第38話 3年前のお話。
あれは今から3年近く前の話だ
俺たちがまだ中学2年になったばかりぐらいの時
いつも通り、俺と隼人と千鶴は学校で話しながら時間を潰し、俺の部活が無い日の放課後は一緒に暗くなるまで遊んでいた
そんな日が中学卒業まで続くと皆が思っていた
しかし、そんな日は夏休みが始まる少し前で崩れる
あれは俺がまだバスケ部に所属していて、ほぼ毎日部活に勤しんでいた頃
いつも通り、準備運動をして、シュート練習をして、パスの練習など基本的なものをやっていた
そして、終わりが近づいてくると夏の大会のメンバーが発表される
「南、藤堂、加藤、村井、祠堂。この5人が夏の大会のメンバーだ。残りはベンチに入ってもらう」
顧問がそう言って、体育館を出ていく
俺以外の選手は皆3年生
3年生は14人いる中で、2年の俺が選ばれた
そのことに関しては素直に嬉しかったし、2年生の友達も喜んでくれた
しかし、3年は喜ばない者がたくさんいた。今考えれば最後の夏に2年に取られたのだから当然だろう
それも、俺は中学から始めた素人だったし、3年は小学生からやり続けて県大会や全国大会などを経験しているメンバーの人達だ
そんな人たちが中学から始めた奴に抜かれるなんて信じたくもない
俺は浮かれながらも精一杯頑張ろうと心の中で決め、夏の大会前の合宿が始まった
夏の合宿は学校の中で泊まりながら朝から夜までバスケをし続けるというもので、見た感じはしんどそうに見えるが、実際はそれほど厳しいものではない。しかし、その年の夏は違った
2年の中では俺だけが3年にしごかれ、無駄な走りをされ、完全なファール行為までしてくる始末だ
それも上手く顧問に見られないように
そんな中でも俺は頑張って認めてもらおうと努力していたが、合宿の最後の日、ついに俺は我慢できないことが起きた
偶然、休み過ぎで補習を喰らっていた隼人が体育館に見に来ていた
俺はその時、シュートを練習をしている時で、ちょうど先輩が俺がシュートをしている時にボールを俺に向かって投げた
もちろんすぐに反応できなかった俺は横腹に直撃し、ゴキッという嫌な音を聞きながら倒れる
俺は痛みに意識が飛びそうになったが、なんとか意識を保ち、ボールを投げた先輩の方を見ると笑いながら俺を指差していた
その姿に俺の堪忍袋は爆発しかけたがここで問題を起こせば、夏の大会に出場できないため、なんとか怒りを納めようとする
しかし、俺の努力も虚しく隼人がその先輩の近くに近寄って行った
「何してんだ…おい!」
「ああ?んだよ、お前関係無いから入ってくんな」
「今、智に向かって投げたろ!」
「偶然だろ?もううぜぇなぁ…親居ない奴が出しゃばんな。知ってんぞ?お前だろ?親に殺されかけた上に借金の肩代わりに売られそうになったって奴」
先輩たちは隼人に指を指しながら笑った
しかし、そのことが俺の堪忍袋を爆発させる
俺は痛みすら忘れて近くにあったバスケットボールを先輩に向かって本気で投げる
そして、すぐに距離を詰め、顔を掴み、膝蹴りを喰らわした
それからはよく覚えていない
気が付くと先輩5人は顔から血を流し、完全に気を失っていた
そして、隼人は俺の手に付いた血を自分の制服で拭き取り、笑顔で俺の方を見る
「やりすぎだ。でもまぁ…サンキューな」
「………」
「ここに居る奴聞けよ~。今起きたことは全部俺がしたことだ、智は関係ない。全部俺がやった。誰に聞かれてもそう言え!わかったか!」
隼人は体育館全体に聞こえるように叫ぶと体育館を出ていく
そして、俺は血だらけの先輩を前に茫然と立ち尽くしていた
それから、少し日が経ち、この問題は何故か警察沙汰にはならなかったが、学校側は問題を起こしたバスケ部を夏の大会は出場停止処分
暴力をされた先輩たちは恐怖のあまり登校拒否になり、隼人は長期の謹慎処分に、すべての問題は隼人に押し付けられた
俺は何度も自分がやったと言ったが誰にも信じてもらえず、体育館にいた皆も隼人の強い願いに口を開かなかった
そして、隼人が謹慎になってから数日経って、俺は隼人に呼び出された
隼人に言われた所に行くと、隼人は大きなカバンを背負いながら立っていて、俺を見つけると手を振る
俺は隼人に今までのことを謝ろうと頭を下げると、グイッと顔を上げられ、前にはニコッと笑った隼人の
顔があり、千鶴への伝言を頼んできた
「とりあえず、千鶴には本当のこと教えんなよ。男はカッコよく消えるのが良いんだから」
「でも…」
「あと、俺、こっちには帰って来ないわ。実はお前の親父さんに憧れてんだ。だからちょくちょく遊びに行ってただろ?おじさんが居る時だけ。
だから、これを機会にちょっと旅に出てみる」
「どこにだよ…」
「とりあえず日本中かな。お金は心配すんな、お前のおじさんがスポンサーになるとか言ってくれてるし心配無いから。なんか俺には才能があるらしい」
「んなの、俺の身代わりになってくれたからだろ…」
「あ~そっか。でもまぁ、こんな体験させてくれるんだからやってよかったかも。んじゃそろそろ俺行くわ」
「千鶴はどうすんだ」
「お前に任せる。あいつも昔色々あったけど、もう大丈夫だろ、うん。俺以外の男と遊ぶのも経験だよ」
「お前はそれでいいのか?」
「ん~…ここはいいよって言ったほうがいいんじゃね?それに、千鶴にはそれが必要だ
でも、千鶴も時々弱くなる時があるから、その時はサポートしてやってくれ
あとは~…あいつはいつの間にか女を敵にしたりするからな…イジめられる前に助けてやってくれ。これが俺がお前に頼むことだな」
「…俺にはできない」
「できるよ、お前は俺以上に強い。んじゃそろそろマジで行くわ」
「時々メールする」
「ああ。俺からもするぜ。あ、一応名前変えといてくれな、千鶴にバレたら大変だし」
「わかった」
「んじゃまたな」
隼人は手を上げながら駅の中に入って行く
それから約2年
隼人は日本を一周してきて、立派な男になった
そして、ここに戻ってきた




