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第45話 過去

 

「…く…ん…」


 音楽が変わる時にイヤホンの向こうから声が聞こえてくる

 薬が効いていて頭がぼーっとしているけど呼ばれて無視はできない

 俺はゆっくりと腕を動かし、ウォークマンの音楽を止め、アイマスクを取ると目の前がモヤモヤした


「祠堂くん?だ、大丈夫?」

「ん~…あ~…何か用かな?」

「えっと…そろそろ着陸準備に入るって」

「あ、そう」


 だからなんなんだろう…

 頭がまったく働かない…そもそも、あんなキツイ睡眠薬飲んで起きれた俺は凄い…


「だ、大丈夫?祠堂君」

「あ~…」


 かすかに働く脳でシートベルトを締め、座席を元に戻す

 そして、何の感情も湧かず、そのまま那覇空港に着陸した


 俺たちは飛行機から降り、俺は頭がまったく働かない為、誰かの後ろを付いていきそのままバスに乗り泊まるホテルまで向かう

 その間も俺は深い眠りに入っていた





 薬が切れ始めてきた頃、ようやく俺の頭が働き始めた

 周りを見るともう沖縄なのだろう

 気温が少し暑い感じだ


「ふぁぁぁ~…」


 大きな欠伸をして、脳に酸素を送ると眠気がス~っと遠くなっていき、頭も本格的に働き始める

 今いる場所は首里城らしい。

 バスは地下に止まろうとしていて、混雑している感じだ


「やっと起きた。智、せっかくの沖縄なのに寝過ぎだよ」

「うっさい…ふぁぁぁ」


 次々とバスから降りていく生徒を見ながら横にいる千鶴の方を見る

 すると、携帯で写真を取っては隼人にメールしているらしい


「隼人にメール?」

「そっ。あいつもここに来たことあるんだって」

「らしいな」

「知ってんの?」

「だって、メールしてたもん。どこにいるかとか」

「………」

「お前に心配させたくなかったんだよ」

「でもズルイ」

「知るか、あいつに言え」


 俺は携帯を開いて、隼人に「無事ついた」とだけメールをする

 一応心配してたからメールはしておかないと


「智、早く行こうよ。皆行ってる」

「りょうかい」


 最後にバスを出て、皆のあとを追う

 少し長い石畳の坂を登っていくと真っ赤なお城が出てきた

 綺麗な赤色で空の青と綺麗にマッチしている

 俺は首里城を見ながら、中に入って色々なところを見ていく

 そして、ぐるっと周ると一番最初に出てしまった

 一緒に居た千鶴とは逸れてしまっていて、しばらく待つ


 それにしても、沖縄の空はなんでこんなに綺麗なんだろう…

 たぶん気持ちの問題なんだろうけど…それにしても綺麗だ


 俺はずっと上を見上げていると上に飛行機が雲を引きながら飛んでいくのが見えた


「っ…やば……」


 普段は飛んでいる飛行機を見ても大丈夫なのに、なぜか心臓が急に激しく動き出し、呼吸も自然と早く浅くなっていく

 すぐに上を向くのを止め、日陰の中に入りしゃがみこむ

 そうしないと身体が耐えられそうにないから


「はぁはぁはぁはぁ」


 自分自身に大丈夫だと言い聞かせてもなかなか不安は収まらない

 額には暑さとは違う汗が噴き出してきて、手も少し震え出す


「だ、大丈夫?祠堂君」


 いつの間にか横に佐藤さんが居て、心配そうな声で聞いてきた

 でも、今はそんな返事を返せる状況じゃない。飛行機の時とは違う怖さが襲ってきている

 しばらく、しゃがみこみながら深呼吸をして、なるべく良いことを思い出しながら少しずつ不安を消していく

  すると、少しずつだが呼吸も戻って行く


「あ、あの…」

「ふぅぅ……ごめん。何?」


 まだ少し不安はあるが話せる程度まで戻り、佐藤さんの方を見る

 佐藤さんはまだ心配そうに見てくるけど、何とか笑顔で返す


「な、何かあったの?」

「ううん。なんでも無いよ。少し眩暈がしただけだから大丈夫」


 俺は立ち上がって心配させないように歩いていく

 修学旅行に入ってからちょっと佐藤さんに心配されすぎな気がする


「智~!!早く行き過ぎだぁ!」


 うるさいのが来た…


「理紗ちゃん、聞いてよ!智ってば置いていっちゃうんだよ!せっかく彼女のいない智のために彼女のふりしてあげてるのに」

「有難迷惑も良い所だ」

「何さ!バスでも爆睡してたバカが」

「うるさい」

「あと知ってるよぉ~、うっしっししし」


 千鶴はニヤ~と笑って、俺が少し動けばキスができるような位置まで近づけてくる

 そして、コソッと俺にしか聞こえないように言う


「智が飛行機が大の苦手だって」

「は?」

「うっしっし。離陸する時に超怖がってたでしょ。飛行機でビビるとか…そうだなぁ…ハイジャックされたとか墜落しかけたとかそういう経験する人だけだって、このビビり。飛行機ぐらいでビビるって本当にお子さ…」

「黙れ!!!」

「へ?」

「し、祠堂くん?」


 周りの空気が一瞬固まった

 千鶴は目を見開いて何が起きたのか分かっていない

 佐藤さんも何が起きたのか気が付いていない感じだ

 俺はその2人を置いて、バスへと歩き出す

 自分でも何故叫んだのか分からない

 でも、今千鶴や佐藤さんの近くに居ると手を出しそうになる

 それぐらい今の俺は危ない状態だ

 頭の底から徐々にハッキリしていく映像が身体を少しずつ蝕んでいくような感覚に怯えるのを必死で与えている俺とその状況を少し離れた所で冷静に見ている俺がいる

 そして、今すぐ1人にならないと危険な状態だと後者の俺が言ってくる

 しかし、次第に前者の俺が大きくなっていき、微かに見える映像は傷んだビデオのように切れ切れに映像が浮かんでは消え、浮かんでは消えていき、その感覚がどんどん短くなっていく

 俺は地下駐車場の誰もいない端の方に隠れるように座り、手を合わせて祈るようにフラッシュバックに耐える

 しかし、その願いも虚しく映像はまるで今ここで行われているかのようにリアリティのある映像へと変わっていく


 少し古い内装の小さな飛行機の中に突然覆面をした男2人が銃を持って飛行機を占拠する映像

 犯人が俺に銃を向ける映像

 特殊部隊が突入し、俺の目の前で何発も犯人の身体に撃ちこまれ、人形のように力なく倒れていく映像

 俺の目の前で犯人に撃たれた人を心臓マッサージしている映像

 そして、その人の目がゆっくりと閉じていき、生気が感じられなくなっていく映像


 そんな映像が永遠に流れ続ける

 目を瞑っても目の前で映像が流れ、目を開けてもその先に映像が流れる

 俺の手の甲は爪で血が流れるがその痛みすら感じない

 完全に俺の頭の中は映像でかき乱され、どこに力を入れているのかすら分からなくなり、そして、身体の電源が切れたかのように目の前が真っ暗になった


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