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第65話 携帯電話。

 

 卒業生が校舎から出てくる頃には早苗さんはいつも通りに戻り、逆に俺を苛めるかのようにさっきの言葉をもう1度言ってほしいみたいな事を言ってくる

 もちろん、あんなことはもう言わないし、何度も言うもんじゃない。恥ずかしいから


 俺たちはしばらく卒業生が校舎から出てくるのを見ていると姫が出てくるのが見えた

 しかし、姫の周りには友達らしい子たちがたくさん居る


「姫って学校行ってない割には友達いますね」

「そうね。ちょっと寂しくなった?」

「どっちかって言うとビックリです。あんなツンツンしてるのに」

「あら?私たちだけよ?あんな甘えるのは」


 確かにあんな我が儘みたいな命令みたいな感じだと皆から嫌われるだけだ

 ちょっとだけ学校での姫が気になってしまう

 どんな姫がそこにいるんだろうか?


 そんな感じでじーっと姫の方を見ていると男の子に呼びとめられては頭を横に振って、また次の男の子にも同じことをして…の繰り返しをしている


「あれはなんですか?」

「たぶん…告白されてるんじゃないかしら?」

「…まぁ見た目は可愛いですもんね」

「中身は?」

「我が儘なお姫様ですね」

「それがまた可愛いのよね」


 親バカだ…

 姫は結局5人の男の子に話しかけられては横に振って、俺たちの所までやってきた


「ごめん」

「凄いな、姫。いっぱい告白されて」

「…別に」

「うふふ、それじゃ今日は智ちゃんのスペシャルな料理を期待しましょ。ね?お姫」

「スペシャルなって…俺そんなにメニュー持ってないですよ」


 俺の言うことなんて無視するかのように早苗さんは姫の手を取り、さっさと車の方へ歩いていく

 姫は姫でどうしてこんなに早苗さんがご機嫌なのか不思議で堪らないって顔をしながら俺の方を見てくる

 …やっぱり言うべきじゃなかったかもしれない、あんなにご機嫌になるとは思わなかった


 それからは俺スペシャル料理を作るためにデパートに行って食料を買う時もご機嫌な早苗さんに振りまわされ、作る時も振りまわされ、結局1日中、早苗さんのご機嫌度はMAX状態で俺と姫は振りまわされてしまった




「はぁ~…久しぶりにはしゃいだわ」

「ホントなんか今日は疲れました…」


 ソファで眠る姫に毛布を掛けてからオレンジジュースの入ったコップを取り飲む


「智ちゃんのあの言葉が効いたわね。嬉しくて仕方がないもの」

「そうですか」

「正直、今ここで智ちゃんを抱きたいわ」

「…そのエロい視線やめてもらってもいいですか」

「うふふ」


 やっぱりあまりこの人を褒めるべきじゃない…

 感謝はしてるけどこれからは態度で示そう。と思いながらジュースを飲む

 早苗さんは珍しくビールを飲みながら、袋をガサガサし出した


「そうそう、これ智ちゃんからお姫に渡してあげて」

「なんですか?これ」

「開けてもいいわよ」


 早苗さんから貰った箱を開けて中を見てみると携帯電話が1つ入っていた


「あれ?姫って携帯持ってなかったでした?」

「持ってないわよ。中学の頃に買ってあげるって言ってあげたんだけど、いらないって言って受け取ってくれなかったのよ」

「どうしてですか?」

「さぁ?たぶん携帯があったらメールしちゃうからじゃない?智ちゃんに」


ニヤニヤしながら言われても…

たぶん、学校を休むたびに心配するメールが減っていく可能性があるから怖かったんだろう

自分が皆から離れていくのを目に見えるのが怖いから



「お姫ももう高校生でしょ?今までは友達ともあまり付き合ったりしなかったけど高校生になったらそういうのしてほしいわけよ」

「それで…携帯ですか?」

「ええ。そのメルアドはもうだいぶ前に智ちゃんに渡したメルアドだから安心して」

「前って…あ~…あの2つ目のメルアドですか」

「ええ」


 そういえば貰ってから以降、何もメールしてこなかったからおかしいとは思ったけどこの日のためにわざわざ取っておいたのか…


「あと、高校に入ったら智ちゃんよろしくね、お姫のこと」

「それはまぁやりますよ」

「本当は受験生になる智ちゃんに負担かけたくないんだけど」

「別にいいですよ。指定校推薦狙いですから」

「あら?てっきり国立でも狙うのかと思ってたわ」

「そんな頭無いですって。というか、高城学園って指定校でも偏差値の高い大学とかあるんですよ。一流大学ってわけじゃないんですけど」

「でも指定校って難しいんじゃないの?私そういうの分からないけど」

「先生の話によると指定校推薦を進学組で狙う人は滅多にいないからイケるらしいです。内申とかあるけどそこらへんも維持さえできればいいので」

「へぇ~…智ちゃんもちゃんと考えてるのね」

「一応ですけどね。んじゃ俺もそろそろ寝ます」

「またお姫と一緒に?」

「んなわけないじゃないですか…ここのソファでですよ」

「私と一緒に寝る?」

「襲われるので嫌です。…ょぃっしょっと」


 ソファで寝ている姫を起こさないようにお姫様だっこしてそのまま姫の部屋へと入り、ベッドに寝かす

 あんな小さかった姫ももう高校生だと思うとどこか信じられないような気がする

 姫に布団を掛けてから机の上に早苗さんから渡された携帯と置手紙を置いて部屋を出た



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