表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
164/189

164.アルタの決意

 エーナが寮へと戻った後、僕は部屋で考え事をしていた。……《剣聖》のことだ。

 エーナが遭遇した敵は《剣聖》を名乗ったわけではなく、正確にはルーサ・プロミネートがその男のことを剣聖と呼んだらしい。

 魔女――それが王国に属する僕達の敵でもあり、帝国に属するエーナ達の敵でもある。

 つまりは共有の敵ということになるが、彼女達の詳細についてはまだ聞けていない。

 少なくとも、僕が戦ったルーサの実力は、そこらにいる魔導師とは比較にならないレベルで高かった。

 戦いには勝利したが、大局で見れば騎士団の一つに大きな打撃を受けることになり、現状では町中に魔物が出現するという事件もあって、民衆からは不安の声も上がっている。


「この状況で、大きな問題は起こってほしくないものだけれどね」


 果たして、剣聖と呼ばれた男は何者なのか。

 少なくとも、その男が本物でないことは僕には分かる。何故なら――剣聖はここにいるのだから。

 けれど、エーナが僕と同じレベルの剣士だと言っていた。

 彼女ならば、戦った相手の実力を見誤ることはないだろう。

 今回の敵は、紛れもなく僕に匹敵する相手ということになる。多くの敵と戦ってきた僕も、僕と互角の強さを持つ相手には、はっきり言って会ったことはない。


「いや……」


 だが、ふと考える。

 僕には確かに、『ラウル・イザルフ』という男の記憶がある。剣士としての技術も、過去の戦いも――全て、僕が覚えているものだ。

 ただ、僕自身は転生という現象について深く考えたことはない。

 幼い頃に、僕に記憶が蘇っただけに過ぎないのだから。

 そうして今のアルタ・シュヴァイツ……すなわち、僕という存在がある。

 僕が『ラウル・イザルフの生まれ変わり』であると証明できるのは、僕の技術と僕が持つ剣――《銀霊剣》だ。

 あの剣だけは、誰にも回収されなかったのだ。

 持ち主の魔力を一番吸い取るあの剣を、好んで使う人間もあまりいないだろうけれど。

 ただ、僕がラウルの生まれ変わりだと証明できるのは、それくらいしかない。

 ラウルの記憶も、人に話したところで理解されるものではないだろう。……いや、そういう意味だとアリアだけは、僕の秘密を知っていることになるか。

 それも、僕の『強さ』だけが証明しているだけだ。

 僕は本当に――ラウル・イザルフの生まれ変わりなのだろうか。

 そんな疑問を考えたことなど、一度もなかった。

《影の使徒》は、一人の記憶を共有した人間が二人いた。

 あの時、僕は『同じではない』と明確に否定したが……。


「……僕は何者なのか――ははっ、そんな考えたこともないし、これから考えるつもりもないけれどね」


 僕はただ、もう一度人として人生を送れるのなら――今度は違った人生を送ろうと思っただけだ。

 ただ強さだけを求めて、戦い、殺し……そして、何も得ることができなかった人生を、悔いているわけではない。

 それでも、強さの果てに得られるものは『何もなかった』のだと、僕は知ってしまった。

 ……それは、僕がただ『強さを求めた』だけだったということも理解している。

 イリスという少女に剣を教えて、僕はそれを学ばせてもらった。彼女は誰よりも強くなることを望んでいる。

 それは自分のためだけではなく、見知らぬ誰かを守るために求めた力なのだ。

 ラウル・イザルフが考えもしなかった、強さの在り方がそこにある。

 今の僕には、少なからずイリスの考えは理解できる。

 仕事で護るだけのつもりが、気付けば僕は……彼女の成長を見守るために戦っているのだから。

 ――エーナには、僕が選んだ協力者については、全面的に受け入れるとも言われた。

 おそらくアリアは、僕とエーナが行動していれば、自然と疑って気付くだろう。

 そして、結局はイリスにまで伝わることになる。……なら、今回は僕から声を掛けるべきだろうか。


「こんなことを考えるのは護衛失格だろうけれど、相手が剣聖ともなれば、イリスさんは間違いなく戦う道を選ぶだろうね」


 イリスの決意に満ちた表情が目に浮び、思わず笑みを浮かべてしまう。

 そして、一つの事実に気付いた。


「ああ、そうか――」


 イリスに『頼っていい』と言いながら、僕はまだ彼女を頼ろうとしたことはないかもしれない。

 僕には、誰かを頼るという感覚がないからだろう。

 騎士の立場、講師としての立場――あらゆる面を考えれば、当たり前だが彼女を頼ることは選択肢に上がらない。


「……そもそも、頼るなんて考える必要はないか。相手が誰だろうと――僕が戦って終わらせよう」


 そうして、僕は結論に辿り着く。

 それほどに強大な敵であるのならば、僕が倒す他ないだろう、と。

 偽物の剣聖を、本物の剣聖である僕が、必ず打ち倒す。そう、決意したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 件の自称『剣聖』と自信のアイデンティティの根源の『剣聖の記憶』を考察のアルタ・・・・ うあはり直接相まみえないことには、推測に推測を重ねるだけですが、果たして対峙する『…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