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第46話 実はお金持ち。

 

 周りが騒がしく、悲鳴も聞こえる

 飛行機の通路には覆面をした男2人が何語か分からない言葉で叫んではうるさい人に銃を向ける

 そして、俺の方を見るとニヤ~と笑ったかのような目で俺に銃を向けた

 父さんは俺を庇うように銃と俺の間に入るが、犯人に引き離され、別の所に座らせられる

 再び銃の矛先は俺に向けられ、乗客全員に聞こえるように何か言う

 すると父さんは言葉の意味が分かっているのか「やめろ!」と叫んだ

 しかし、銃の矛先は俺から離れず、俺も恐怖で動けずその銃を見つめる


 その時、どこからか分からないが特殊部隊らしき人達が次々と中に入ってきて、俺の横にいる犯人を見つけると一斉に狙撃した

 犯人は隙を付かれ、まったく反撃できずにバタンと電池が切れたように倒れ、特殊部隊の人が俺の所に駆け寄る。しかし、影に隠れていたもう1人の犯人が最後の悪あがきを見せ、俺に銃を向けながらトリガーを引く

 銃弾は俺の所に駆け寄ってきていた特殊部隊が俺を抱き締めるように庇って銃弾を喰らい、俺を覆いながらズルッと倒れる

 そして俺の手にはその人の血がべっとりと付いていた……



「っはぁ!はぁ…はぁ…はぁ…」


 目を開けると白い天井が広がっていた

 身体は重く、頭がズンズンと深い痛みが走る

 俺は頭を押さえようと右腕を上げると点滴をされているのか管が付いていた

 周りを見る限りでは病院の個室らしい

 俺は何か思いだそうと頭を働かせるが、痛みが走る

 おそらく頭が制御しているんだろう


 俺は考えるのを止め、ベッドに身体を預けるように寝転ぶ

 今、思いだせるのは修学旅行中ということ・首里城に行っていたこと・千鶴と佐藤さんと一緒に居たぐらいだ

 しばらく何も考えず、ボーっとただ時間が過ぎるのを待っているとドアが開く


「あ、気が付いたみたいね。智ちゃん」


 声の方を見ると早苗さんが缶コーヒーを2本持って入ってくる

 そして、1本を俺に渡すとカパッと蓋を開けた


「頭はもう大丈夫?」

「あ、はい」

「も~びっくりしたよ。いきなり智ちゃんのほら…あの小学校の時、いつも一緒に居た孤児院のぉ…」

「…隼人ですか?」

「そうそう。隼人くん。あの子から電話が来て、ものすごく慌てた様子で「智樹が倒れた!」って言ってくるんだもん」


 早苗さんは缶コーヒーを飲みながら言う

 おそらく隼人は電話の近くにおいている電話帳の中から早苗さんに電話を掛けたんだろう


「すみません、わざわざ沖縄まで」

「一度来てみたかったから気にしないで。それより…」


 早苗さんの目が一気に真剣モードに変わり、缶コーヒーを置く


「智ちゃん、ヤバいと思ったらお薬飲むのは約束よね?無理しちゃいけないって」

「…すみません。こっち来る前にどこかに落としたみたいで睡眠薬が1錠しか残って無かったんです」

「もしかして睡眠薬だけで?」

「はい。多少きつかったですけど何とか。でもやっぱり限界あったみたいです」

「はぁ…そうならそうと電話してくれれば…」

「わざわざ沖縄までってのも…」

「智ちゃんがしてこないくても結局私は来たわ!」

「…すみません」

「本当に1人で我慢するのだけはやめて。智ちゃんは私の息子だと思ってるんだから甘えてきてもいいのよ?」

「すみません…」


 この人には敵わない…

 今まで誰にも迷惑を掛けないように頑張ってきたけど、結局人に迷惑を掛けてしまう

 それも一番心配をかけてはいけない人に。そう思うと目頭が熱くなってくる


「智ちゃん?泣いてる?」

「泣いてません」

「あはは、泣いてもいいわよ?私の胸で!さぁお泣き!」

「…勘弁してください」


 早苗さんは笑顔で手をバッと広げ、「さぁおいで!」と言ってくる

 たぶん、俺のためにテンションを上げてくれてるんだろう


「さぁ!私をそのままお抱き!」

「………」


