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第47話 早苗

 

「智ちゃ~ん、これなんかどう?」


 この人はこれで何着目だろうか…

 変なプリントをされたTシャツを取っては返し取っては返しとかなり長時間選んでいる


「早苗さん、そろそろ決めてください」

「それじゃこれかな」


 早苗さんは「美人」とプリントされたTシャツを見せつけてくる

 30代後半なのに美人って……まぁ言えるんだけど…


「智ちゃんはね~…これかな」

「完全敗北…なぜ…」

「なんとなくね。姫には、やっぱりこれかしら?」

「それですね。それかこっちですね」


 早苗さんは「姫」とプリントされたものを取り、俺は「将来大物」というプリントを取り、早苗さんに見せる


「確かに大物だわ。あの子」

「まぁツンデレですけど」

「それが可愛いんじゃない」


 早苗さんは何着か取って、レジの所でお金を払ってから戻ってくる


「あと、フェリーまで2時間少しって所かしら?」

「ですね。どうしますか?」

「ご飯食べてからフェリー乗り場に向かえばピッタリね。智ちゃんは何が食べたい?」

「何でも良いです」

「じゃ私食べる?」

「あそこのステーキ屋にしましょう」

「正直になればいいのに」


 ため息を吐きながら俺の腕に絡みついてきて、楽しそうにステーキ屋の中に入る

 そして、適当に注文して話しながら食べ、タクシーでフェリー乗り場へと向かう


「なぜタクシー…」

「だって智ちゃんと2人で乗りたかったんだもん」


 勘弁してほしいが、お金はすべて早苗さんが払ってくれているので抵抗はできない

 早苗さんもそれを分かっててやっているんだろう

 運転手さんはバックミラーで俺たちの方を見ると何を勘違いしたのか楽しそうに話かけてきた


「お2人はカップルですか?」

「はい?」

「あ、やっぱりそう見えます?」

「はい。お似合いですよ」

「もぉ恥ずかし。ダーリン」

「いやいやいやいやいや」

「お2人は大学生さんですか?」

「はい。この子はまだ高校生なんですけどね。ずっと付き合ってるんですよぉ」


 運転手さん…気付いてください…

 この人はもう40手前ですよ…

 そんなことが言えたらどれだけ楽になれただろう…いや、むしろ言わない方が楽なのかもしれない

 もし言えば早苗さんの逆鱗に触れかねない。それに早苗さんは嬉しそうに運転手さんと話している雰囲気を潰すのもバカらしい

 俺は外の風景を見ながら、早苗さんと運転手さんが楽しそうに話すのを聞いていた




「いやぁ、私もまだまだ行けるわね」


 無事フェリーに乗り、今から約30時間で付く予定だ

 つまり30時間は早苗さんに監禁されるということ

 早苗さんはわざわざ高い個室を選び、缶ビールを飲みながら俺に絡みついてくる


「お酒止めてください。臭いです」

「大丈夫大丈夫。襲わないって」

「当り前です」

「智ちゃんもどう?お酒、たまに飲むのは身体に良いわよ?」

「未成年なので遠慮します」

「あら?そう。それにしても大学生で通じるなんてびっくり」

「よかったですね」

「まっ本気出した私はあんなもんよ。ふぁぁぁぁ~…眠たくなってきちゃった」

「どうぞ。寝てください。静かになりますから」

「ふぁぁぁ~…智ちゃん、一緒に寝る?」

「寝ません!早苗さん1人で寝てください」

「怒っちゃって可愛い」


 ダメだ…酔ったこの人はめんどくさすぎる…というか、普段とあまり変わらない…

 俺は早苗さんを無理やり寝かせて、布団をかぶせる

 すると30秒もすればすぐに寝息を立て始め、静かになった

 よく考えれば俺が倒れたのはお昼過ぎぐらいらしいので、そこからすぐに来たんだから疲れていて当然だろう。修学旅行の前日は研修で、俺が倒れたからほとんど休憩なんてできてないだろうし…


 俺は眠たくなかったが船の上をうろちょろするのもめんどくさかったのでベッドに寝転んだ




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