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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第四章 《恋知らぬ少女》編
125/189

125.突然の再会

 イリスと共に学園の方に戻ると、イリスが不意に口を開く。


「そう言えば、先生って今日はもう予定とかないんですか?」

「そうですね。この後は講師寮でゆっくりとする予定はありますが」

「……それって予定なんです?」

「あはは、休むことも予定の一つですよ。働いてばかりでは疲れますからね」

「それはそうですけど……」


 まあ、僕が普段から気合を入れて仕事をしているかと言われると――そうでもない。

 力を抜くところは抜くし、講師の仕事も大変だとは思うけれど、その分騎士としての仕事は『イリスの護衛』に注力していることになっている。


「それで、僕の予定を聞くということは……稽古でも付けてほしい、と?」

「! ダ、ダメですか……?」


 何となくそんな気配はしたが、やはりそういう理由だったらしい。

 授業終わりにイリスと、それにアリアには稽古を付けている。最近、二人の実力は以前よりも明確に上がってきた、というのは僕もよく分かっている。

 特にイリスは――いよいよ僕の剣もまともに受けることができるレベルにまでなってきた。

 元々、実戦の『経験値』が少なかっただけで僕が彼女の護衛になってからは……随分と彼女の経験となる戦いも多かった。――それが護衛として仕事をしているのか、と聞かれると少し痛いところではあるけれど。


「別にダメではないですが、一度許可するとこれから休みの日にもとせがまれるのではないかと……」

「そ、そんなことしませんっ。ただ、予定がないならたまには……お願いしたい、とか思わなくも……」


 視線を逸らしながら、少し頬を赤く染めて言うイリス。

 端から見れば間違いなくデートの誘いなのだろうけれど、これがイリスの場合――間違いなく『剣の修行』の誘いなのだから、思わず笑ってしまいそうになる。

 僕は小さく嘆息しながら、答える。


「そうですね。たまになら構いませんよ。では、この後いつものところでいいですか?」

「! は、はい。準備してすぐに行きますっ」

「いや、そんなに焦らなくてもいいですよ。僕は少し休憩してから行きますので」


 イリスは僕の言葉に頷いて、足早に寮の方へと向かっていく。……頷いてはいたけれど、あの様子だとすぐに向かってしまいそうだ。

 学園の裏にある森が、僕とイリスがいつも修行するのに使っている場所になる。人がやってくることはほとんどないし、敷地としても十分に広い。


(そろそろ、イリスさんには実戦形式での修行も必要になるのかな)


 僕はふと、そんなことを考える。――彼女は、すでに『命を懸けた』戦いを何度も経験している。

 今の僕の教えるレベルの範囲では、当然そこも想定しているところにはなるが……足りなくなってきているのも事実だ。

 たとえば、僕の《インビジブル》を使用して、イリスに見極めさせるのも一つの選択肢になる。――今の彼女なら、あの技くらいならば受け切るだろうけれど。

 騎士としての仕事でもなく、講師としての仕事でもなく、彼女の師匠として。

 これについて考えるのは、ある意味では僕の仕事とも関わってこないことにはなる。まあ、イリスが強くなってくれたら僕としても楽になる、という名目が元々あったはずなのだけれど。


「一先ず、一旦部屋に――!」


 不意に近くから気配を感じ、僕は思わず構えを取る。

 そんな僕の前に現れたのは――サングラスに黒いコートを羽織った少女。その様相には見覚えがあった。


「ふはっ、さすがはアルタ・シュヴァイツ。私の気配にいち早く気付くとはな」

「! エーナ様……?」


《ファルメア帝国軍》に所属し、帝国元帥の娘であるエーナ・ボードル。あまりに予想外の人物の登場に、僕は驚きを隠せない。彼女とは、《影の使徒》との戦いで協力して以来だ。

 帝国の視察団として王国にやってきて、いずれはまた会うこともあるだろうとは思っていたけれど……こんな不意な出会いがあるとは。


「なんだ、この服を見てすぐに気付かなかったか?」


 エーナが眉をひそめて、サングラスを外す。その顔を見れば、間違いなくエーナであることが分かる。

 ……けれど、普段の軍服の印象に比べるとかなり印象が違った。

 何というか、私服はレミィルの騎士正装に近い。要するに着崩した感じで、さらにショートパンツで脚もしっかりと露出していた。


「よくよく思い出してみると、声や話し方もそうでしたね。いえ、色々と雰囲気が異なっていたので、僕の中では一致していませんでしたが」


 エーナのお忍びスタイルとは、実のところすでに会ったことがある。丁度、イリスとアリアと共に出かけた時のことだ。

 あの時はそこまで話もしなかったし、アリアの件もあってあまり記憶には残っていなかった。

 だが、改めて見ると分かる――しかし、どうして彼女がここにいるのだろうか。


「エーナ様が、どうしてここに? ここは学園の敷地内ですが……」

「それは私の台詞でもあるのだが。お前は王国の騎士だろう? 何故、このような学園にいる?」


 ……そう言えば、エーナには僕が学園の講師であるという話はしていなかったか。

 彼女は僕が騎士であることは知っているけれど、それ以上のことについては知らないのだろう。


「僕はここで講師もしているんです。一応、騎士の仕事としての一環ですが」

「ほう……それは、『イリスの護衛』としての任務か?」

「そんなところですね。今日は休みですが。それで、エーナ様は何故ここに?」

「ふはっ、私がここにいるのが可笑しいか? 一応、これでもまだ十六歳の乙女だ……学生という身分には丁度いいくらいなのだが」

「……帝国軍の元帥のご息女がこんなところにいるのはそれこそ可笑しいとは思いますが。お一人ですか?」

「いや、部下を数名連れてきてはいるが、待機させている。メルシェについては――まあ、言わずとも分かるだろう。私はここにちょっとした用があっただけだ。これも軍部としての仕事の一つでな」

「軍の仕事で学園に……?」

「ああ、イリスの通っている学園が良いと思ったので、相談しに来ただけだが。まあ、お前にならば話してもいいだろう。実のところ、私は王国側に『留学』するつもりでな」

「なるほど……留学――留学?」


 僕は思わず聞き返す。エーナがにやりと笑みを浮かべて頷いた。


「ふはっ、お前もそのような驚いた顔をするのだな。随分と可愛らしい――ではなく、意外なところもある。ここの講師をしているというのならば、さらに都合がいいな。色々見て回るつもりではあったが……私はここに通うことに決めたぞ」


 エーナがそんな宣言をする。

 帝国軍元帥の娘の留学――そんな大事と思しき案件が、僕の前で決まった瞬間であった。

およそ1章ぶりに登場するエーナです。

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書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] 大波乱の予感が! 楽しみです!
[一言] 更新お疲れ様です。 休日にも熱心なイリス(^^;; まあいろいろと飛び回られるよりは目の届く範囲に居ると思えば。 新たな波乱wの始まり!? アルタを気に入ったエーナがイリスと学友に? 現…
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