第60話 お昼休み
お昼休み
弁当箱を持って、早苗さんのいる保健室へと向かう
廊下では食堂へと向かう生徒たちでいっぱいだ
その中、俺だけ弁当箱を持っているのは若干浮いてる感じがするけど、まぁ気にしない
少し離れた保健室のドアの前まで行ってノックをすると中から「どうぞ~」と言う声が聞こえた
「来ましたよ」
「あら、智ちゃん。いらっしゃい」
「弁当ここで食べてもいいですか?」
「ええ。いいわよ」
いつものストーブの近くのパイプ椅子に座って膝の上に弁当を広げる
「あら?智ちゃんのお弁当おいしそうね」
「普通ですよ」
「タコさんウインナー…可愛いわね~」
「暇だったんです」
「照れちゃって可愛い」
ニヤニヤしてる早苗さんがなんか嫌だ…
さっさと弁当を食べようと箸を進めているとベッドの方でガサガサと音がした
もしかして、誰か寝ている人でもいたんだろうか?
だとしたらうるさくしてしまったかもしれない
「寝てる人いるなら言ってくださいよ」
「別に大丈夫よ」
「迷惑かけたじゃないですか」
小さな声で早苗さんに言うとニコニコしてカバンの中から2つ弁当箱を取り出した
「お姫~、お昼よ」
「…は?」
早苗さんがベッドのある方に言うとカーテンがシャーと開く
すると、中学の制服を着た姫が眠たい目を擦りながら出てきた
「お姫、お昼よ」
「うん…ふぁぁぁぁ~…」
「なんで姫がここに…」
「ふぁぁぁ…あ、智ちゃん…おはよう」
「あ、うん。おはよう…」
まだ寝てるような目でこっちを見てきて早苗さんからお弁当を受け取ると俺の横にある椅子に座る
そして、辺りをキョロキョロと見回したかと思うと急に俺の方を向いた
「…な、なんで智ちゃんがここにいるの!!!」
「いや、それ俺が言いたい」
「お母さん!ここどこ!」
「高城学園よ」
「な、なんで…」
「今日はバレンタインでしょ?3人でご飯食べたいなぁて思ってね」
「いやいやいやいや、普通中学生をここに連れてこないでしょ」
「でも、智ちゃんもお姫と一緒に食べたいでしょ?」
なんかもう無理だって言えない…
早苗さんの目が「うん」と言わないと殺されそうな目だ
「えっと、はい。姫と食べれて凄く嬉しい」
「な、何言ってるの…智ちゃん」
「あら~智ちゃんにお姫。ここでイチャイチャするのは止めて欲しいわ」
「してない!」
「いたっ!?」
箸が飛んできた…それも頬に刺さった…
姫は俺のお箸を奪って、自分の弁当を食べ始める
ここまでされてもムカつかないのは姫だからなんだろうけど、とりあえず一言言ってあげよう
「姫」
「何」
「それ俺の箸」
「だから」
「俺と間接キス」
「……!!?」
「いだっ!?」
バチンッ!!と俺の頬を思いっきり叩かれた…
早苗さんは大爆笑していて姫は顔を真っ赤にして黙々とご飯を食べ続ける
ヒリヒリと痛い頬を押さえながら最初に姫が持っていた箸を拾い制服で拭いてから弁当を食べる
「それにしても…これからどうするんですか?」
「何が?」
「何がって、姫の事ですよ。これからどうするんですか?ここにずっといるわけにもいかないでしょう。
ここだって一応保健室だし、他の学生来るんですから」
「いいんじゃないかしら?別に」
「いやいやいや、ダメでしょう」
「というか、私これからちょっと外に行かないといけないのよねぇ…」
この人は何を言ってるんだ?
今の発言は弁当を食べていた姫も唖然とする
「お母さん!私どうするの!?」
「さっき思い出したからしょうがないわ。お姫はここで待ってて」
「で、でも!誰か来たら?」
「来ないわよ。ここ校舎から遠いからよほどのことがない限り来ないから」
「で、でも!」
「それに智ちゃんもいてくれるし大丈夫よ」
「はい?」
「智ちゃんは体調が悪いから寝かせます。って言ってあるわ」
なんという権力の使い方だ…
でも、これは良いかもしれない。次の授業は得意じゃない数学だ
だけど、姫にバレたら何か言われるかもしれないため、できるだけ嬉しさを顔に出さずにご飯を食べる
「ほら、智ちゃんも嬉しそうよ」
「………智ちゃん、サボりたいだけでしょ」
「うっ…そんなことない。体調が優れないから」
「ほら、智ちゃんもこう言ってるわ。それじゃ私は行くわ。智ちゃん、6時間目ぐらいで返ってくるからそれまでお姫のことよろしくね」
「はい」
早苗さんはカバンを持って保健室を出ていく
姫は最後までワーワーと文句を言っていたが、文句を言う相手がいなくなると矛先は俺に向けられた
「なんで私が智ちゃんと」
「まぁまぁ、それよりご飯食べような」
「嬉しそうな顔してる」
「そうか?」
「授業付いていけなくなるよ」
「心配してくれるのか?」
「そんなことは絶対!無い!」
「そっか」
姫は何が気に入らないのか、ずっと文句を言いながらご飯を食べる
俺はその文句を聞きながらご飯を食べて、洗面台で弁当箱を洗った




