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第50話 熱

 

 本当に良いんだろうか…

 結局、千鶴の強引な提案に乗せられ、俺は今佐藤さんの家へと向かう

 向こうは病人なんだから普通異性には見られたくないと思うんだけど…


「あれ?智樹、向こう側じゃなかったっけ?」


 いつもとは逆の電車に乗っていると隣の車両から清水が来た

 そういえばこいつもこっち側だったっけ…


「ちょっとこっちに用があってな」

「そうなんだ、木島さんも?」

「うん、今から理」

「買い物行こうと思って。清水は帰るのか?」

「うん、今日は帰って勉強しないと」

「ふ~ん。どこだっけ?駅」

長渡ながと駅だよ」

「同じだね~」

「そうなんだ。でも…長渡にデパートなんて」


 ヤバい…バレそうだ…

 ここでバレたらメンドクサイことになる

 俺は適当にごまかすために話を変えようと頑張ってみる


「なぁ清水。そういえば昨日、俺が欲しいって言ってたゲームなんだけどさ」

「え?」

「あれな、よく考えてみたらハード持ってなかったんだよなぁ…清水は持ってたっけ?」

「僕は持ってないけど、宗太は持ってるはずだよ」

「そっか。あいつが持ってるのか…今度借りよう」

「あはは、そうだね」

「あ、そろそろ長渡駅だな。んじゃまた明日な」

「うん。智樹も木島さんも」

「ばいば~い」


 俺と千鶴は清水と別の方向へ歩く

 なんとかバレずに済んだみたいだ


「なんで隠すの?」

「お前バカか?俺が疑われるだろう」

「清水君も誘えばよかったんじゃない?」

「あいつが行けるわけないだろ…」

「まっ、それもそうだね。智は行けるのにね」

「お前が強引にだろ…って道知ってんの?」

「知ってるよ。ここを曲がって…ここを曲がって…はい、到着」


 千鶴がとあるマンションの前で立ち止まり、なにかボタンを押している

 セキュリティーのなんかだろうか?

