第61話 絵の上手さ、下手さ。
授業をさぼれることはラッキーだったけど、こんなに暇だとは思わなかった…
5時間目が始まって20分
姫は文句を言いすぎて疲れたのか、それとも満腹になったからなのか分からないけど椅子の上でスゥスゥと寝息を立てている
できるだけ音を立てずにストーブの上にやかんを置いてお湯を作り、早苗さんの机の中にあるコーンスープの粉でコーンスープを作る
それにしても、最近姫の体調はかなり良いらしい
あれだけ元気にご飯も食べて、話せていれば高校生活も安心かもしれない
小・中学校と違って高校は出席も関係してくる。もちろん勉強もあるけど、その点は大丈夫だろう
もしかすると早苗さんは学校側に何らかの説明はしていると思うけど、さすがに授業も出ずに卒業は認められない。例え首席でも。
だから、今のような体調が続くことを願う限りだ
コーンスープを飲みながら姫の寝顔を見ていると早苗さんが忘れた携帯がピリリリと鳴った
「ん…んん…」
「あ、おはよう。姫」
「んん?…何飲んでるの?」
「コーンスープ。飲む?」
「…うん」
目を擦りながら大きな欠伸をする
せめて女の子なんだから大口を開けた欠伸は止めて欲しい…
「ほら、熱いから気を付けろよ」
「うん。あ…智ちゃん、水ある?」
「お茶は?」
「お水の方が良い」
「あぃよ」
姫は立ち上がってベッドの方に行き、ポーチみたいなのを持ってくる
そして、中から薬の入った箱を出し、馴れたように飲む
「それ飲むと調子いい?」
「うん」
「ふ~ん…何の薬?」
「さぁ?」
「さぁって…」
何の薬かも分からずに飲んでる姫がなんかカッコよく見えた
「嘘。鉄とかビタミンとかそういうのだよ」
「ふ~ん。鉄ってことは~…なんだろ?血とか?」
「勉強したの?」
「まぁちょっとはね」
「ふ~ん。鉄欠乏性貧血なんだけど」
「鉄欠?…ふ、ふ~ん…」
良く分からない単語がでた…
とにかく貧血気味なんだろう
「…智ちゃん、分かってる?」
「も、もちろん」
変な意地を張るモノじゃない
姫は大きくため息を吐いて、さっきの鉄欠なんとかってのを簡単に説明してくれる
要は血が出すぎちゃって必要な鉄が足りない状態らしい。鉄とかが無いと貧血気味になって息切れとか色々大変らしい
「へぇ~…それじゃこの鉄を舐めてればいいんじゃない?」
「智ちゃん、それ本気で言ってる?」
「…いや、冗談だけど」
「はぁ…」
姫はため息を吐いて、コーンスープを飲む
それにしても今日の姫は本当に調子が良いらしい。さっきまで人をバカにしていたと思うと、今度は楽しそうに鼻唄を歌いながら白い紙に絵を描いていく
「智ちゃん」
「ん?」
姫に呼ばれて顔を上げると姫がこっちをじーっと見てくる
改めて姫の顔を見るとやっぱり早苗さんに似ている
目つきとかなんてそっくりだ
「……今思ったんだけど、智ちゃんって二重だったんだね」
「は?」
何をじっと見ているかと思えばそんなことか…
姫は新しい発見をしたみたいに嬉しそうに紙に書いていく
そして、完成したのか俺に見せてきた
「はい、智ちゃん」
「これは……おれ?」
「そう。書いてあげたの感謝してよね」
「あ、ああ…ありがとう」
「…何?何か言いたそうな顔してる」
何か言いたいと言えば言いたい…でも言ったら姫は怒るに決まっているから無理やり笑顔でお礼を言った
それにしても、まさか姫がこんなに絵が下手だとは思わなかった…
俺は新しい姫の一面を見て驚きながら時間が過ぎていった




