第49話 皆勤賞
修学旅行が終わって初めての登校日
俺はいつも通りの時間に電車に乗り、校門を超える
そして、教室の中に入るとみんながこっちを見てきた
「体調悪すぎて倒れたんだって?」
「お前、体調悪いのに修学旅行行くとかどんだけ行きたかったんだよ」
「大丈夫だった?」
と様々な反応をされる
そして、すぐにみんなは修学旅行の思い出話を咲かせる
俺は自分の席に座ってひっそりと時間が経つのを待つ
「あ…」
「よっ、千鶴」
「あんたメール返しなさいよ。心配してあげたんだから」
「そりゃどうも。この通りもう治りました」
「…あと、なんか怒らせたみたいだからゴメン」
「いや、こっちも悪かった」
短い会話で済ませて、いつも通りの関係に戻る
千鶴は修学旅行の楽しかったことをずっと俺に話して、俺はそれを聞く感じだ
佐藤さんが水族館で転んだとか、ジンベイザメが超可愛いとか色々だ
「で?俺へのお土産は?」
「へ?」
「お土産」
「無いよ。だってあんた戻ってくるって聞いてたもん」
「はぁ…まぁいいや」
あれだけ苦労して沖縄行ったのに収穫は「完全敗北」と言うTシャツだけだ
まぁちょっと気に入ってパジャマにしてるんだけど
俺はカバンの中から小説を取り出す
「あ、それ懐かし~。紅葉でしょそれ」
「知ってんの?」
「もちろんじゃん」
「ふ~ん」
「お姉ちゃんが可愛いよね」
「いや、初めて読むし」
俺は本を広げて中身を読む
千鶴も本を読み始めると邪魔すること無く、他の友達の所へ行く
しばらく本を読んでいると担任が教室に入ってきて、何やら適当に話して1時間目が始まる
でも、俺の前の席である佐藤さんが来ていない
いつも来ていて皆勤賞だったはずなのに
「なぁ、千鶴。佐藤さんは?」
「理紗ちゃん?ん~聞いてないけど…電話してみよ」
休み時間に千鶴は携帯を取り出して、佐藤さんに電話を掛ける
するとすぐに出たのか「うん。そっか」と話している
「うん。本当に大丈夫?……うん。…あ、ちょっと待ってね」
千鶴は俺に携帯を差し出してきて、話せという感じだ
俺は携帯を受け取って話かける
「佐藤さん?俺、祠堂だけど大丈夫?」
「え?ええ!?っごほっごほっごほっ」
「大丈夫?」
「は、はい!大丈夫です、ごほっごほっ」
「えっと…ごめんね?なんかものすごくしんどそうなのに電話かけちゃって」
「い、いえ」
「それじゃ千鶴に返すね。お大事に」
俺は千鶴に携帯を返して、早く切るように言う
あれだけ咳こんでるのに長話は可哀そうだ
千鶴はすぐに話を終わらせて、しばらく悩んでいるかと思うと俺の手をガシッと掴み、嫌な笑顔でこっちを見てくる
「何?」
「いやね、私すんごい良いこと思い付いたんだけど」
「ふ~ん、そりゃすごい」
「今日、学校終わったら理紗ちゃん家にお見舞いに行こう」
「そりゃいいな。んじゃお大事にって伝言よろしく」
「は?そんなの自分で言いなよ」
「男が風邪引いてる女の子の部屋行くのダメだろ」
「私が中学の時に風邪引いた時、普通に来るなって言ったのに来たじゃん」
確かに中学の時は千鶴が風邪引いた時ビックリさせようと部屋に行ったりしてたけど…
「だって、千鶴のパジャマ姿見てもなんとも思わないし」
「酷くない?それ」
「隼人は興奮してたけどな」
「うっ…それはそれで嫌だ…」
「だろ?」
「でも、智も来なよ。これ命令」
「何さまだ、お前」
「忘れた?隼人を匿ってたこと」
千鶴の後ろの方から少し悪魔が顔を出してる…
というか、まだ隼人を理子って名前で隠していたことを怨んでいるのか…
俺は納得できないが、後ろから顔を出している悪魔をこの教室内で放つわけにはいかない
「ちゃんと佐藤さんに言っておけよ。向こうは女の子なんだから」
「わかってるって…ってなんか引っかかるんだけど今の」
「あ、授業始まる」
俺はカバンの中から教科書とノートを出して、授業の準備を始めた