 しばらく入り口付近で待っているとウィーンとドアが開く

 俺と千鶴はマンションの中に入り、エレベーターで5階まで上がり、少し歩くと表札に佐藤と書かれたドアに着いた

 千鶴は呼び鈴を押し、玄関をガチャっと開ける


「おい、勝手に開けんなよ」

「ん?許可は取ってるからいいの」

「親がいたらどうすんだよ」

「理紗ちゃんのお母さんは今仕事中って言ってるから大丈夫だよ」


 千鶴は靴を脱いで、先に奥へ入って行く

 俺も後に続くように靴を脱ぎ、中に入って行くとドアが開いている部屋があり、隙間から中を見てみると千鶴と佐藤さんがいた


「理紗ちゃん、大丈夫?」

「うん。だいぶ良くなったよ」

「おい、千鶴。佐藤さん風邪引いてるんだから遠慮しろよ」

「し、祠堂くん?え?え?」


 佐藤さんは俺を見ると何で俺がここにいるか訳がわからないらしく、目がクルクルしてる

 そして、ようやく現実に戻ってきたかと思うと布団をガバッと身体が隠れるように被った


「おい、言ってないのか?」

「忘れてた。てへっ」

「何がてへっっだ。ちゃんと言っておけって言っただろ…ごめんね、佐藤さん。急に来ちゃって」

「う、ううん…その…なんと言うか…お、お見苦しい所を…」

「え?あ~…ごめん。それじゃ俺はそろそろ…」

「え~、智帰るの?」

「迷惑だろ?俺がいちゃ」

「や、そ、そんなことは無いです!ごほっごほっ」


 布団が咳をしている…

 俺はやっぱり邪魔だと思い、途中のコンビニで買ったポカリやプリンなどをテーブルに置く


「テーブルの上にポカリとか置いておくからお大事に」

「智!帰るな!」

「なんでキレてるんだよ…」

「私、1人で夜道帰らせる気か!」

「お前を襲う変態なんているのか?」

「むしろ襲わない変態なんていない」

「それじゃ変態はここに居ないな。んじゃ俺は…って手を離せ」


 千鶴はがっちり俺の手を掴んで、ニコニコしながら床をポンポンと「ここに座れ」と言いたげに叩く

 その間も布団はゴホゴホと咳をしていて、あまり風邪は治ってないみたいだ


「ほら、佐藤さんも迷惑してんだから帰るぞ」

「そ、そんな迷惑なんて…」

「ほら、理紗ちゃんもこう言ってるし」

「気使ってくれてんだよ」

「そんなこと無いよね~理紗ちゃん」

「う、うん。ほんとうに」

「はぁ………わかった。とりあえず、ちょっとだけ部屋は出る。

 佐藤さんもずっと布団の中じゃ苦しいだろうし、男にパジャマ姿見られるのも嫌だろうから」


 俺は立って部屋を出る

 すると中から「汗すごいね」とか「うわっ!?すご!」とか千鶴の声と「や、やめて」とかの佐藤さんの悲鳴が聞こえてくるので、イヤホンを付ける

 そして、10分ぐらい経つとドアが開き、千鶴に頭を叩かれた


「った…何?」

「何イヤホン付けてんの?」

「聞いたらダメかなぁと思って」

「ふ~ん………理紗ちゃん、お昼も食べてないらしいんだけど智なんか作ってあげてよ」

「俺が?」

「料理できるじゃん」

「人の冷蔵庫とかキッチン使うの気引けるんだけど…」

「大丈夫、おばさまには許可取ってるから」

「は?」


 千鶴はそういうと携帯の画面を俺の方に見せてくる

 すると、理紗ちゃんおばさまと書かれていて、「何もないけど、お願いするわ~」と書いてあった


「これ、お前がお願いされてんじゃないのか?」

「まぁそうだけど、いいじゃん。智の方が美味いんだから」

「はぁ…。それじゃ冷蔵庫の中見させてもらうよ」


 俺は奥の方へ行くと大きい冷蔵庫がドンッと置かれていて、IHヒーター式のコンロがある

 冷蔵庫の中は本当に何も無く、冷ご飯と卵と梅干ぐらいしかない

 人の冷蔵庫開けといてアレだけど、毎日料理をしているとは思えない冷蔵庫だ


 俺は梅干しと冷ごはんを取り出し、お粥を適当に作る

 昼も何も食べてないと言っていたから少し栄養のある物が良いけど、卵ぐらいしかない為、梅干しで味を付け、あまり使えてないのか固まっている塩で整えた簡単なお粥ができた


「…よし、ばっちり」


 ちょうどいい具合の塩加減だ。我ながら素晴らしい

 レンゲとコップとお粥の入った鍋を持って、佐藤さんの部屋へと向かう

 佐藤さんはさっき少し見えたパジャマとは違い、Tシャツに着替えている


「はい、お粥。ごめんね、キッチン使わせてもらって」

「え?!あ…ありがとう」

「少し味が濃いかもしれないけど、ごめんねって…千鶴、お前は食うな」

「あっつ~…でも、やっぱ美味い。さすが智だ」

「どうも」

「それにしてもさ、この部屋なんか熱くない?」

「そ、そうかな?私はちょっと寒い感じだけど」

「そなの?ん~ご飯食べてるからかなぁ」

「お前の分じゃねぇ」


 俺は床に座って、千鶴と佐藤さんの2人を見る

 千鶴は佐藤さんに「ふーふーしてあげる」と言って、ただの嫌がらせをしているが、本当にこの2人は仲がいい

 千鶴と知り合ってからここまで俺たち以外に仲の良くなった人なんているか?ってぐらい仲が良いし、千鶴も信頼しきってる

 佐藤さんも佐藤さんで千鶴を信頼しきっていて、一緒に居て楽しそうだ

 俺は自分のカバンの中から数枚のルーズリーフを取り出しておく

 そして、佐藤さんはお粥をほとんど食べずに、というかほとんど千鶴が食べたせいでもあるんだけど、食べ終わって少し経ってから渡す


「これ、今日の分のノート。迷惑だったかもしれないけど書いておいたから」

「え?あ、でも…」

「俺のもちゃんと書いてるからどうぞ」

「あ、それ私欲しい」

「なんでお前にあげんだよ…今日居ただろ」

「古典寝ちゃったし」

「知るか。これは佐藤さんのためにやったんだからお前にはやらん」

「うしししし、理紗ちゃんのためって。さては智、理紗ちゃんに惚れてるなぁ」

「え!?」

「今までかなり世話になってるしこれぐらい当然だろ」

「なら私にも」

「お前には逆に何かしてほしいぐらいだ。とりあえず、これここに置いとくね」


 俺は勉強机らしき所に置く

 机の上には綺麗に整頓されていて、教科書も綺麗に並べられている

 ここまで綺麗なのは性格なんだろうか?

