!」
俊樹君は最初に狙った美緒ちゃんに対して「ブス」とか「バカ」とか散々言い始める
すると、最初は耐えていた美緒ちゃんも言われ続けてどんどん目に涙をため始めた
「ぅ…ぅぅ…」
「な、なんだよ!なけばいいとおもってんのかよ!」
「ぅぅ…はやとせんせぇ~」
「あぁ…大丈夫大丈夫。美緒ちゃんはもう可愛い可愛いから」
ついにダムが決壊したかのように俺に抱きついたと思うと涙が流れ始め、大きな声で泣き始める
美緒ちゃんを抱き上げて背中をポンポンと叩いてあやすが中々泣きやんではくれない
そして、俊樹くんは急に大人しくなったかと思うと「ふ、ふんだ!!!」と言って砂場の方へと走って行った
もしかして、いや、もしかしなくても俊樹くんは嫉妬したんだろうな…
少し悪いことをしたなぁと思いながら美緒ちゃんの頭を撫でながら俊樹くんの後を追っていく
「美緒ちゃん、大丈夫だよ。本当は俊樹君も美緒ちゃんの魅力にメロメロなんだから」
「ひっく…だ、だって…としきくん、わたしのこといっぱいわるぐちいったし…」
「照れ隠しだよ、美緒ちゃんが可愛くないわけないじゃんか。ね」
俊樹君は俺たちが近づいてくるのを感じると逃げるように走っていく
それを俺たちは追って行くとついに端っこの方まで追い詰めてしまった
「な、なんだよ!!お、おこるのかよ!」
「いや怒らないけど謝ろうな?」
「やだね!!ほんとのこといってなにがわるいんだよ!」
「うぅぅ」
「大丈夫大丈夫、俊樹くんは美緒ちゃんのこと好きだから俺とこうやってイチャイチャしてるのが気に食わないんだよ」
「ち、ちがう!」
「ほら、動揺してる。ほら、美緒ちゃんも俊樹くんも仲直りしよう」
美緒ちゃんを下して笑顔を見せると美緒ちゃんは少し不安そうな顔をしながらも覚悟を決めたのかニコッと笑って俊樹くんの方へと歩いていく
一方、俊樹君は美緒ちゃんに何をビビっているのか分からないが後退りしていく
しかし、すでに端っこまで追い詰められていて後退りも数歩で終わってしまった
「としきくん、わたしのことすきなの?」
「っ!?」
思わず噴きそうになってしまった
まだ両手で数えられるぐらいの歳なのに女の子っていうのは凄いもんだ…こうやって男を追い詰める方法をすでに知っているんだから
俊樹くんは顔を真っ赤にしながら「く、くるなよ!」とまだ抵抗しようとする
しかし、美緒ちゃんには通じないみたいで美緒ちゃんは着実に俊樹君との差を詰めると最後には笑顔で俊樹君の手を取った
「すき?」
「う…う…う…」
「すき?」
「う、う、わ、わかったよ!すきだよ!」
なんという場面に遭遇してしまったんだろう…
俺はこの瞬間を見逃さないように写真を撮っていく
もちろん俊樹君はカメラを向けられていることは分かるはずもない。すぐ目の前に自分の好きな子が嬉しそうに笑っているんだから
美緒ちゃんは俊樹くんの返事を聞くと俺には見せなかったような保育園児とは思えないような幸せそうな顔で笑い、俊樹君の頬にキスをした
「な、な、な、なにすんだよ!!!」
「わたしもすきだよ」
「う、うぅ……」
俊樹くんの完全敗北。
美緒ちゃんは「えへへ~」と笑って俊樹くんと手を繋いで俺の所へ戻ってくる
俊樹君はもう脱力状態だけど、一応着いてきた
「はやとせんせー、かれしできたー」
「おぉーおめでとう。美緒ちゃん、カッコいい彼氏だね」
「うん!!」
「それじゃ、ツーショット写真撮ってあげるよ」
「うん!」
すでに手綱を握られた俊樹君に拒否権はない
美緒ちゃんは俊樹君とピッタリくっつき、満面の笑顔でカメラに向かって微笑んだ




