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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第四章 《恋知らぬ少女》編
140/189

140.ゴーレムマスター

 ――アリアは異常な速度で進んでいた。

 短刀を飛ばして、確実に魔物を打ち落とすと共に、障害物になり得る道端の木箱などを利用して、壁を駆けたかと思えば、魔物の上に飛び移り首を斬り落とす。

 瞬間、《黒い穴》を作り出して、そこに短刀を投げる。

 離れたところから飛翔してくる魔物を狙い、打ち落とした。落下する魔物から跳躍すると、アリアはさらに前に進む。

 元々、他人と組んで戦うことをアリアは得意とはしていない。

 イリスのレベルで初めて彼女と連携できるのだ――故に、アリアは騎士団のメンバーとは行動していない。

 アルタもそれを見越して、指示系統は黒狼騎士団の隊長クラスに任せてある。

 アリアは、ただ目的の場所を目指せばいい状況だ。


(……ここを終わらせて、すぐにイリスのところに行く)


 アリアの気持ちは決まっていた。

 イリスは援護を必要としないと言うだろうが、この結界がイリスを狙うための物だとしたら、一人にはしておけない。

 イリスのことは信じているが、彼女を援護しないのとでは話が違うのだ。


「邪魔をする奴は――許さない」


 早い段階で、アリアは目的地へと辿り着きつつあった。

 気配を殺したまま、アリアは魔導師達に気付かれることなく駆けていく。

 途中、どうしても見つかる可能性のある場所だけ、監視に立つ魔導師を斬り伏せる。


「かはっ――」


 何が起こったのか、魔導師には理解できなかっただろう。

 不意に背中から痛みを感じ、気付けば地面に倒れ伏している。――暗殺こそが、アリアの真骨頂だ。

 アリアは建物の陰に潜みながら、前方の様子を窺う。

 ローブに身を纏う数名の人影――その一人が、前に出た。


「ふっ、隠れたところで無駄だよ。どこにいるのか……この僕には理解できているからねっ」

「!」


 男の声と共に、アリアは周囲に浮かぶ『何か』に気付く。

 それは『眼球』であった。

 生物ではなく、『眼球』のようなモノというのが正しいだろうか。

『眼球』の瞳が輝くと、そこに魔力が集約していくのが分かる――アリアはすぐにその場から駆け出した。

 放たれたのは光線。アリアのいた場所は、まるで強力な酸でもかけられたかのように溶けていく。


「ふふっ、ようやく対面できたようだね。そして君に賛辞を贈ろう――よくぞ、この僕の元まで辿り着いたとね」


 ローブを脱ぎ捨て、男が様相を現す。

 ブロンドの髪に、白いスーツ。一言で言うのならば、キザな男であった。

 無論、アリアは反応を示すこともなく短剣を構える。


「……ふっ、中々なクールガールのようだ。この僕の美を目の前にしてもそこまで冷静でいられるとは」

「おじさんが、結界を作り出した魔導師?」

「おじ……!? ふっ、クールガール――ここまで来た実力は認めるが、言葉遣いがなってないようだ。この僕を『おじさん』呼ばわりとは……」

「レドルー様、お下がりを。ここは我々が――」

「黙っていろ。この僕が話しているんだ」


 後方に控えていた者達が前に出ようとするが、レドルーの一言で動きを止める。

 この部隊を統率している――どうやら、この一帯にいる魔導師を統率している人物で間違いようだ。


「ふっ、そう言えば自己紹介が遅れたね。僕の名は《ゴーレムマスター》の――ぐへっ!?」

「変な話に付き合ってる暇はないから」


 アリアはレドルーが後方に気を取られた一瞬の隙を突き、短剣を自ら作り出した《黒い穴》へと投げ込む。

《黒い穴》はレドルーの後方に出現し、背中に突き刺さった。周囲の者達に動揺が走る。


「レ、レドルー様……!?」

「ぐっ、ぬ……ふっ――やってくれたな……クールガール!」


 冷静な表情を見せ、レドルーがアリアを見据える。

 確実に倒したつもりだったが、急所を外れたようだ。いや、レドルーがかわしたというべきか。


「おじさん、ただのふざけた人じゃないみたいだね」

「おじさんではないと言っている……! ふっ、しかしいいだろうっ! これくらいの怪我――丁度いいハンデじゃないか!」


 レドルーが両腕を広げる。

 それに呼応するように大地が揺れ、アリアの足元が割れていく。

 後方へと跳躍して、アリアは距離を取る。

 姿を現したのは、二階建ての建物を軽く凌ぐほどの――巨大な『ゴーレム』であった。

 さらに、アリアの周囲に先ほどの『眼球』も姿を現す。

 これらもレドルーの扱うゴーレムなのだろう。

 視界を共有しているのか――隙を見せたようで、アリアの行動を常に監視していたようだ。


「ははははっ、どうだ! これがゴーレムマスターである僕の切り札だっ」

「……ふっ」


 それを見て、アリアはくすりと笑って見せる。

 レドルーの表情から、余裕の笑みが消えた。


「……何を笑っている」

「別に。ただ――すぐに終わらせられそうだなって思っただけ」


 レドルーはゴーレムを使ってアリアのことを見ていた。

 だから先ほどの攻撃でも倒れることはなかったのだ。だが、『見ていた』のに、レドルーはアリアの仕掛けた攻撃を完全に回避できていない。

 その時点で、彼はアリアの敵ではなくなったのだ。


(……イリス、すぐに行くから)


 懐から短剣を取り出して、アリアが構え直す。

 そして、獲物を狙う狩人のように、アリアは表情を一変させた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ナルシーなゴーレムマスターに問答無用の一撃!!>アリア 不敵に微笑む彼女の様子が目に浮かぶようです^^ 次回も楽しみにしています。
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