 俺はルーズリーフを2つ折りにして、机の上に置くと、綺麗に並んでいる教科書の間に何か白い紙が挟まれているのに気が付いたが、人の物を勝手に見るのは失礼なので気にしないでおく


「そういえば、理紗ちゃん。おばさまは何時頃帰ってくるの?」

「お母さん?今日は帰ってこないよ。ごほっ」

「あ、そうなんだ…」

「何考えてんだ?千鶴」

「いや、心配だし泊まろうかと…」

「え?あ、いや、だ、ダメだよ。千鶴ちゃん」

「迷惑すぎる。特にお前は」

「それじゃ智も泊まればいいじゃん。ね?そうしよう!明日は土曜日だし休みだよ」


 ヤバい…

 このままの雰囲気だと本当に泊まることになりそうだ…

 俺はすぐに帰れる準備をして、千鶴の手を掴む


「ほら、もう迷惑だから帰るぞ」

「ちょっと離してよ」

「佐藤さんは風邪治りかけてるんだからあんま迷惑かけんな」

「いいじゃん、心配だもん!」

「良いことあるか」

「智は心配じゃないわけ?」

「そりゃ心配だけど、迷惑かけるのはダメだって」

「何さ、いい子ぶってさ。私の時は隼人とゲラゲラ笑ってたくせに」

「あれはバカも風邪をひくんだってことが分かったからな」

「バカ言うな」

「とりあえず、帰るぞ」


 俺は千鶴を無理やり立たせてカバンを持たせる

 さすがの千鶴も真剣に俺が言ってるのが分かったのか仕方なしに諦めて言うことを聞くようになった

 佐藤さんはその光景を顔を赤くしながら見ていて、俺は少し頭を下げる


「ごめんね、うるさくしちゃって」

「う、ううん。大丈夫だよ。ごほっごほっ」

「………ちょっと、ごめんね」

「え?…!?!?」


 俺は佐藤さんのおでこに手を当てて、自分のと比べる

 若干というか、ものすごく熱い

 佐藤さんの部屋に入ってからなんだか顔が赤くて呼吸も浅く早いような気がしていたけど、佐藤さんが大丈夫だと言っていたから気にしないようにしていたけど、やっぱり大丈夫じゃない


「佐藤さん、熱って何時計った?」

「え?えっと…じゅ、2時間ぐらい前ですけど…」

「体温計はっと…。ちょっと今、計ってみてくれていい?」

「え?あ、はい」


 テーブルの上に置かれた体温計を佐藤さんに渡して、少し待つ

 そして、ピピピっとなって見せてもらうと38.2℃と表示されていた


「高いなぁ…」

「何度?…うわぁ、38.2って…だ、大丈夫?理紗ちゃん」

「え?あ、うん」

「ん~…佐藤さん、寒くない?」

「え?えっと…少し…」

「んじゃまだ上がりきってないか…とりあえず安静にしないと」


 佐藤さんをゆっくりベッドに寝かせてから、オドオドしている千鶴に佐藤さんのお母さんへ連絡を入れるように言う

 しかし、ガバッと起き上がるように佐藤さんが拒否した


「だ、ダメ千鶴ちゃん!お願い、お母さんには心配かけたくないの…げほっごほっ」

「わ、わ、理紗ちゃん、わかったよ!連絡しないから寝ておこうよ」

「ん~…でも…」

「智、理紗ちゃんが言ってんだから。とにかく今日は理紗ちゃんの看護するよ!」

「は?俺も?」

「当たり前じゃん。私、熱出したことはあるけど看病したこと無いもん」


 バカにもほどがあるだろう…

 でも千鶴だけに任せるのは心配だ

 俺は携帯で隼人に今日は遅くなるかも。とメールしてから、佐藤さんに言う


「ごめんね、ちょっと心配だから俺も泊まってもいいかな?なるべく部屋の中は入らないようにするから」

「え?あ、えっと…その…あの……」

「ごめんね、迷惑かもしれないけどやっぱり心配だから」


 千鶴を1人にするのは危険すぎる

 佐藤さんは自分の体温を知ってしんどくなったのか真っ赤になった顔で小さく頷く

 俺は「ありがとう」と言ってから、これからのために行動することにした。



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