 …やっぱりさっきのは無し。この人はマジだ…

 早苗さんの目は本気で俺の方を見てきていて、シャツのボタンも何個か外していてブラが見えている

 俺はなるべく早苗さんから離れるようにベッドの端によると早苗さんは何を勘違いしたのかベッドの中に入ってこようとしてくる


「何入って来てんですか!」

「え?私のために空けてくれたんじゃないの?もぉ、さりげなくするなんて智ちゃんは馴れてるね。さすが私を抱いただけの事はある」

「はぁ?何言ってんですか」

「うふふふ、可愛かったわぁ。智ちゃん」


 早苗さんは俺の人生最大の汚点を思い出したのかニヤぁとにやける

 アレは不可抗力だ…てか、アレは俺の記憶上では一緒に布団で寝ただけで行為自体はやっていないはず…

 

「あ~あの頃に戻りたいわぁ。さなえしゃん、さなえしゃん。っていつも抱きついてくる智ちゃんが懐かしい」

「いやいやいやいや、俺じゃないですし。それ姫ですし」

「あら?お姫はともちゃん、ともちゃんって。あぁ~本当にあの頃のお姫も可愛かったわ。もう本当に食べちゃいたいぐらい。智ちゃんが居なかったら食べてたわね」

「本当に母親ですか…」

「母親だからこそ最初は」

「いや、もういいです…」


 この人は危険だ…

 俺はため息を吐きながら早苗さんをベッドから追い出し、もたれるようにベッドを上げる


「でも残念。智ちゃんがお」

「もういいですから。そのエロ妄想話はやめてください」

「ん~まぁいいでしょう。それよりどうする?今から皆と合流する?」

「俺ってどのぐらい寝てたんですか?」

「倒れてここに運ばれてから丸1日ね。今日は確かちゅら海の水族館じゃないかしら。簡単に行けるわよ?」

「ん~…」


 退院はこれだけ元気だから今すぐできるだろう

 でも今はみんなと顔を合わせる気分じゃない

 特に千鶴や佐藤さんにはどういう顔で合えばいいか分からない


「家に帰る?帰るならフェリーで帰るけど」

「すみません。迷惑かけて」

「別にいいわよ。身体で返してくれれば」

「ぜひお金で返させてもらいます」

「あら、私お金には困ってないの」

「姫のために相当お金使ってるんじゃないんですか?家のリフォームとか車とかだって車椅子用にしてあるし」


 俺はここで聞きたいことを聞いてみる

 昔から不思議で仕方無かったのだ。早苗さんは養護教諭で普通の給料なのに姫のために家を完全にリフォームしたり、姫の乗っている車椅子だって電動だ

 どこからお金が出てるのか不思議で仕方がない


「あら?お姉ちゃんから聞いてないのかな?藤堂家って病院経営していて相当のお金持ちよ。

 それに私たちの親がケチでお金を溜めまくってるから一杯財産があるの。お金なんて使ってこそなのにね」

「…その話も妄想ですか?」

「嘘じゃないわよ?だってここの病院も系列だし。私はお嬢様なの。お姫様なのよ」


 早苗さんはえへん!と胸を張って言った

 よくよく見てみれば早苗さんがお金持ちの子だって感じもする

 もちろん、見た目だけなのだが


「とにかくお金には困ってないから、お返しはこれでいいわよ」


 早苗さんは俺が呆けている間にスススッと近寄り、人の唇を奪う

 そして、ものすごく満足そうな顔をしてからニヤ~とにやけ出した


「キ・スしちゃった」

「………おぇ」

「酷っ…早苗泣いちゃう」

「勝手にキスとか止めてください。俺は高校生です」

「勝手じゃなかったらいいのね。わかったわ、これから許可を取ってからするわね」

「絶対に許可なんてしませんけどね」


 早苗さんは嬉しそうに退院の手続きをすると言って部屋を出ていき、数十分後に看護婦さんと一緒に帰ってくる

 そして、点滴を抜いて晴れて俺は退院となった


「さて、それじゃ学校には私が連絡しておくからフェリーの時間まで遊びましょう」


 早苗さんは俺の腕に彼氏彼女のように抱きつき、楽しそうに繁華街の中へと連れて行かれた




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