第57話 入学試験、その2
気が付くと俺はストーブの近くに置いてあるパイプ椅子に座りながらうたた寝をしていたらしい
携帯の時計を見るとそろそろ試験が終わる時間帯になっていた
「ふぁぁぁ~…」
「あら、おはよう」
「姫の試験は最後の1教科ぐらいですか?」
「そうね、あの子大丈夫かしら?」
「ん~…今朝、体調悪くなったら試験辞めても良いって言ったんですけどね」
「お姫の性格からして止めないと思うわ」
「ですよね…」
「まぁしんどそうなら私に連絡してもらうように頼んであるから大丈夫でしょう。それより…」
「…なんで近寄ってくるんですか?」
「やること無くなっちゃったから智ちゃんでも襲おうかなぁと」
「もし、それが真剣なら俺も真剣に回避させてもらいますけど?」
「あら、怖い」
俺はカバンの中から催涙スプレーを取り出し、早苗さんに向ける
すると、笑いながら元の席に座った
「智ちゃん、それは女の子がもつ物よ」
「対早苗さん用です」
「あ~あ、智ちゃんも大人になって面白くなくなったわ。早くお姫終わらないかしら。まぁあの子のことだから今試験中断しても合格でしょうけど」
「あり得るから怖いですね…」
早苗さんの知り合いで塾に通っている先生が作ったテストで国、数、英、理、社の5教科を1教科1時間で受ける。その先生の塾では平均76点。最高得点者での5教科合計489点のテストを姫はたった1時間半で解いていき、点数はパーフェクトだ
さすがの塾の先生もこれにはビックリしていたらしい
「そういえば姫がここ通うようになったらどうするんですか?毎日あの坂登るのはキツイと思いますけど」
「そうねぇ…智ちゃんが毎朝迎えに来て、車椅子で押してあげたらいいんじゃないですか?」
「毎朝5時起きしろと…」
「愛の力ね」
「それだけは勘弁してください…」
「それじゃ智ちゃんの家に引っ越そうかしら?」
「は?」
「家の中なら歩けるし、智ちゃんもいるから私が出張の時とかは安心だわ」
「勘弁してください。俺にもプライバシーってのがあるんですから」
「お姫の裸を毎日見れるのよ?」
「興味ありません。てか、うちにもう1人男いるんですけど」
「あ~…まぁ私と一緒に学校に来ればいいだけの話なんだけどね」
早苗さんは「ふぅ…」とため息を吐いたと同時に試験が終わる時間になった
俺は窓を開けて、校舎のほうを見る
するとしばらくして中学校の制服を着た生徒たちが教室から出ていくのが見えた
「終わったみたいですよ」
「そう、それじゃ姫を車の所に連れてきてもらっていいかしら?」
「はい」
早苗さんに言われて俺は保健室から出る
そして、俺は姫のいる教室まで歩いていると見覚えのある後ろ姿があった
「あれ?どうしてここに?」
「し、祠堂君?」
佐藤さんはびっくりしたように俺の方を見てくる
そういえばなんか試験の時に何人か手伝いをしてほしいと先生が言っていたからその手伝いのためにここにいるんだろうと勝手に推測する
「ちょっと知り合いがここに受けてるんだよ。それよりお疲れ様。試験の手伝いしてたんでしょ?」
「う、うん。でも、祠堂君に会えるなんて」
「あはは。俺は単に知り合いの子に付いてきただけどね。あ、ごめん、そろそろ行くよ」
教室のドアの所から姫が出てくるのが見えて佐藤さんに頭を下げてからすぐに向かう
「大丈夫だったか?姫」
「うん」
「そか。早苗さんが待ってるから行こう」
「……いいの?あの人」
「あの人?」
姫の視線の先を見ると佐藤さんがこっちの方を見ていて、俺は手を振る
すると佐藤さんはぺこりと頭を下げて廊下を歩いて行った
「あの人、姫の先輩になる人だよ」
「………ふ~ん」
「もしかして嫉妬?」
「バカじゃない」
冷たく言われて少し傷ついた…
姫はツンっとしていて、そのまま廊下を歩いていき、俺は「はぁ…」と小さくため息を吐いてから姫の後を追った




