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第44話 PTSD

 

「早く、早く!」

「うぜぇ…」

「何?なんか不機嫌だけど」


 空港のお土産コーナーで飛行機の搭乗時間まで自由時間

 俺と千鶴、佐藤さん、清水、宗太のメンバーで時間が来るのをひたすら待つ

 と言っても、千鶴は佐藤さんと2人で楽しんでいて、清水は未だに変なテンションの宗太に捕まっていて、俺はボケーっと壁にもたれながら時間が過ぎるのを待っているだけ

 

携帯で時間を見るとあと20分で搭乗可能時間だ

 10分前に集合するように言われているため、自由時間はあと10分

 俺はイヤホンを耳の中に付け、目を瞑る

 すると、横に人の気配を感じた


「大丈夫ですか?何か顔色が悪いような気がするけど…」

「あ、佐藤さん。大丈夫」

「……」

「ん?まだなんか用が?」

「え、あ、ううん」


 佐藤さんはまだ心配そうな顔をしていたが千鶴の方へ走って行く

 少し冷たくしてしまっただろうか…

 でも、今はそんな余裕が無い

 少しでも気を抜けば大変なことになる

 イヤホンの音量を上げて、皆より早く集合場所に向かい、空いている椅子に座る

 あと5分ぐらいになるとさすがに集合場所に続々と生徒たちが溢れていき、千鶴たちも来た


「おい!智!何勝手に1人で行ってんの!」

「うっさい。今機嫌悪いからあんま話かけんな」

「機嫌悪いって…生理?」

「…めんどくさ」


 バカな千鶴と話すのは疲れる…

 俺はイヤホンを付け直し、携帯を開くと隼人からメールが来ていた


 -冷蔵庫の中に食べ物が一杯入ってるけど食っていいのか?-

 -電子レンジで温めて食べろ。あとポチにも餌やっといて-

 -了解。飛行機頑張れよ-


 メールはそれだけで終わり、俺は携帯を閉じる

 あいつに心配されるなんて昨日から俺はそんな心配されるほど危ない状態なんだろうか…

 少し心配になっていると飛行機の搭乗口が開き、俺たちは飛行機の中に入って、自分の席に座る

 俺の席は運がいいのか悪いのか窓際。横の席の人はまだ来ていないが進学組は一か所に集められてるから知らない奴じゃない

 手持ちのカバンからアイマスクとウォークマンを取り出して、上の物入れに入れる

 俺にとってこの2つは生命線になる

 これが無いと後々きつくなる


「あ、あの…Cの56って…」


 声のする方を向くと佐藤さんがキョロキョロしながら座席番号を確認してる

 Cの56って言えば俺の横の席だ


「ここだよ。千鶴に変わってもらおうか?」

「え、う、ううん!い、いいよ。よろしくお願いします」

「うん。よろしく」


 正直、横は男の方がよかった…

 しかし、アナウンスではそろそろ離陸するらしく、もう席移動は許されない

 俺は諦めてシートベルトを締めて、出来る限り気持ちを無にする

 しかし、滑走路に入り、エンジンが全開で動き出すと重力が襲いかかる

 自然と前から押されるような感覚になり、ガタガタと震え出す

 そして、空へと飛び立つと俺の頭に嫌な映像が浮かぶ


「っ…」


 手が勝手に手置きに向かい、佐藤さんと手が重なり遭うが、今は恥ずかしがる余裕が無い

 なんとか気合で佐藤さんに「ごめん」と呟いて一定の高度に上がるまで待った




 飛行機の高度がある程度まで上がると、機体の振動も少なくなり、呼吸も少しづつ落ち着いていく

 でも、気を抜けば本当にヤバいかもしれない


「っはぁっはぁ…ごめん、佐藤さん」

「う、ううん…あ、あの…大丈夫?」

「まだちょっと…」

「先生呼んだ方が…」

「いや、いい…大丈夫。ごめんね、心配させて。もう大丈夫だから」



 冷や汗を拭い、ポケットの中から睡眠薬の入ったカプセルを取ろうとすると、必要な数だけ入れたはずの薬が1錠しか入ってない。どこかに落としたんだろうか…あれが無いと帰りの飛行機がキツイ…

 でも、今そんなことを考えている暇は無い

 俺は深呼吸をしながら、トイレに向かう

 そして、CAさんを見つけて薬のことを説明してから水を貰って薬を飲み込んだ



 俺がこの修学旅行で最も嫌な存在がこの飛行機だ

 小さい時に一度、父さんと海外に遊びに行ったことがあった

 その旅行先で乗った飛行機が古く、隠れスポットみたいな感じで父さんお勧めのプランだった

 しかし、その土地は当時、治安が悪くなり始めていて俺が乗った飛行機がハイジャック

 事件そのものは1人の死者と犯人の射殺で幕を閉じたが、俺は銃を突きつけられたり、目の前で射殺された犯人の映像が刻み込まれ、飛行機に乗ると身体が震え、過呼吸気味になってしまう

 所謂「PTSD」簡単に言えばトラウマのようなものだ

 俺の場合、あんな事件を経験したため、飛行機がトリガーになっている

 しかし、そのトリガーさえ引かなければ俺の場合はPTSDの症状は起きない

 これも長い間治療し続けた結果だろう


 薬を飲む俺をCAさんは同情の目というか、物珍しい目で見てくる。

 あの事件は同い年の子たちにはあまり知られていないが、CAさんは30前後って感じだから知っている事件だ。ちょうど俺ぐらいの子が事件に遭ったってことぐらいも知られている。もちろん、名前などはすべて伏せられていたけど…


 薬を飲んでしばらく時間が立つと、震えが治まってきて眠気が襲い始める

 俺はゆっくり席に戻り、そのまま底に落ちていくような眠気を受け入れて深い眠りに入って行った


ここで注意書きです。

「PTSD」に関しては一応調べましたが少し違うところがあるかもしれません。

それに実際はもっと深刻なので、この小説を読んで「PTSD」ってこんなもんなんだぁと思わないでください(いないと思うけど…一応)


以上、注意書きでした。


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