第70話 悪魔と天使と
「とりゃっ!」
「いてぇ!俊樹!まて!」
「うわぁーともきがおってきたー」
とある中間テストの点数が帰ってきた日から数日後。
俺は何故か5つ隣町の保育園の中で小さな幼児相手に虐待を受けていた
それも1人だけじゃない。高校生の俺1人に対して10人近くの生意気なガキんちょが一斉に迫ってくる
「あはははは、ともきばーか!」
「ばーか!」
「ばーかーともーきー」
「大人相手にその口答え、後悔させてやる!おりゃ!」
「あは、あはははははははは。や、やめ、やめろよ!!!」
このガキんちょ集団でリーダ-格の俊樹をとっ捕まえて、脇をこそばす
そして、そんな風景を隼人は楽しそうに写真を取っていた
なぜ俺と隼人がこんな保育園にいるかと言うと最初の出来事は昨日のことだ
昨日、家で晩御飯を済ませ、お風呂も済ませてリビングで隼人とゲームをしていると家のインターホンが鳴った。鳴らしたのは早苗さんで、嬉しそうに家の中に入ったかと思うと手を胸の前に合わせながら「智ちゃんに隼人君、明日時間ない?私の知り合いが働いてる保育園で子供たちの写真を撮りたいってお願いされたんだけど、私カメラとかよく分からないの。だから隼人くんにお願いしたいんだけど…」と言った
どうして俺も入れられているのかと思ったが簡単なことだった
「まーりーのーせんせー。この本読んでー」
「うん、いいよ。むかし、むかしある所に…」
姫のためだ
なぜ姫がこんな所にいるかというとアルバイト。
早苗さんが言うには中間テスト5教科のうち、3つの教科を満点取った時に、姫に好きなことを1つさせると約束したらしい。
しかし、俺たちの通っている高城学園の中間テストの難しさは随一だ。
平均点が40点なんてことも普通にある上に、最高点が60点しかないってこともある
なぜ中間テストを難しくするのかと言うと中間テストで最悪の点数を取らせ、期末テストを必死で頑張らせるためだ。早苗さんはそれを分かっていて約束したのだが、姫の頭脳は早苗さんの予想を超えていた。
姫の中間テストは5教科合わせて486点。国語・英語・理科・地理歴史の4教科満点。数学で86点。
数学は高1では習わない範囲を毎年出されていて、なおかつ問題数が半端なく多い。だからなのか、数学は例年平均点が40台をマークしている。
それで86点なんて過去最高点数だろう
早苗さんは思いもよらない点数を出した姫に呆れてしまい、体調が良い日にこの保育園でアルバイトをさせることを約束した。
そして、そのアルバイトをする日が今日なのだ。
もちろん、姫の体調が良いとはいえ、子供相手に運動なんてできない。だから俺がその運動大好きなガキんちょの相手をする。
そして、隼人はその姿の写真を取るという役割分担が綺麗に出来上がっていた
でも…俺の役割が凄くしんどい…
「はぁ…はぁ…はぁ…も~無理…」
「ともきー。はやくドッヂしようぜー」
「勘弁してくれ…鬼ごっこやってサッカーやって2回目の鬼ごっこだぞ…」
「ばかともきー、はやくうごけよ」
「あぁ~もう…少し休ませて…」
もう喉がからからだ…
保母さんはニコニコしながら俺たちの方を見ていて、事務的な仕事が進んで嬉しそうだ
隼人も元気のいい可愛い女の子達を連れながら写真を撮っていく
もし、あそこに千鶴がいたらどうなるんだろう…
「ともきー、おにだぞー」
「あ~…はいはい、疲れたから休憩中って言ってるだろ」
「なんだよぉー、それじゃあっちのおねえちゃんに頼むもんね!おねーちゃーん」
「お、ちょ!お前待てって」
俊樹は靴をポイッと脱ぎ、部屋の中で本を読んでいる姫の所へ走っていく
そして、姫の手を取ると「いくぞー」と言って引っ張り始めた
「い、いたいって」
「本なんておもしろくないんだから、そとであそぼうぜ」
「わ、私はちょっと運動しちゃ」
「こらっ、嫌がってんのに無理やりするとか女の子に嫌われんぞ」
手を引っ張っている俊樹を持ちあげて姫から離す
「はなせよーともきー」
「先生が言ってただろ。この人はお前みたいなガキんちょの相手はしないって」
「なんだよー、おれのことバカっていいたいのか」
「俺と鞠乃よりはな。ほら、鬼ごっこするんだろ、行くぞ」
俊樹を抱っこしながら部屋の外へと運ぼうとすると俊樹は大きな声で叫んだ
「わかった!!!ともき、このおねーちゃんのことすきだろ!おれにとられるのがいやだからつれていこうとするんだ!」
俊樹のこの発言で周りの子たちは「そーだそーだ」と同調し始める
外で遊んでいた子も中に入ってきて、何も分からずに「きーす!きーす!」と盛り上げ始めた
もちろん俊樹はしてやったと言ったドヤ顔をしながら俺を見てくる
「はぁぁ……俊樹、違うぞ」
「てれんな、ともき」
「好きなんじゃない」
「…ともちゃ」
「愛してんの。な、ひ…ってあぶなっ!?」
ニコニコしながら姫に言うと殺気の籠もった本が数冊飛んでくる
俺は抱っこしている俊樹を本から当たらないようにする
すると本は俺の背中にすべて当たり、1冊だけ角が思いっきり当たった
「ってぇ!!」
「ぶっ殺す!」
「ま、まりのせんせー、お兄ちゃん死んじゃう!」
1人の女の子が姫を止めに入ったみたいだ
俺は痛む背中を擦りながら姫の方を見るとピアノの椅子を持ってこっちに投げようとしている
確かにあれは当たり所が悪ければ死にそうだ…
姫を止めてくれた女の子が天使に見えてきた
そして、人が身体に傷を負ってまで庇ってやった俊樹は俺から這い出た途端、笑い出した
「あはははは、ともきふられてやんのー」
こいつは悪魔か…
俺は痛む背中を擦りながらそう思った




