第68話 イベント行事。
「それじゃ1年生は勉強の事でも学校の事でもなんでも構わないからそこにいる3年生に聞きたいことを聞くように。3年は出来る限り答えろ。特に勉強関係はちゃんと教えろよ。以上」
少し大きめの会議室のような所で俺たちは椅子に座りながら向かい側にいる1年生達を見る
今回はこの時期にやる恒例行事の日だ
先生がさっき言ったように「3年生は1年生の質問になんでも答える」という行事。
目的は特に無いがとりあえず1年生が早く学校になれるようにするためだ。
先生は簡単に1年相手に説明していて俺たちはその風景を見る
1年生の列の端っこの方には姫がキツめの顔をしながら立っていて、見るからに不機嫌オーラが出ていた
「なぁなぁ、智樹」
大きな欠伸をしている時に横にいる宗太が肘で俺の横腹をつついてくる
宗太は何が嬉しいのか分からないがニコニコしながらこっちを見ていて姫の方に指を指した
「あの子、超可愛くない?俺のところ聞きに来ないかなぁ」
「あ~…勉強関係でもいいのか?」
「そりゃあの子が聞きにくるなら答えるぞ。所詮1年の問題だしな」
「ふ~ん…まぁ近くに来ると良いな」
宗太に姫が聞いてくる問題が答えれるんだろうか…
この前、俺が姫の家で勉強していると俺の間違いを指摘してきて解き方まで教えてくれた姫なのに…
横でニコニコしながら待つ宗太を横に俺は椅子を浅く座り、少しリラックスする
「それじゃ始まるぞ。開始」
先生がそう言って部屋を出たと同時に1年生達は知りあって間もない友達とコソコソ話しながら誰に質問しにいくかを相談し出した
俺たちの時もこんな感じで最初の方は進まなかった。誰か1人でも質問しにいけばゾロゾロと来るんだけど…
「なぁ智樹、俺あの子に話かけてくるよ」
「止めておいた方がいいと思うぞ?」
「なんで?」
「…目が殺気立ってる」
「バカなこと言うなよ。あんな可愛い子がそんな訳ないだろ。あ、こっち見てる」
さすがバカと言うべきなんだろうか…
明らかにこっちを見てきてはいるけどその視線がものすごく痛い
姫の周りの友達も少し距離を取っているぐらいだから近くによれば相当不機嫌オーラを放っているだろう
宗太はそんなことも気付かずに席を立ち姫の所へと歩いていく
すると、1年生が少しざわつく
「あ~ぁ…」
思わず声に出してしまった…
宗太は楽しそうに姫に話かけるが、姫に一発で黙らせられた
今の姫はとにかく機嫌が悪い。つまりツン100%だ。だから言葉に容赦がない
姫はうなだれる宗太を退かせ、俺の所へと向かってきた
「ごきげんよう」
「保健室、行きたいんだけど」
「案内するから付いてきて」
席を立って近くにいるクラスメイトに「この子体調悪いみたいだから保健室連れてくるよ」と言って部屋を出る
「おんぶしてあげよっか?」
「いらない」
「今の時間帯は誰もいないから安心していいよ」
「歩く」
「はぁぁ~…無理しなくてもいいのに」
姫がここまで不機嫌な理由は1つしかない
体調がかなり悪いときだ。自分の体調を周りに気付かせないために不機嫌オーラを出す
友達に心配されるのが嫌だから。
俺と姫は一緒に早苗さんのいる保健室へと向かう
「智ちゃん、まだ」
「もう少し。しんどいならおんぶするけど?」
「いい」
顔が赤いし、呼吸も早く浅い
たぶん入学疲れが今、来たんだろう
俺と姫は保健室の前に立ち、ドアをノックする
しかし、中から声がしない
「姫、ちょっと待てる?」
「…うん」
「んじゃちょっとこれ着て待ってて」
ブレザーを姫に着させて走って職員室へと走る
これほど保健室と職員室が離れているのは問題があるんじゃないか?ってことを今更思ってしまった
少し息切れしながら職員室のドアを開け、早苗さんがいるかどうか近くの先生に聞くといないと返ってきた
「……保健室って開けてもらえたりします?」
「それは無理だな。勝手に入られて薬を飲まれても困るからな」
「ベッドで寝かせるだけなんですけど…」
「元気そうじゃないか。君」
「いや………すみません。失礼します」
あの教師に言っても時間を食うだけだ
しょうがないけどあの手を使うしかない
俺は職員室を出て保健室へと走った




